2話
王女は一度、静かに息を整えると、集まったクラス全員を見渡した。
先ほどまでざわめいていた大広間の空気が、その仕草ひとつで自然と静まっていく。
「それでは、この世界での力の在り方について説明をさせていただきます」
そう告げてから、王女は自らの胸元に手を当てた。
「この世界では、力は視える形で与えられます」
その瞬間――
視界の端に、淡い光が走った。
「な、なんだこれ……?」
「画面? ステータス……?」
戸惑いの声が、あちこちから上がる。
王女はそれに頷いて応えた。
「それが、皆さまのステータス画面です。
この世界における“存在の情報”が、そこに記されています」
蒼真の視界にも、半透明の枠が浮かんでいる。
名前。
レベル。
能力値。
そして、中央に表示される“ジョブ”。
「ジョブは、その方が最も扱いやすい役割を示します。
剣を振るう者、魔法を操る者、支援に長けた者……」
説明を受けるまでもなく、クラスのあちこちから声が上がった。
「俺、【剣士】って出てる!」
「【魔術師】だって!」
「レベル1……ここから強くなれるってこと?」
王女は微笑みながら、続ける。
「はい。レベルは経験によって上昇します。
それに伴い、能力値も成長し、新たなスキル習得する ことも可能です」
その説明は丁寧で、分かりやすい。
まるで最初から、"そう理解されること"を前提に作られた仕組みだ
蒼真は、自分の視界を意識した。
確かに、表示はある。
項目も、構成も、他と同じだ。
名前も、数値も、揃っている。
ーーだが。
レベルの欄に目を向けた瞬間、蒼真はわずかにに
眉をひそめた。
(想定外、か……それとも)
蒼真は、自分の視界に浮かぶ表示から、ゆっくりと意識を離した。
数値を見間違えたとは思わない。
もう一度確認する必要もない。
レベルは、最初から上限。
能力値は、偏りなく、だが不自然なほど整っている。
成長曲線を描く余地がない――最初から「完成形」として存在している。
まるでこの世界が、
“これ以上変わる必要のない存在”として自分を定義しているかのようだった。
周囲では、まだざわめきが収まらない。
「え……わ、私……」
日和が小さく声を漏らし、戸惑ったように自分の前に浮かぶ画面を見つめていた。
淡い光が、その指先に反射して揺れる。
「【聖域支援師】……?」
聞き慣れないジョブ名に、日和は思わず周囲を見回す。
「名前からして、ただ者じゃないよね」
朱音が軽く笑いながら覗き込む。
「支援系、なのは分かるけど……」
詩乃は画面の端から端まで視線を走らせ、静かに呟いた。
「これ、後ろにいるだけの役じゃないよ」
王女は、その言葉に反応するように一歩前へ出た。
「三上日和さまのジョブは、王国でも極めて稀なものです」
大広間の空気が、自然と引き締まる。
「【聖域支援師】は、回復・強化・防御・状態制御・戦場補助を統合した支援特化の完成形。
仲間を守るだけでなく、戦場全体を“最適な状態”へ導く役割を担います」
「そ、そんな……」
日和は困ったように視線を伏せる。
「私、そんな大それたこと……」
「できるよ」
朱音は迷いなく言った。
「日和は昔からそうだった。
自分じゃ気づかないけど、周りはちゃんと助けられてた」
「……うん」
詩乃も柔らかく頷く。
「蒼真くんが無茶するとき、空気が変わるの、一番早く気づくのも日和だった」
その言葉に、蒼真は一瞬だけ詩乃を見る。
詩乃は、いつものように少しだけ首を傾けて、穏やかに笑った。
「……普通だよ」
蒼真は短くそう返す。
だが、詩乃はそれ以上何も言わなかった。
ただ、ほんの一歩、蒼真との距離を詰める。
「普通、って言うとこがさ」
小さな声で、詩乃は続ける。
「蒼真くんらしいよね」
蒼真は答えない。
だが、視線だけは逸らさなかった。
朱音は、自分の画面に目を戻す。
「……私のは」
一拍置いて、はっきりと告げる。
「【不落戦衛】」
王女は頷いた。
「防御・耐久・自己再生に優れた、前線固定型の高位戦闘職。
倒れないことを使命とする、“戦場の支柱”です」
「分かりやすいね」
朱音は拳を握る。
「守るって決めたら、最後まで立ってる」
「無理しすぎないで」
日和が心配そうに言う。
「倒れないのが仕事だし」
朱音は肩をすくめた。
そのやり取りを聞きながら、詩乃は自分の画面をもう一度見つめた。
「……私のは」
少し間を置いて、静かに告げる。
「【深淵詠唱者】」
その名が響いた瞬間、
蒼真は、わずかに詩乃の方を見る。
王女の表情が、はっきりと引き締まった。
「詩乃さまのジョブは、禁域に近い高位魔導職。
世界の法則そのものに干渉する術式を扱います。
代償は大きいですが――その一撃は、戦況を覆すでしょう」
「そっか」
詩乃は、楽しそうに微笑む。
「蒼真くんが見てくれるなら、頑張れるかも」
「……無茶はするな」
蒼真は、低く言った。
詩乃は、その言葉に少しだけ目を細める。
「心配してくれるんだ」
「事実を言ってるだけだ」
「それでいいよ」
詩乃は、満足そうに笑った。
王女は、全体を見渡す。
「……そして、他の皆さまも同様です。
今回召喚された方々は、王国の歴史でも稀に見る“粒ぞろい”」
期待と高揚が、場を満たしていく。
蒼真は、もう一度だけ自分のステータスを意識した。
説明のないジョブ。
完成された数値。
そして、この世界の理から、明確に外れた存在。
詩乃の視線を、確かに感じながら。
(……なるほど)
これは、育てるための力じゃない。
導かれるための力でもない。
ただ――
在るためのものだ。
「皆さまは、この世界に必要な存在です」
王女の言葉が、静かに場を締めくくる。
使命。
役割。
期待。
それらを疑いなく受け入れる空気の中で。
――蒼真だけが、少し違う場所に立っていた。
詩乃は、その隣に、自然と並ぶ。
「ね、蒼真くん」
小さな声で囁く。
「どこに行くとしても……私は、ちゃんと見てるから」
蒼真は答えない。
だが、その言葉を、確かに聞き逃さなかった。
その時。
神崎が、一歩前に出た。
神崎は前に出て何を発する。
区切りって意外と難しいですね、もっと1つに文字数入れた方がいいですかね?




