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シロクロPOB  作者: 滝沢美月
第2章 その関係はタブー?
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第13話  どうしようもなくて <秀斗side-2>



 芹沢さんのいる二組と合同の体育の時間。体育館の中央に引かれた緑のネットの向こう側にいる芹沢さんをどうしようもなく意識して――、コートに立った田中も、どうしようもなく意識してしまう。



  ※



 今朝、廊下で芹沢さんは田中のことを「虎太郎ちゃん」と呼んでいた。昨日までは田中君と呼んでたはずなのに、親しげに呼び無邪気な顔で話す芹沢さんと田中の間には、俺には入って行けない雰囲気が漂っていて。昨日見た、二人の後ろ姿を思い出して、あの後、二人の間に何かあったことを悟って、どうしようもなく胸がざわつく。

 何か合ったことは確実なのに、芹沢さんは朝、田中と帰ったことすら、俺には話してはくれなかった。

 教室に入ると、廊下側の席の女子が話してる声が聞こえてしまう。


「ねっ、聞いた? 田中君って同じクラスの芹沢さんって子と付き合いだしたんだってぇ~」

「えーショック……」


 その言葉に、体が反応する。

 なんだ……その話。

 芹沢さんと付き合ってるのは俺のはずだ。そう心の中で唱えても、噂話の方が真実味が合って、俺は不安に押しつぶされそうな気持ちで、その日の授業はぜんぜん頭に入ってこなかった。

 五限目の体育は、芹沢さんのクラスと合同だから、なにか噂についてわかるかもしれないと思ったが、芹沢さんと田中に直接聞きことは出来なくて、だけど二人から目が離せなくて。

 体育はバスケの試合で、最初の試合に出た俺は、コートに田中がいることに気がついて、一方的な闘志を燃やしてしまった。

 そんな俺の視線に気づかずに、田中は迫力のあるドリブル、素早い動きで生徒の間を駆け抜け、シュートを決める。その途端、ネット越しに女子の黄色い声援が体育館に響く。

 男の俺から見ても、田中は格好良いし運動神経もいいし勉強も出来て、すごいと思う。田中はハードル走者だが、普通に百とか二百とか、短距離種目にでてもいいとこまでいくんじゃないかと思うほど足も早い。種目が違うから滅多に一緒に本気で走ることはないからわからないが、田中と俺のタイムはそんなに変わらないんじゃないだろうか。

 だから余計に、芹沢さんと田中が付き合ってるという噂を聞いて――芹沢さんが田中を好きになってもおかしくないと思った。

 ふっと女子の方を見ると、芹沢さんと目が合って、太陽のように眩しい笑顔で、俺に手を振ってくれた。


「小坂くーん、頑張って」


 その一言で、さっきまで胸に渦巻いていた不安が一気に吹き飛んで頬が緩む。

 だが、俺のすぐ側にいた田中も芹沢さんを見てて、声を出さずに口だけ動かして何か言い、それに対して芹沢さんは笑顔で手を振り返した。

 田中は――芹沢さんを好きなのか?

 胸がざわつく。その時。


「小坂っ!」


 名前を呼ばれて、試合中だったことを思い出す。ボールを持った二組の生徒がディフェンスを取られ、こっち――田中に向かって投げたとこだった。上手く体勢を整え、ボールをキャッチした田中の前に、俺は立ちはだかる。


「キャー、田中くーんっ!!」


 田中がボールを持っただけで、女子の声援がすごい。

 田中に対して嫉妬してたのもあるし、芹沢さんの前でいいとこ見せたいと思ったのもある。だから、いつも以上に真剣に、ディフェンスを取る。

 抜けるものなら抜いてみろっ!

 そう思った時、田中がドリブルで抜こうとしたのを見て動くと、それはフェイントで、ボールは田中の手から離れ、ゴールに吸い込まれるように消えて行った。

 ボーン、ポンポンポン……

 シュートが決まり、床に落ちたボールの音が響く。無意識に田中を見ると、クラスメイトとハイタッチして、ちらりと芹沢さんに視線を向けた。

 俺の胸が、じくじくと痛み出す。この気持ちは嫉妬――だよな。

 転がったボールを拾った福田に促されてスローインするためにコートの外に向かいながら、一瞬、芹沢さんを見て視線が合いそうになってそらしてしまった。

 こんな嫉妬心むき出しで格好悪い自分を見られたくなかった――



 試合を終えた俺は体育館の壁に寄りかかって、気持ちを鎮めようとただ目を閉じてじっとしていた。隣のコートで芹沢さんの試合が始まったのを知っていたが、見ていれなかった。だから、ドタッという音と悲鳴で顔を上げて、何が起きたのか俺にはすぐに理解できなかった。

 女子のコートの中、俺が座ってる方とは逆のゴール下に女子が数人固まっていて、その中央に誰か倒れてる。

 視界の端を、田中が血相を変えて走って行くのが見えて、俺は倒れてるのが芹沢さんだと確信して慌てて立ちあがって女子コートに行った。

 やっぱり倒れていたのは芹沢さんで、すぐ側に柴田さんと田中が、その周りを女子と野次馬の男子が数人囲み、駆けつけたのが遅かった俺はその輪の外から覗きこむように芹沢さんの様子を見た。


「芽依、しっかりして。まさか、顔面にあたるなんて……」


 横に跪いた柴田さんが揺さぶるけれど、反応がない。

 どうやら、倒れた理由は顔にボールが当たったからで、見ると確かに芹沢さんの頬は真っ赤になっていた。


「柴田のせいじゃないよ。捻挫の痛みを我慢して無理に試合に出てぼーっとしてた芽依がいけない」


 そう言った田中は床に倒れた芹沢さんを抱き起すと、膝の裏と肩に手を回して抱き上げ歩きだした。

 俺はその行動に焦燥を感じつつも動くことが出来なかった。


「保健室、連れて行く」

「あっ、待って。私も行く」


 芹沢さんを抱いた田中の後を柴田さんが追って体育館を出て行く。残された俺と、体育館に女子の悲痛の叫びが響き渡る。

 田中は、芹沢さんのことを“芽依”って名前で呼んでた――

 そんな今はどうでもいいことに、過敏に反応してしまう。

 それに、捻挫って言ってた。芹沢さんは捻挫をしてる? そのことを俺は知らなくて、田中は知っていた――

 そのことに胸が苦しくなって、やり場のない激しい感情が渦巻く。




第8話の秀斗視点です。

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