3話
その時。
神崎が、一歩前に出た。
ざわめきが、わずかに揺れる。
自然と視線が集まる。
神崎は、周囲を一度見渡し――
まっすぐに王女を見据えた。
迷いはない。
その目には、はっきりとした“意思”が宿っていた。
「……話は、分かりました」
静かな声だった。
だが、不思議とよく通る。
「俺たちは、この世界を救うために呼ばれたんですよね」
王女は、ゆっくりと頷く。
「はい。その通りです」
その一言を聞いた瞬間、
神崎の表情が、わずかに引き締まった。
「だったら――やるしかない」
言い切る。
その声には、迷いも、不安もない。
ただ、“当然の結論”としての響きがあった。
「元の世界に帰れる保証があるかも分からない。
正直、いきなりすぎて意味も分からない」
一度、言葉を区切る。
「でも」
神崎は、一歩前に踏み出した。
「目の前で“助けてくれ”って言われて、
それを無視できるほど、俺は冷たくない」
その言葉に、空気が変わる。
クラスの何人かが、はっとしたように顔を上げた。
「それに」
神崎は、軽く息を吐く。
「せっかく、こういう力をもらったんだ」
視界に浮かぶ、自分のステータスへと目を向ける。
その中心にあるジョブ――【勇者】。
「なら、やれることは全部やる」
顔を上げる。
「この世界、救うんだろ?」
まっすぐな言葉だった。
誰かに向けたというより、
この場にいる全員に投げかけた問い。
だが同時に、それは“宣言”でもあった。
「俺は――やる」
静かに、だが確かに響く声。
「勇者として、この世界を救う」
その瞬間。
ざわめきが、熱に変わる。
「……すげえ」
「マジで言ってる……」
「でも……なんか、かっけえな……」
誰かがそう呟き、
それが連鎖するように広がっていく。
「俺もやるよ」
「ここまで来たんだしな」
「どうせなら、やりきるしかないでしょ」
空気が、一つにまとまり始める。
不安は消えていない。
だがそれ以上に、“前に進む理由”が生まれていた。
王女は、その様子を静かに見つめ――
柔らかく微笑んだ。
「……ありがとうございます、勇者様」
その呼び方に、神崎はわずかに苦笑する。
「様とか、いいですよ」
「いえ。あなたはすでに、この国の希望です」
その言葉に、周囲の空気がさらに引き締まる。
神崎は、少しだけ照れたように頭を掻いた。
「……じゃあ、その期待に応えられるように頑張りますよ」
軽く言ったはずのその言葉が、
場の中心に、強く根を張る。
希望。
それが、確かにこの場の全員に生まれていた。
――ただ一人を除いて。
蒼真は、その光景を静かに見ていた。
誰もが納得し、前を向き、役割を受け入れていく。
綺麗な流れだった。
物語として、あまりにも“正しい”。
(……なるほど)
心の中で、静かに呟く。
勇者がいて、仲間がいて、世界を救う。
誰もが望む形。
誰もが信じる展開。
だからこそ――
(歪んでる)
違和感は、消えない。
むしろ、はっきりと形になっていく。
その時。
ふと、隣から小さな声がした。
「……蒼真くん」
詩乃だった。
「どう思う?」
その問いに、蒼真は少しだけ間を置いた。
視線は、神崎のまま。
「別に」
短く答える。
「間違ってはない」
詩乃は、わずかに目を細めた。
「でも?」
蒼真は、ほんの一瞬だけ笑った。
「――正しすぎる」
その言葉の意味を、
詩乃だけが、少しだけ理解したように小さく頷いた。
「そっか」
それ以上は、何も聞かない。
ただ――
「じゃあ、ちゃんと見とくね」
そう言って、詩乃は前を向いた。
神崎の言葉に応えるように、
クラスの空気は完全に一つになっていく。
希望に満ちた空気。
選ばれた者たちの高揚。
その中心で。
蒼真だけが、静かに立っていた。
まるで――
最初から、その輪の外にいるかのように。
月日が凄く立ちましたね、これからは月イチに絶対1個は出していきたいです!!




