怪人ヤツメウナギ男の苦悩
C県F市某所の廃ビル。本日この場所でとある国際犯罪組織が極秘作戦を展開する予定であった。
「そこまでだ!犯罪結社『ミスティック』!」
声に驚き振り返る一同。その中央にいるのは先日隊長に就任したばかりのヤツメウナギ男である。
「何者だ。我らの正体を知るとは」
「われら、世界の邪悪をくじくもの。ジャスティスファイブ!」
思わず八つの目を見開くヤツメウナギ男。そこには五人の人物が決めポーズを取って立っていた。
幹部から聞いていた一団。隊長格がすでに数名倒されており、細心の注意を払って行動せよ、と。
我が隊にも試練の時が来たか。ヤツメウナギ男は作戦を一時中断し、戦闘の覚悟を決める。
「知っているぞ。我らの活動妨害をそこかしこでしている連中の事は。
だが不運だったな。常に貴様らの策謀が上手くいくとは思わぬことだ。
このヤツメウナギ男に遭遇したことを後悔しながら死ぬがよい!」
「…いやあなた、ヤツメウナギじゃないじゃない」
五人のうち黄色いコスチュームの、シルエットからすると女が妙な事を言い出した。
『…えっ?』
ヤツメウナギ男隊全員が疑問の声をあげる。隊長は確かに彼、ヤツメウナギ男であるが…。
平隊員たちも何が何だか分からない、という体である。なぜそこを否定されたのか。
「…あー、ちょっと待て。わたしは確かにヤツメウナギ男だぞ?目も八つあるし。
組織での登録名称もそうだし、給与明細だって名前はそうなってる」
「ヤツメウナギは八つも目がないよ。つか給与明細あるんだ」
…………この沈黙は痛い。
「あのね、ヤツメウナギは『ウナギ』ってついてるけどウナギの仲間じゃないの。
ウナギに形状が似てるってだけで、魚類ですらないの。円口類なの」
「え、えんこうるい?」
五人組の別の一人、黒いコスチュームの男が口を開く。
「原始的な脊椎動物の一種だ。ウナギと同じように食用にされることはあるが、
生物としては別物だ。いつでに言うとウナギ顔もしていない。シールドマシンに似ている」
「しーるどましん…」
今度は白いコスチュームの女がスマホを取り出し、操作して液晶をこちらに向けた。
「ほらこれ。これがヤツメウナギ。顔つきとか全然違ってるでしょ?
目のそばに穴状のエラが七つあって、だから『ヤツメ』ってついてるのよ」
そこには確かに、ウナギと似ても似つかぬ面相の、しかしウナギに似た生き物が映っていた。
これが『ヤツメウナギ』だとすると、この部隊の隊長は一体何者なのだろうか?
「おい、お前なにか知らないか?わたしの改造について」
ヤツメウナギ?男は一番近くにいた部下に問いかける。
「いや分かんないですよ。改造業務はプロフェッサーが一手に引き受けてますし。
平隊員のオレがそんな情報持ってる訳ないじゃないですか」
もっともである。
「じゃ、じゃあ誰かこの中で知っている者はいるか?どんな些細な事でもいい、
これはわたしの存在意義に関わってくる問題だ!」
隊員たちは困惑しつつ顔を見合わせる。そのうちの一人が戸惑いつつも、
「やっぱりプロフェッサーに直接聞いてみないとはっきりしないのでは…」
別の隊員たちの発言も、
「技術者たちもプロフェッサーの指示に従って動いているだけですし」
「幹部の方々も作戦立案はやってますが、改造に関しては門外漢ですよ」
「そもそもプロフェッサーも改造の結果報告しかしてないようです」
と解決に程遠いものばかりである。
「ええい、分かったっ。作戦は中止!プロフェッサーに直接聞こう!回線を繋げっ!」
とヤツメウナギ?男が叫ぶも、
「あっ、プロフェッサーならトゲアリトゲナシトゲトゲ男の開発に向けて先週から長期出張中ですよ」
の平隊員の一言で崩れ落ちた。
ここまで放置状態のジャスティスファイブだったが、作戦中止と聞いていつの間にか引き上げていた。
どうやらあまりの事に哀れに思われ気を遣われてしまったらしい。
「我々ってプロフェッサーに、いきものバラエティの影響とか趣味で改造されてるんか?」
ヤツメウナギ?男のこの疑問は、まだしばらくの間解決しそうにない。




