第六話 森の奥、主役の気配
森の奥へ進むほど、空気が変わる。
静かだ。
風も吹かない。
葉も揺れない。
「ソラ?」
『クル』
ソラも気づいている。
ここはさっきまでの森と違う。
俺は感覚を研ぎ澄ます。
「《調理魔法〈クッキング・アルケミア〉》」
魔力を薄く通す。
すると――見えた。
地面の下に――重くて深い”味の塊”がある。
(......なんだこれ)
普通の穀物じゃない。
もっと古い。
もっと静かで......
もっと――
「長くここにある味だ」
『クル?』
「掘るぞ!」
♦
石を拾って地面を掘る。
少し掘っただけで、手応えが変わった。
「......…当たりだ」
土の中から出てきたのは、
細長い殻に包まれた粒の束。
稲に似てる。
でも色が違う。
黄金色じゃない。
淡く光る白銀色。
「なんだこれ......」
触れたその瞬間――
ぞくり、と背筋が震えた。
スキルが反応した。
|古代栽培種
|高魔力反応
|保存年数:測定不能
|調理適正:最上
俺は息を止めた。
「…….測定不能?」
『クル?』
「これ、相当昔の穀物だ」
周囲を見る。
自然の森。
人の気配はない。
でも――
穀物は自然には育たない。
「誰かが植えた跡だ」
『クル….?』
ソラの声が少しくくなる。
俺は土を払って、穀物を持ち上げた。
「しかもこれ、野生化していない」
本来なら、何百年も放置された穀物は形が崩れる。
味も落ちる。
なのにこれは違う。
今収穫したみたいに整っている。
「まるで......」
喉が静かになる。
「ずっと誰かが守っていたみたいだ」
その時だった。
――風が吹いた。
さっきまで無風だった森に、急に。
葉が揺れる。
草が鳴る。
ソラが羽をわずかに広げた。
「….ソラ?」
『クル』
警戒じゃない。
――敬意だ。
「.......なるほどな」
俺は穀物を袋に入れた。
「ここ、”畑”だったんだな。昔の」
誰かがここで暮らしていた。
誰かがここで育てていた。
誰かがここで料理していた。
そして今――。
「次に使うのが俺ってわけだ」
不思議と怖くはなかった。
「よし」
俺は立ち上がる。
「これで本当に全部そろった」
『クルッ』
「帰るぞ、ソラ」
袋を肩に担ぐ。
「空島初のオムライス、作るぞ!」
(それにしても、神様がくれたこの袋便利すぎるな。
必要になりそうな調理道具全部入ってるし、異空間に繋がってるのか?
どれだけでも入りそうだ。)
歩き始めた瞬間――
ぐぅうううううう。
腹がなった。
「.......」
『クルル』
ソラが俺の腹を見た。
「違う、今のは合図だ。料理開始の合図」
ソラが羽をパタパタさせる。
(分かってる。こいつも腹が減っている。)
俺は森の出口へ歩き出した。
(小屋に戻ったらやることは決まってる。)
穀物を研ぐ、炊く、炒める、包む。
そして――
「最高の一皿を作る」
風が吹く。
空島の空は、相変わらずどこまでも青い。




