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シロクロPOB  作者: 滝沢美月
第2章 その関係はタブー?
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第10話  すれ違いのグラウンド 1



「私と小坂君って、どう見える?」


 虎太郎ちゃんの部屋。

 たくさん泣いて少し気が済んで、虎太郎ちゃんに聞いてみた。

 私と小坂君はほんの一月前から付き合いはじめたけど、友達の延長といった感じで、登下校を一緒にしたり、時々メールや電話をするような関係。日曜は部活があるから、休みの日にどこか二人で出かけたりっていうのも数えるくらいしかない。だから、私達が付き合ってることを知ってるのは、部内でもごく一部の人――たぶん、夏凛と小笠原さんと福田君と相川先輩と武先輩――だけなんだ。だから、虎太郎ちゃんが知らないだろうことも分かってて、あえて質問したのだ、どんな関係に見えるのか――

 じーっと虎太郎ちゃんを見つめると、虎太郎ちゃんはゆっくりと口を開いた。


「仲間?」


 そう言われるだろうなとは予想してたけど、実際に聞くと、鋭い刃物を突き付けられたように言葉が重く胸を突き刺さる。

 ははっ、そうだよね……乾いた笑いが漏れる。


「私と小坂君、付き合ってるんだ」


 そう言ってみたけど、虎太郎ちゃんは驚かずに、ただ私を見つめ返すだけ。あまりに、恋人同士に見えなくて、ビックリしちゃうよね。私はくすりと笑う。


「知らないって分かってたよ。あんまり人には言ってないから知ってる人は少ないし、でも、知らない人から見たら、私と小坂君って仲間――ただの友達にしか見えないのかな?」


 虎太郎ちゃんが悪いわけじゃのに、その事実に――小坂君に、俺って彼氏? って聞かせちゃうほど、私と小坂君の絆は儚いのかな?

 悲しいんじゃなくて、ダメな自分が悔しい。小坂君にあんなこと言わせてしまった自分が、情けない――


「小坂と、何があった――?」


 今にも泣きそうな私につられたのか、虎太郎ちゃんが悲痛な瞳、掠れた声で言う。


「怪我のこと黙ってたから、怒ってるみたい。しばらく、朝一緒に行くのやめようって言われたの。きっと、馬鹿な私に呆れてるんだ……」


 呆れてるだけなら、まだいい。嫌われてないと、いいな――



 次の日。私は小坂君と待ち合わせしてる電車よりも数本遅い電車に乗って学校に向かった。避けるみたいなことしたくなかったけど、しばらく一緒に行くのやめようって言われてても、いつもの時間の電車に乗って小坂君がいないのを見るのは――耐えられないと思ったから、自分から時間をずらしたの。

 小坂君に避けられたって思うよりも、自分が避けたって思う方が、幾分かましだった。

 でも同じ学校で、しかも一学年四クラスしかないから、廊下でばったりすれ違うのなんてよくあることで――よくあることだけど、今日に限って何度も小坂君に会ってしまった。

 移動教室の時、廊下ですれ違った小坂君は、こっちをちらりとも見ずに行ってしまった。いつもなら名前を呼んで笑いかけてくれるのに、今日は私の方を見てさえくれない――


「芽依、小坂君と喧嘩でもしたの?」


 夏凛の問いに、苦笑が漏れる。


「喧嘩――なのかな、わかんない。ただ、小坂君を怒らせちゃったみたいで」

「はぁー、何それ? じゃあ、謝って早く仲直りしちゃいなさいよ」


 いつもの私なら、そうしてると思う。だけど、小坂君は誤っただけでは許してくれない気がする。何に対して怒ってるのか――ちゃんと分かってない私は、何度誤っても、小坂君には受け入れてもらえない気がして。

 弱気なのは私らしくないけど、小坂君に嫌われるのだけは怖くて――自分から動きだせないでいた。



 昨日のバスケで痛みがひどくなり、念のために整形外科に行って検査をしてもらう。症状は軽く、安静にしていれば数日で治ると言われ、今度こそ、捻挫が治るまで大人しく部活を休むことにした。

 だけど、そのせいでますます、小坂君とすれ違ったまま五日が経ってしまった。

 今日は、病院の先生からは運動してもいいと言われ、久しぶりの部活だったのに、こういう日に限って、小坂君は美術部の日でいないんだ。

 ずっと話さないままだったから、正直、部活で顔を合わすのは怖かったけど、いつまでもこのままではダメだと思ってたから、早く捻挫を治して部活で小坂君に会いたかったのに――ちょっと気分が落ち込んでしまう。


「芽依、足が痛むのか?」


 グラウンドにぼーっと立ってたからか、虎太郎ちゃんが心配そうに声をかけてくる。


「ん、違うよ。ちょっと考え事してただけ」


 無理やりにでも笑顔を作って、元気なことをアピールする。虎太郎ちゃんには今回のことでもう十分迷惑かけてるから、これ以上心配させる訳にはいかないよね。


「明日は体力測定の日だから、体慣らしに今日はしっかりと走っておかないとねっ!」


 そうだよ、明日は待ちに待った体力測定の日! 久しぶりに体を動かすのが体力測定の当日だなんてことになったら、いつもの記録をだすことができないもんね。とにかく今は小坂君のことは一旦考えるのをやめて、気合い入れてしっかり練習しなきゃっ。

 体力測定に向けて気合十分の私に対して、虎太郎ちゃんは眉根を寄せる。


「いよいよ明日か、体力測定日……」


 虎太郎ちゃんを見上げると、複雑な表情で呟いて、空を見上げた。



  ※



 体力測定、当日。

 我が熊猫高校は、自由な校風、自主性を重んじる学校で、この体力測定日もちょっとしたイベントと化して行われる。高校の目の前にある陸上競技場を半日貸し切り、全員参加で学年クラス関係なく好きな順に、持久走、五十メートル走、立ち幅跳び、反復横とび、ハンドボール投げ、握力、上体起こしの測定を行う。もちろん運営は体育委員と各運動部から二名――体力測定実行委員――が派遣され、生徒が時間ごとに各競技の測定や審判もすることになってるから、体育委員と実行委員は仕事がない時間にすべての測定を行わなければならなくて、少し慌ただしい。

 私と虎太郎ちゃんと実行委員のテニス部二人は、九時から十時まで五十メートル走の係で、陸上部ということで、虎太郎ちゃんがスターター、残り三人が測定・記録をすることになった。

 一度に走るのは三人、測定はそれぞれがストップウォッチを持ち担当一人のタイムを計る。

 虎太郎ちゃんの心地よく響く美声でスタートの掛け声がされ、それと同時に旗が振り上げられる。それを合図にストップウォッチを押し、生徒が五十メートル地点を駆け抜けると同時にストップウォッチを止める。

 生徒は皆、体操服の前後に学年、クラス、名前が大きく書かれたゼッケンをつけている。それを参考に、ストップウォッチの画面に表示されたタイムを生徒に伝え、パソコンにそれぞれタイムを入力する。それをひたすら一時間繰り返し、交代の生徒がやって来ると作業を引き継いで、その時点の計り終えた生徒のタイム一覧から上位十名の名前を書きだした紙を、メインスタンドの下の掲示板に貼りに行く。

 この体力測定の醍醐味は生徒による運営ともう一つ――男女それぞれの各競技の成績上位三名と競技総合一位は表彰され景品が出ること。だから、とくに体育部員の場合、この体力測定に気合いを入れて臨む生徒は多い、私もその一人で。



 仕事を終えた私は、夏凛と合流して測定を一緒に回る約束をしていた。仕事がなければ、この日は登校時間も自由で、持久走だけ開始の時間が決められてるが、それさえ守れば、何時に登校してきてもいいし、表彰は後日だから測定がすべて終われば勝手に帰っていいのだ。

 私はトラックがよく見渡せる掲示板の前で、夏凛が来るのを待つ。

 二年生の持久走の時間は、男子が十時と十時三十分、女子が十時十五分と十時四十五分から開始と決まっているから、だいたいの生徒が十時頃に来る。夏凛もそうみたいで、まだ競技場に姿が見えない。

 そーいえば、虎太郎ちゃんも仕事を終えるとすぐに姿が見えなくなってしまった。十時の持久走に出るために急いでたのかな?

 トラックに視線を向けると男子の持久走が始まってて、たけどその中に虎太郎ちゃんの姿も――小坂君の姿も見えない。私が仕事をやってる時も、五十メートル走の測定には来なかったし、競技場の中でも姿がなかったと思う。小坂君も、今日はゆっくり登校してきてるのかな――

 はぁー。そう思って、大きなため息が漏れる。小坂君と気まずくなってからすでに一週間が経ってる。いいかげん、話さなきゃと思ってるのに、あの日以来――避けられてるのか、廊下ですれ違うことはなくて、体育で一緒になった時も、話しかけようとすると逃げられてしまってる気がした。

 私達――このまま、終わっちゃうのかな……

 そう考えると、どうしようもなく胸が苦しくて、落ち込んでしまう。


「芽依、お待たせ」


 気分が沈んでしまった時に、タイミング良く夏凛が現れ、気持ちを切り替えて測定に向かう。

 とりあえず、測定が終わるまでは目の前のことに集中しなきゃっ。

 私と夏凛はまずフィールドに向かい、空いてる場所で軽く準備運動をし、反復横とびの測定をする。測定が終わった頃、トラックで行われてた男子の持久走の最後を走ってた人もゴールし、十時十五分からの女子の持久走に出るため、メインスタンドの正面フィールドの持久走のスタート地点に行く。


「夏凛は中距離選手だから持久走はトップ三に入れそうだよね」

「んー、どうだろう。相川先輩もいるし、確か去年一位だったのは水泳部の子だよ」

「水泳部の子、持久走強いもんね……。でも! 陸上部の意地をみせてやらなきゃっ!」


 私が意気込んで言うと、夏凛は痛い質問をする。


「そーゆう芽依は、五十メートル走でトップ三入れる自信あるの?」


 うぅ……


「あっ、持久走は夏凛についていけるように頑張るよっ!」


 時間になるまでそんな会話をして座って待ってると、小笠原さんがやってきた。


「小笠原さんも十五分からの持久走に出るの?」

「うん。二人もそう?」

「そうだよ」

「陸上部二年女子集合だね。この回、運動部がけっこう多いから、ペース早くなりそうだね」


 小笠原さんは言って、ごくりと唾を飲み込んだ。

 周りを見ると確かに運動部の子ばかりで、足の早い子が多いほど先頭集団は早く走者をリードしていくことになるから、平均タイム自体が高くなることになる。陸上競技に携わっていなくても足の早い子はたくさんいる。部活や市の陸上競技会では味わうことのできないハードな競技になりそうな予感に興奮し、ぶるりと体を震わせる。緊張と共に早く走りたくってうずうずしてくる。




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