第一章 空島の家と、小さな相棒
小屋の扉を押すと、ぎぃ、と乾いた音が響いた。
中は予想してたよりも広く、ほこりっぽいものの、壁も床もまだ生きている。
「......思ったより、悪くないな」
『クル.....』
腕の中で丸まっているソラが、小さく鳴いた。
さっきまで傷に触れるたびに震えていたのに、今は少し安心したような顔をしている。
「今日はここで休もっか。お前も限界だろ」
『クルゥ......』
ソラの返事は弱々しっかったが、拒否の意思はなさそうだ。
俺はそっとソラを床に下ろし、周囲を見回す。
家具はほとんど残ってない。
木の棚が一つ、壊れかけの椅子が一つ、それと布が数枚。
窓は割れていないが、隙間風が冷たい。
「とりあえず、風だけは何とかしないとな......。
ソラ、ちょっと待ってろ」
俺は外に出て、落ちていた木の枝や乾いた草を集めた。
扉の内側に束ねた草を詰め、隙間をふさいでいく。
「......これくらいで、どうだ」
戻ると、ソラは、床に座り込んで、じっとこちらを見ていた。
一歩近づくごとに、しっぽがゆっくり左右に揺れる。
「寒かったか?」
『クルッ』
「そっか、じゃあ、火......はないから、体温で我慢してくれ」
俺は座り込み、手を差し出した。
ソラはためらいもなく胸のあたりに飛び込んできて、ふわっと暖かい羽毛が触れた。
「......ほんと、お前あったかいな」
『クルル......』
静かに鳴きながら、ソラは小さく震える。
甘えているのか、寒いのか、はたまた痛むから震えているのか、よくわからない。
「傷、また見せてくれ」
ソラはそっと身体を傾けると、弱く羽を広げた。
その下には、爪痕のような深い傷。
血はもう止まっているが、痛まないわけがない。
「......これ、俺に治せるのか?」
答えは返ってこない。
ただ、ソラはまっすぐにこちらを見て、小さく首を寄せてきた。
(......信じられてるつもりか? 俺なんかに)
「......わかったよ。できるだけのことはする」
俺は破れかけてた布を裂き、傷口の周りを優しく拭い、簡易的に布を巻いた。
慣れているわけじゃないけど、今はそれしかできない。
ソラは痛い素振りもせず、ただじっとしていた。
「......耐えたな、お前」
『クルッ』
小さな胸を張って誇らしげに鳴く。
その様子に、思わず笑ってしまった。
「よし......じゃあ今日はもう寝よう。明日からどう動くか考えないとな」
床に敷いた布の上に横になると、ソラは当然のように胸の上に乗ったきた。
「おい......そこで寝るのかよ」
『クルル』
(完全に”ここが定位置です”って顔してるな)
「......まあ、いいけどさ。落ちるなよ?」
ソラは返事の代わりに、小さく体を丸めた。
ふわっと暖かい。
ここが空に浮かぶ島だってことを、一瞬忘れそうになる。
「明日は、食料や薬になるものも探さないとだし、ちょっと森の中を見に行ってみるか」
独り言のようにつぶやくと、ソラは寝ているはずなのに、しっぽだけが嬉しそうに揺れていた。
こうして、初日の夜が静かに更けていく。




