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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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悪魔の家

作者: こたつぬま
掲載日:2026/09/19

暗闇を冒険してるとぷ〜んといい匂いが漂ってきた。

鼻をくんくんさせる。

なんとも言えない香ばしい匂いだ。

食欲を一気に刺激されてお腹がグ~って鳴る。

もう我慢できない!

匂いがする方向にダッシュする。

一件の立派なおうちが見えてきた。

窓から知らないおじいさんが見える。

おじいさんはものすごい形相でボクをにらみつける。

「こっちに来るんじゃない!近づくな!」

ボクは一瞬、ためらったけど足を止めなかった、

玄関の扉は開けっぱなしだ。

ごちそうを独り占めにするのはずるいよ!

おじゃましまーす♩

玄関マットで足を拭いてから中に入る。

室内はいい匂いが充満していた。

ああ、たまらない。

あれ?

足がベタベタして動かないぞ?

ネバネバする糸が絡みついてる。

これじゃごちそうのある真ん中のテーブルに近づけない。

いい匂いがするのに食べられないなんて拷問じゃないか!

ボクは暴れた。

暴れれば暴れるほど体が床に沈んでますます動けなくなる。

最悪だ!

ネバネバする糸は体にもベッタリ引っ付いてる。

どうしよう!

「ママー!パパー!おにいちゃーん!」

ボクは声の限りに叫んだ。

「うるさい!やめろ!どうせもう助からん!」

おじいさんは表情を曇らせる。

それでも泣き叫んでいると家の外にだれかの気配がした。

ボクは窓の外を見る。

見慣れた家族の顔があった。

「パパ!ママ!お兄ちゃん!」

パパは窓から入ろうと身を乗り出す。

「ジローいま助けてやる!」

「ダメよ。あなたまで出られなくなるわ」

ママはパパを止めた。

パパは肩を震わせる。

「すまんジロー。どうにもできないんだ」

お兄ちゃんは悔しそうな表情を浮かべる。

「ジロー。代わってあげられなくてごめんな」

「ここにいたら魔神の足に踏み潰されるわ。もう行きましょう。さようならジロー」

「行かないで!見捨てないでよ!」

「愛してるわジロー」

「来世ではまた兄弟になって一緒に遊ぼうな」

「ああジロー、我が息子よ。無力なパパをどうか許しておくれ!」

3人が去っていく背中をずっと見つめる。

振り返りもしないなんてひどい!

「うそだよね?きっと戻ってくるよね?だれか助けて~!」

何時間泣き叫んだだろう。

喉がつぶれて涙も枯れ果てた。

家族団欒の日々を思い返す。

家族みんなでいっしょにご飯を食べた日々、

お兄ちゃんと追いかけっこして遊んだ日々が脳裏に蘇る。

楽しかったなぁ。

懐かしいなぁ。

とても幸せだった。

温かい思い出にどっぷりと浸る。

翌朝、ボクは死の運命を受け入れた。

暗闇の中でごちそうの匂いをかぎながら餓死するのは確実だ。

体力的に死ぬのは3日後だな。

寡黙なおじいさんに声をかける。

「ねえ、おじいさんお話ししようよ。そしたらさびしくないよ」

「やなこった。わしゃおぬしとちがってまだ希望があるんじゃ」

「絶望しかないよ。どうがんばってもここからは逃げられないんだから」

「ふん。だまって見ておれ」

おじいさんは自分の足を引きちぎった。

「うぐっ!」

痛みに顔をしかめながら窓枠に手をかける。

「あばよこぞう。たっしゃでな」

「すごい!ボクの分も長生きしてね!」

ボクは窓から遠いし体が床に埋まりすぎてる。

同じ方法で脱出できない。

「まかせておけ。確実におぬしよりは長く生きるわい」

スタッと窓の外に降り立つ。

その瞬間、おじいさんの体は空中に持ち上げられた。

「ぬおっ!?」

すごい怪力だ。

こんなことができるのはあいつだけだ。

窓の外に異形の怪物の姿が見えた。

やっぱり!

「はっはなさんか!このばかタレ!」

怪物は鋭い牙でおじいさんに噛みつき毒を注入する。

「ぐわぁあああああああ!」

体が麻痺したおじいさんは抵抗できなくなり生きたままむしゃむしゃと怪物に食べられる。

残酷な咀嚼音が闇に響いた。

怪物は窓の中をひょいと覗くと立ち去っていった。

一目で罠だと見抜いたか。

ボクより頭がいい。

世の中一寸先は闇だ。

おじいさんは足をちぎってまで脱出したのにかわいそう。

でも天国から地獄のあまりの速さにちょっと笑える。

こんな状況でも他人の不幸を笑える余裕があるなんて驚きだ。

床におじいさんの足だけが残っている。

心の中でそっと手を合わせた。

罠にかかって2日が経過した。

空腹でぼーっとしてるときれいなお姉さんがこっちに走って来る。

「お姉さん近づいちゃダメだ!」

「ムリよ!こんな香ばしい匂い嗅いだことないんだもん!」

お姉さんは悪魔の家に飛び込んでくる。

すぐに後悔した。

「トラップだったのね。まんまと引っかかったわ」

「だから来ちゃダメだって言ったのにぃ」

ボクはがっかりする。

おじいさんもこんな気持ちだったのかな。

だけど天国に行くまでの間、話し相手ができたからまあいっか。

お姉さんはニコッと微笑む。

「ありがとう。あなたのおかげで一歩目で止まれたわ」

「どっちにしろ動けないんだから意味ないよ」

「そうでもないわ」

「?」

「さあ死ぬまでお話ししましょう。なるべく長生きしてよね」

「うん。いっぱいおしゃべりしよう♩」

ボクはお姉さんといっぱいおしゃべりした。

家族のことや好きな女の子のこと。

毒の霧に襲われて逃げきった武勇伝なんかも話した。

お姉さんを1人にさせるのは忍びなくてがんばって5日ほど生き延びる。

「・・・もうダメみたいだ。最後に会えたのがお姉さんでよかった。天国で会おうね」

「あたしもすぐに行くわ」


            ※


今日は燃えるゴミの日だ。

オレは1週間前に仕掛けておいたゴキブリホイホイを覗いた。

「ゲッ!卵産んでやがらぁ。気持ちわりぃ」

ゴキブリは一度に30匹ほど産むという。

入り口付近で母親は息絶えている。

死んでる赤ん坊は15匹ぐらいか。

残りは動けない赤ん坊の体を橋にして外に脱出したな。

なんとしてでも生きのびようとする執念がすさまじいね。

「もっと奥で死んでりゃあなぁ。運がいいゴキブリだぜ」

他にもゴキブリの足だけ残ってる。

こいつも生への執着がすげえ。

あと子供のゴキブリがエサの近くで死んでいた。

いい匂いが嗅ぎながらよだれ垂らして死んでいったわけだ。

人間様も残酷だよなぁ。

今度から殺虫剤かハエ叩きで瞬殺してやっかな。

オレはゴキブリホイホイを燃えるゴミの袋に突っ込んでゴミ捨て場に運んだ。

叙述トリックです。バレバレでした?(^^;;

魔神の足はハエ叩き。毒の霧は殺虫剤。

主人公たちはゴキブリです。

悪魔の家はゴキブリホイホイ。

私は何度か外に逃すことに成功してます。

アシダガグモに処分してもらったり。

あまり自分の手を汚さないようにしてます。

仏教徒なので無益な殺生はしません。

都会だとこうは行かないんだろうなぁ。

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