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AP襲来(黒)

(黒)に戻ります。時系列としては、世界議会の終盤と同刻です。

 襲名式を病室で見ていた香夜は涙を流していた。


「うぅ…立松姐さん…いや、立松のカシラ!!本当に格好良かったです!!ね!リーシェ!!」


 対して隣で見ていたリシェルは微妙な表情をしている。


「そ、そうね。確かに良かったけど…極道の襲名式って凄いのね。あんなに怖い人たちが何千人も…ママがあの人たちのNo.2!?未だに信じられないわ…」


「当然よ!これも立松姐さんの実力なんだから!!田淵のおじちゃんや勝谷もここにいればなぁ…」


 香夜は亡くなった2人を思い出して再び涙を流した。


「そうねぇ…パパもいたらなぁ…まぁ私は会った事ないけど。」


「リーシェ…貴女のお父さんは……っ!!」


 襲名式が終了した事で2人がモニターを切った瞬間、香夜の背筋に悪寒が走る。


「な、何よ今の!!まるで背中に氷を突っ込まれたような…不味いわリーシェ!!何か来る!!」


 ベッドから動けない香夜は冷や汗を流しながらリシェルに対して声を荒げる。


「お姉ちゃん何言ってんのよ。ここは柏木組の敷地内よ、誰も来れるワケないでしょ。」


 しかし何も感じないリシェルは呑気に林檎を剥いている。


「いいから早く逃げて!!ここはヤバいわ!!貴女だけでも…いっ!!」


 少し大袈裟に動いた事で香夜の全身の傷が痛み、激痛が走る。その表情を見てリシェルも冗談では無いと心配する。


「お姉ちゃん!大丈夫!?今先生を…」


 その瞬間、2人の目の前に白い楕円が発生する。その楕円から発せられる波動は禍々しく2人を襲う。


「くっ!!これは!!」


「あ…あぁああ…」


 動けない香夜は込み上げる恐怖を精神で抑えつける。しかしリシェルはあまりの恐怖で声が出ない。それどころか腰を抜かしてしまい、地面にへたり込む。

 それを見て香夜も焦る。


(これは何!?爆弾!?急に現れた、それにこの波動!とにかく逃げないと!!せめてリーシェだけでも!!)


「うぅっ!!」


 香夜は身体を起こそうとするが、全身の傷が悲鳴を上げ、香夜に激痛を与える。しかし香夜は気合を入れて叫びを上げる。


「うぉおお!!痛みなんて知った事か!!」


 信じられない事に香夜は、ベッドの上から立ち上がった。


「ギィイ!!ゴハッ!!」


 しかし、超重傷で立ち上がる事など出来るはずのない香夜が無理矢理動いた事で全身の傷が開き、想像を絶する痛みが襲う。更に大量の血を吐き出した。


「お、お姉ちゃん!」


「ハァハァ…大丈夫よリーシェ!!お姉ちゃんに任せなさい!うぉおお!!」


 香夜の身体に巻かれた包帯から血液が流れ出し紅く染まる。固められた指のギプスを放り投げ、紫色に染まり曲がった指で地面に倒れたリシェルを担ぎ上げる。


「うわっ!!お姉ちゃん何を!?」


「はぁはぁ…貴女だけでも!!はぁああ!!」


 香夜は近くの窓に向かってリシェルをぶん投げた。それにより全身に力を入れた為、更に全身から血が噴き出る。


「お姉ちゃん!!」


「にげ…て……りー…しぇ……ゴフッ!!」


 たまたま開いていた窓からリシェルは外に放り出された。しかし、限界を超越して身体を酷使した香夜はその場に倒れる。床には血溜まりができ、もはや痛みも感じない程に瀕死になっていた。


(あぁ…身体が寒くなってきたわ…それにもう痛くない…目の前も真っ暗に…そうか、私はこのまま死ぬのね…でも、最期にリーシェは逃がせたわ…貴女だけでも生きるのよ…貴女は姐さんの………おじ…ちゃん…ごめ…ん……)


 限界を迎えた香夜はその場で息を引き取った。



「う…嘘よ!!お姉ちゃん!!」


 それを見たリシェルは立ち上がって窓から部屋に戻ってきた。


「お、お姉ちゃん…お姉ちゃん!!死んじゃダメよ!!ねぇ!!せっかく生きて帰って来れたのに、ここで死んだら皆んな悲しむでしょ!!ねぇ!ねぇってばぁ!!」


 リシェルは既に骸となった香夜を抱き上げて涙を流す。しかしどれだけリシェルが声を上げても香夜が動く事はなかった。


「お姉ちゃーん!!うわぁああ!!」



「よいしょっと、さてさてリーシェちゃんはどこかなぁっと…ん?何、この状況。」


 リシェルが声を上げた瞬間、楕円から1人の女が出てきた。その女は巨大なぬいぐるみを抱き抱えており、全く似合っていないサングラスをかけていた。その女は状況が読み取れず、困惑している。

 しかしリシェルの判断は早かった。目の前には姉を殺した敵、隠し持っていたナイフを即座に抜き、女に襲いかかる。


「よくもお姉ちゃんをぉ!!絶対に許さない!!」


「えぇ…意味が分からないんですけどぉ…」


 リシェルの突きは正確に女の心臓を狙っていた。


(取った!)



ガキィイイン!!



「へ?」


 リシェルは起こったことが理解できない。女の身体を貫いたハズのナイフが甲高い音を奏でて、根本から折れていたのだ。


「今日はよく狙われる日ね…ホントに嫌になるわ。」


 喰らったはずの女は何事もなかったかのようにピンピンしている。


(何で私のナイフが折れてるの!?胸に鉄板!?いや、あの感触は硬い壁にぶつかったような…)


 呆然とするリシェルに対して女が思い出したかのように反応する。


「あっ!貴女はリーシェよね!?久しぶりねぇ、元気にしてた?」


 それを聞いてリシェルは少し前の出来事を思い出す。立松が死亡した後に現れた女、そして彼女が帰る時に見た白い楕円の事を思い出した。


「貴女は…雷葉のお母様?だったかしら?」


 リシェルは懐から抜いたクナイを構えたまま、慎重に答える。


「そうそう!あの時はいきなりでお話出来なかったけど、今日は……んでリーシェちゃん、この子は何で死んでるの?さっきまで生きてたと思うんだけど…」


 女は目の前にある香夜の死体を指差す。女の顔を思い出したリシェルはあの時のことを思い出す。


「あっ!そうだったわ!!貴女、死者を生き返らせる事が出来るんでしょう!!だったらママを助けたみたいに、お姉ちゃんを助けてよ!!」


 目の前で死んだ香夜を生き返らせる希望に縋り、リシェルはクナイを捨てて女に詰め寄る。


「えぇ…何で私がわざわざ見知らぬ人を助けなきゃいけないのよ?」


 詰め寄るリシェルに対して女はめんどくさそうな顔をした。


「お姉ちゃんはいきなり現れた貴女から私を逃すために無理をして死んでしまったの!!いいから、お姉ちゃんを治してよぉ!!お願いだからぁ!!」


 リシェルは泣きながら女にしがみ付く。それを見て女は困惑の表情を浮かべる。


「うぅ…やっぱり私のせいなんだ…ほ、ホントに私のせい?」


「うん」


 リシェルは涙目でコクッと首を縦に振る。


「そっか…なら仕方ない。この子が死んだのはさっき?」


「ええ、そうよ!!」


「ならサクッとやろうか。ちょっと離れててねー。」


 そうして女が香夜の死体に手を翳すと、地面の血溜まりが徐々に小さくなり、包帯の赤色も徐々に減っていく。少しすると香夜は先程の状態に戻った。


「はい終わり。」


「はぁ!!はぁはぁ…ここは…私は一体…」


 香夜が目を覚ました。全身がボロボロなのは同じだが、死ぬ間際よりも明らかに顔色が良くなっている。


「お姉ちゃん!!」


 それを見てリシェルが香夜に抱き付く。


「ちょ、リーシェ!グハァ!!」


 全身がボロボロの香夜はその衝撃で激痛を受ける。地面についた指は更に明後日の方向に曲がり、治りかけていた肋も折れた。


「あ、また折れた。」


 隣で香夜の骨が折れる音を聞いていた女が一言つぶやいた。


「お姉ちゃん!ごめんなさい!私のせいでお姉ちゃんが!!」


「りー…シェ…死んじゃう!……あっ……」


 香夜の怪我を忘れて強く抱き締めるリシェルによるあまりの激痛のショックで気絶してしまった。しかし感情が昂っているリシェルはそれに気付かない。


「リーシェ、彼女は怪我人ですよ。そんなに強く抱き締めては可哀想でしょう。」


 いつの間にか来ていた雷葉がリシェルの背後から話しかける。それにより理性を取り戻したリシェルはようやく香夜を離す。


「はっ!そうだった!!ごめんなさいお姉ちゃん…ってお姉ちゃん!!大丈夫!?」


ゴーン!!


「……」


 突然離された事で力を失って香夜は地面に後頭部をぶつけた。それはかなり大きな音を響かせ、倒れた香夜の頭からは再び血が流れていた。


「あっ…」


「あっ、また死んだ。」


 再び息を引き取ってしまった香夜を見て女はまた呟いた。それに気付いたリシェルは再び香夜を抱き上げる。


「あぁ!!お姉ちゃん!!ごめんなさい!!せっかく治してもらったのに!!……うぅ!!」


 リシェルは香夜の骸を抱き抱えたまま女を涙目で見つめる。それを見た女はため息を吐く。


「はぁ…1日で2回も死んだ人間は多分アナタが初めてだよ。まぁ、私の責任でもあるから特別サービスしちゃおうか。雷ちゃん、この子の怪我はいつからなの?」


 女は髪を掻き上げ、腕を捲った。


「お母様と2人で柏木組に来た日からですよ。」


「おっけー。じゃあちょっと出力上げるから、これ付けてて。」


 女はポケットから指輪を取り出してリシェルに放り投げた。リシェルはそれをキャッチしたが、困惑する。


「何これ?」


「前に渡した指輪の強化版よ。私も常に着けてるわ。これがないと、お母様の波動で最悪の場合死んでしまうから早く着けたほうがいいわね。」


 リシェルはそれを聞いて咄嗟に指輪を嵌める。それを見た女の雰囲気が変わる。髪の毛は先程よりも黒く染まり、全身から波動が吹き荒れる。


「行くよぉ!!はぁあい!!」


 女が能力を発動した瞬間、衝撃波に近い波動が放出され、両手からは香夜に波動が注ぎ込まれ、香夜の全身が発光する。


「あっ、ここ病院なの忘れてた。」


 それを見て雷葉が思い出したように呟いた。


「ちょっと、雷ちゃん。急に声出さないでよ、これ結構集中力いるんだから。」


「ごめんなさい、でも今の波動放出でここから半径10キロぐらいの人たちは驚くと思うわ。もしかしたらここに極道たちが集まってくるかも…」


「そんなの私の知った事じゃない。それよりもう終わるよ。」


 女はそう言って両手を離す。香夜の全身の光がなくなった。


「はっ!!私また死んだ!?」


 そこから姿を現したのは、全身の傷が治った無傷の香夜だった。香夜は普通に立っており、少し経ってその事に気付く。


「あれ?私、立ってる!?それに怪我も治ってる…痛くない!一体どういう事!?」


 香夜は全身を触って今の状態を確かめる。


「うぅ…良かったね、お姉ちゃん。」


 リシェルは涙を流しながら香夜に近寄る。しかし、ある程度の距離は保ったままで、それに違和感を感じた香夜はとある事を思い出した。


「リーシェ、何でそんなに離れてるの?」


「…いや、別に…」


「そういえば、一度目を覚ました時にリーシェに抱きつかれたせいで痛みで気絶しちゃった気が…それにその後、頭の後ろを誰かに殴られた感じがして……リーシェ…貴女まさか…」


「ギクッ!…そ、それは多分夢よ!うん、そうに決まってるわ!!絶対に夢だから!!…そんな事よりお姉ちゃん、怪我が治ったんだからそれを喜びましょうよ!!ね!」


「……うーん…それもそうね。記憶が曖昧だから夢だったのかも…」


 香夜は首を傾げて考えるが記憶が鮮明に思い出せなかった。


「はぁ…疲れた。……ほいっと。よし、それで?アナタは何者なのか聞かせてくれる?」


 女はそう言って香夜の方を見る。それを見た雷葉が女の背後から声をかける。


「お母様、この子がもう1人の特異点らしいですよ。兄様が言ってました。」


「な、何でそのことを!?」


 香夜は秘密にしていた事を暴露され、困惑する。


「えっ!お姉ちゃん()そうなの!?」


 香夜がヴァルスと同じ特異点である事を初めて聞いたリシェルも驚きの声を上げる。


()って何よ。私だっていきなり言われたんだから詳しくは知らないけど、そうらしいわ。」


「へぇ…それで女のなのに『真なる王』の波動を…それに身体の構造も少し変。なんて言うか…筋肉量が男?骨密度や血液量も…関節もすごく柔らかくて…まさに闘うための肉体って感じ。私は昔から病弱だったから羨ましい。」


「そうなの?確かにその辺の男達よりも筋力はあったし、輸血した時も量が異常だったと聞いたけど…そんな事まで知ってるんですか?」


「まぁ、1週間も巻き戻せばある程度の情報は入ってくる。はぁ、サングラスかけたままで良かった。これ外したらまた殺さなくちゃいけなくなっちゃう。」


「それは一体どういう事なの?」


「特異点ってのはね、白と黒の2人で1人、そして互いを求め合う存在なの。だから、相方以外の特異点と目が合うと強烈な拒絶反応を見せるらしい。なりふり構わず襲いかかる程にね。いや、これは人によるんだっけ…まぁ、相方が死ねばこの呪いは無くなるらしいけどね…」


「お母様…」


 そう言って女はどこか遠くを見つめる。その表情は非常に寂しそうであった。


「なるほど…分かったわ。」


 香夜はただ一言そう呟いた。少し経つと女は吹っ切れた様に元気に戻る。


「よーし!それじゃあ今日は4人で女子会ね!!」


 女がそう宣言すると右手を前に出す。すると先ほどよりも小さい白の円が出現する。女はそこに手を入れると、しばらく何かを探し始める。


「えぇっと…これかな?」


 女がそこから取り出したのはワインだった。


「先ずはお酒でしょ!!皆んなで飲むぞぉ!!」


 それを見て香夜は驚愕の表情を見せる。


「す、すごぉ…どこからそんな物を…」


「私はまだ未成年だから飲めないわよ。」


「細かい事は気にしない!!はい!グラスもここにあるからね!!」


 女はどこからか取り出したグラスを近くのテーブルに置き、席に座る。


「はぁ…2人とも、お母様はああなっては聞きません。是非ご一緒していただけるでしょうか?」


 雷葉も席について2人に座るように促す。


「仕方ないわね、怪我も治してもらった事だし、私は付き合うわ。」


「分かったわよ。貴女にはママの恩もあるしね。でも、お酒は無しよ。」


 そう言って4人がテーブルに着いた。

 そして女がワインを開ける。


「因みにこのワインは100年くらい前に、私の夫が製法を1から手掛けた最高級品で王族でも年に一度しか飲めない代物なんだよ。値段にすると、一本およそ2億円くらいかな。」


「2億円!?」


 香夜とリシェルは驚愕した。しかしそれを無視して女は香夜のグラスにワインを注ぐ。香夜はグラスを持つ手が震え始める。


「これ一杯で大体私の給料10年分か…考えるだけで頭がおかしくなりそう…」


 香夜はそう言って様々な角度からワインを眺めていた。



ドンッ!!



 その瞬間、部屋の扉が激しく開かれる。そして複数人が大声を出しながら部屋に突入してくる。


「女神よぉ!!無事ですか!!夫たるこの私が貴方様をお守りしますぞ!!」


「香夜!無事か!!」


 先ほどの衝撃波によって、襲名式の会場にいた極道達は異変を察知し、組長の命令でここまで来ていたのだ。彼らは院内へ大挙しており、扉の外から屋外まで完全に包囲されていた。部屋には道草と立松が突入してきており、ワインを片手にしていた香夜はいきなりの驚きでワインを溢してしまった。


「あぁ!!私の1()0()()()が!!」


 そう言って香夜は地面に溢れたワインに飛びついた。

 道草と立松は、床に溢れたワインを必死に舐める香夜を見てドン引きした。

世界議会と襲名式が同刻に行われているのは通例で、帝国の主要人物(皇帝や十傑など)が出払っているため、攻められる可能性が低い事から敢えてこの日に行っています。


これにて第四章が完結となります。

 最後は少しネタに走りましたが、こういうのを書いている時が一番楽しいのです。

 第二章から話に出ていた『世界議会』がようやく終わりました。実はこの“最強たちの集う会議“、という展開はずっとやりたいと思っていたのでとても満足です。

 また、旭ねるというキャラは、まさに私の考えた最強キャラであり、作中最強キャラでもあります。あの場にいる全員が同時にかかっても、本気の彼女であれば文字通り0秒で全員を瞬殺出来ます。実は彼女の設定から全てがスタートしており、主人公の2人の設定も、物語の設定もそれに合わせて後から付け足した形になります。これからもちょいちょい出す予定ですが、ポンポンと死者を生き返らせるのは物語が崩壊しかねないので、これからは誰かが死んだら生き返る事はなく、基本死ぬと覚えておいてください。

 また、ここまで読んでくださった方は是非、第三部【侵攻と新婚旅行】も、ご覧ください。上院の5人の馴れ初めや、謎とされている第一席ユーファスの事が描かれています。また、これからは第三章までの加筆修正を先にやるので、第五章の更新はしばらくお待ちください。第五章は『革命派』と『五木極道連合』の他の組との話の予定です。

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