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シロクロPOB  作者: 滝沢美月
第2章 その関係はタブー?
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第11話  すれ違いのグラウンド 2



 持久走はスタートの位置が肝心。上位を狙うなら先頭集団、せめて第二集団にはいないと難しい。その為にはスタートの位置を前の方で取って、スタート時のごちゃごちゃっとした動きに巻き込まれないように前へ出ること。

 私と夏凛と小笠原さん、それから水泳部とバスケ部とテニス部の子がスタートの前列に並ぶ。私は短距離選手で、持久走のような中距離は苦手だけど、走ることが好きってことには変わりない。だから、自分の持てる力を惜しみなく使いはたして、自分のベストタイムを出したいと思った。去年は確か四分ジャストだったから、それを切れるといいな。



 持久走を終えてメインスタンドの反対側の芝生スタンドの木陰で休んでると、福田君がそばを通りかかって話しかけてきた。


「柴田さん、さっきの持久走見てたよ。一位おめでとう」

「ありがとう」


 夏凛は照れてるのか、はにかんで言った。

 さっきの持久走で、私と夏凛、小笠原さんは先頭集団で走り、夏凛は三分四十四秒で一位、私は五位で三分五十秒、小笠原さんは七位だった。六百メートルを過ぎたあたりで疲れが出てきた時に、トップを走ってた水泳部の子が早めのラストスパートをかけて……私はそれについていくことができなかったけど、夏凛はその子と競って集団を飛び出し競り勝ったのだった。


「福田君はどうだった? それとも持久走はまだ走ってない?」


 私が聞くと福田君は首を振って肩を落とした。


「十時の回で走ったよ。二位だったけど、たぶん表彰には残れないだろうな」

「二位すごいじゃん。なんで、まだわかんないよ?」

「十時の回にいなかったんだよ、越智も馬渡も田中も小坂も。それに今年の一年は結構いいタイムだしてるみたいだし」


 表彰のトップ三は学年関係なく上位三人が選ばれる。だから、福田君が走った回で二位だったとしても、他の回で入った人のタイムの方が早ければ順位はどうなるかわからない。まだ走っていないと言った越智君は中距離選手だから、きっとかなりいいタイムをたたきだしてくるだろう。それに小坂君と虎太郎ちゃん、二人は短距離選手だけど運動神経がいいから他の種目もトップレベル。そう思うと、十時半の回は十時の回よりもレース展開が早いことが予想できる。

 そう考えて、一つの違和感を覚える。


「あれ、今日は小坂君と一緒に回ってないの?」


 小坂君と福田君は小学校からの付き合いで、すごく仲がいい。私が夏凛と一緒に回ってるように、小坂君と福田君も一緒に回ってると思ってたのに。


「俺は一緒に回ろうと思ってたんだけど、小坂は他のヤツと約束してたみたいで」


 他のヤツ……?

 その言葉に疑問を持って首を傾げた時、フィールドから黄色い歓声が聞こえて、そっちに視線を向ける。


「キャー! 田中君頑張ってぇ」

「田中くーん!」


 メインスタンドから向かって右側のフィールド、反復横とびの測定の場所を囲むようにたくさんの女子が集まっていた。

 私達は走っている人の邪魔にならないようにトラックを渡り、その集団に近づく。人垣越しに覗きこむと、そこには虎太郎ちゃんと小坂君が地面に引かれた三本のラインを右へ左へ、息もつかせぬスピードでサイドステップを踏んでいた。やっている本人たちは汗一つかいていないのに、測定係はあまりの早さに額に汗を浮かべてカウントを打っていた。

 二人があまりに真剣な表情をしてるから、周りで見ている女子はうっとりと、私は固唾を呑んでその様子を見守る。

 測定が終わり係がカウントを読み上げる。


「小坂君、六十三。田中君、六十三」


 その記録に観衆がわぁーっと声を上げ、拍手する。


「すごい。また二人とも同じ。しかも、さっきより記録が伸びてるし」

「田中君が運動神経いいのは知ってたけど、小坂君もすごいのね」

「今日、ずっと二人ともあんな調子でしょ?」


 周りの女子の声が聞こえて、首を傾げる。

 あんな調子って――?

 疑問を投げかけるように隣にいる福田君を見ると。


「小坂、今日は田中とずっと一緒に回ってるみたいだぜ」

「小坂君が虎太郎ちゃんと……?」


 意外な組み合わせに眉根を寄せ二人に視線を向けると、記録が済んだのか、次の場所に移動しようとしてたので呼び止める。


「小坂君。虎太郎ちゃん」


 だけど、二人とも立ち止まってはくれなかった。

 確かに声は届いてて、一瞬、二人とも振り返ったのに、何も言わずに行ってしまったの――

 一体、どういうこと!?

 私は二人に無視されるような形になって呆然とその場に立ち尽くす。そんな私を見て、近くにいた女子――たぶん、虎太郎ちゃんのファンクラブの子達――がくすくすと笑っている声が遠くに聞こえた。


「見て、無視されてるよ」

「いい気味」


 そんなことを言っている。

 私、無視されるようなこと、したっけ――?

 小坂君は仕方ないとしても、虎太郎ちゃんは? ついさっきまでは一緒に仕事してたよね? その時は普通だったのに。

 無視されたのがショックで動けないでいると、夏凛は牽制するようにギロリとファンクラブの女子に鋭い視線を向けてから、側にいた女子に声をかけた。


「ねえ、あの二人、なにかあったの?」


 聞かれた女子二人は、お互いに顔を見合わせてから、少し困ったような顔をして言った。


「よくわからないけど、今日ずっと田中君と小坂君一緒に回ってるのよ。最初は、田中君の測定を見てたんだけど――小坂君ってすごいのね」

「田中君と小坂君って普段は一緒にいることないのに、まるで今日は競ってるみたいに二人で測定回ってるんだけど、それがすごい記録をだしててね。田中君の後をぞろぞろとファンクラブの子がついていくからどんどんギャラリーが増えて、この状態なの」


 んー、つまり、小坂君と虎太郎ちゃんが競ってる??


「なんで、二人が競ってるの?」


 誰に聞くでもなく、声に出てしまった疑問に、福田君が答えてくれる。


「さぁ? 俺もよく知らないんだ。ただ、一緒にまわる約束してるのを聞いただけで」

「ねえ、あなた達、ずっと二人の後を追ってたの?」


 夏凛にすごい剣幕で聞かれ、怯えながら女子が答える。


「ええ……」

「じゃあ、二人が測定済ませた競技は何?」

「えっと、握力、ハンドボール投げ、反復横とびよね?」


 一人が答え、友達に相づちを求める。


「うん、そうっ!」

「じゃあ、あと残ってるのは、立ち幅跳びと上体起こしと持久走と五十メートル走なのね」


 顎に手を当てて考え込むように言った夏凛は、ぱっと顔を上げて私の腕を掴むと、ざくざくと歩き出す。


「えっ、夏凛? どこ行くの?」

「もうすぐ十時半よ。この回の持久走に二人が出るなら、ちゃんと見ないと」


 確かに、二人の持久走を見逃すのはもったいない……


「それに……」


 それに?

 腕を引っ張られて歩きながら、夏凛の言葉に私は首をかしげる。


「芽依はちゃんと小坂君を応援しなきゃダメでしょ!」




加筆しました。2011.5.29

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