第二話 出会いと目的、これから
翌朝、小屋の扉を開けると、朝の空気が一気に流れ込んできた。
冷たいけど、嫌な冷え方じゃない。
「......よし。今日は森だな」
『クルッ』
返事の代わりに膝の上で空が小さく鳴いた。
包帯を巻いた羽はまだまだ痛むはずなのに、外に出られるのが嬉しいらしい。
「無理はすんなよ。今日は下見みたいなもんだ」
『クルゥ』
分かってるんだかどうなんだか。
俺は森へ向かって一歩踏み出しながら、意識を切り替える。
「《調理魔法〈クッキング・アルケミア〉》......起動」
魔力を流すと視界がわずかに変わる。
色、匂い、温度――
”食べれるもの”と”食べれないもの”の境界が感覚として浮かび上がった。
(......相変わらず、便利すぎるスキルだな)
ふと、昨日の夜のことが脳裏をよぎった。
♦
空が丸くなって眠ったのを確認して、俺は小屋の床に腰を下ろしていた。
静かすぎる夜だった。風の音すら遠く感じる。
(異世界転移って、もう少し説明とかないのかよ......)
そう思った瞬間、視界がふと白く染まった。
「――え?」
身体にある感覚がない。
なのに、意識だけが上に引っ張られていく。
気づいたときには、雲の上みたいな場所に立っていた。
『おや、驚かせてしまったかな』
背後からのんびりした声。
振り返ると、白い衣をまとった、性別の判断がつかない存在が立っていた。
「......神様、ってやつか?」
『うん、その認識でいいよ』
軽い。
拍子抜けするくらい軽い。
『君を空島に送ったのは、こちらの都合だ』
「でしょうね。じゃなきゃ説明なさすぎだ」
『ごめん、ごめん』
本当に悪びれていない。
『君は地球では、魔法のほとんどに適性がなかった。でもね、”料理”は違った』
「料理?」
『食材を理解し、熱を読み、調和させる。
それは立派な”魔法の要素”なんだよ』
「......そんなつもりは」
『無意識というやつだよ』
神様は、俺の手を指差す。
『《調理魔法〈クッキング・アルケミア〉》は、魔力を”込める”んじゃない。
流すだけでいい』
「流す......?」
『水みたいに、ね!
素材と素材の間、熱と空気の間を通す感覚』
その瞬間、頭の中に理解が落ちてきた。
知識じゃない。感覚そのものだ。
「それで、俺は急に魔法を使えるようになった、と」
『正確には”思い出した”んだよ』
「は?」
『君の魂は、元々その流し方を知っていた。
地球では、魔力が薄い。だからほとんどの人間は、魔法を知らずに死んでしまう。
この空島は、魔力が濃い。君のスキルが、最も自然に動く場所なんだ。
まずは、空島でスキルに慣れてもらおうと思ってね』
「慣れてもらうって言っても......」
『この世界でも、空島の下に位置する都市は魔力が薄い。
だが、スキルに慣れてしまったらあとは自然に使えるようになる。
ほぼ魔力がない地球で、無意識に使ってたんだ。君ならできるさ』
「......それは分かった。ただなんで俺なんだ?」
『それは、さっき言った通り”無意識に魔法を使ってた”からだな。
もう一つは、この世界の料理は、おいしくない!』
「......おいしくない?」
『…そうだ。食材や調味料はたくさんあるのに、おいしくなさすぎるんだ。
君の料理で常識を変えてほしい』
「......!そういうことなら」
『あとは、グリフォンのことだな』
「…?ソラがどうかしたのか?」
『そう、ソラだ。 ソラは、君と同じ”調和側”の存在だ』
妙に腑に落ちた。
『最後に一つだけ言っておくよ』
「なんだ?」
『力は、生活のために使いなさい。
戦うためじゃない。万が一の時はしょうがないけど。
それと、この世界に来て、ほかの魔法も使えるようになってると思うわ』
「......俺、料理人なんで。できるだけ戦いには使いません」
『良い心がけだ』
神様は満足そうに笑った。
次の瞬間、
俺は小屋の床に座っていた。
ソラは、すやすや眠っている。
(......夢じゃなかったんだな)
♦
森の中で、俺は小さく息を吐いた。
「だから、迷わず使えるわけだ」
『クルッ?』
「いや、こっちの話だ」
俺は再び意識を前に戻す。
「いくぞ、ソラ!飯の食材取り行くぞ!」
『クルッ!』




