47 閉会(白)
皇帝による終了宣言により、会場に張り詰めた空気が緩む。ヴァルスも先程までの独特の緊張感が抜けた。
「はぁ…やっと終わった…」
「お疲れ様、初めての『議会』はどうだったかな?」
「そうですね…この世界の情勢について知る事ができました。俺もこれから頑張らなくちゃ。」
「道は険しいだろうけど、俺は応援しているよ。」
「ありがとうございます。」
ヴァルスはそう言って桜田に頭を下げた。
「ねぇ、そろそろ帰っていい?早くうさぴょんと寝たいんだけど。」
退屈そうに座っていた ねるが立ち上がり帰宅しようとする。しかし、隣に座っていた雷葉が止める。
「待ってお母様、せっかく起きたのだからあそこによってから帰りましょう。前はあまり話が出来なかったでしょう?」
「ええ…私はうさぴょんと…」
ねるは新しいぬいぐるみを堪能したくて仕方なかった。しかし、雷葉も譲らない。
「うさぴょんとはいつでも寝れるでしょう。ほら、さっさと行きますよ。」
「はぁ…分かった。今準備するから待っててね。……ふぅ…」
そう言って ねるは目を瞑って両手を前に出して集中する。すると、ねるの髪の毛が白に染まっていく。
「……うーん…ここかな?いや、もっと近くに…よし、ここ!…はぁ!!」
ねるが声を上げると両手の前に巨大な白い楕円が生成される。それは彼女がこの場に現れた時に出現したモノと同じ物だ。
「それじゃあ私は行くね。バイバイ。」
ねるはそう言ってサングラスをクイっと上げて、ぬいぐるみを抱き抱えたまま、その楕円の中に入って行ってしまった。それを見て雷葉も続こうとする。しかし、桜田が雷葉を制止する。
「雷、タクシーの様にして悪いんだけど、もし良かったらを彼女帝国まで送り届けてもらっていいかな?」
「彼女……ああ!はい、分かりましたわ、兄様。お母様に言っておきます。では皆様、失礼致します。」
雷葉は恭しく頭を下げた後、楕円の中に入っていった。その後すぐに楕円は掻き消えた。
それに続いて会場にいる人間たちが続々と会場から出ていく。しかし、とある2人が逆に上院の席に近付いてきた。その2人は先程も顔を合わせた革命派の2人であり、ヴァルスの目の前まで真っ直ぐに歩いてくると、ヴァルスにとある紙を手渡す。
「帰ったら開けてくれ。他の誰にも見せないように。」
「ん?俺ですか!?…は、はい。よく分かりませんが分かりました。」
ヒューラはそう言い残して2人は颯爽と去っていった。何が起きたか理解できないヴァルスだったが、忘れないようにその紙をポケットに入れた。
会場からは人が殆ど居なくなった。残ったのは上院の4人と彼らの部下である議員たちだけだ。
「さて…余もここらでお暇しよう。帰るぞ。」
《は!!》
皇帝の一声で帝国に所属する議員たちは声を揃えて立ち上がる。
そして皇帝の後ろに付き従って会場を後にする。しかし皇帝は会場の扉に手をかけたタイミングで振り向く。
「…慎吾、あの件に何か進展があったら即座に余に伝えよ。必要とあらば軍も貸す。」
皇帝はそう言って桜田を睨み付ける。それに対して桜田はいつも通りの表情で答える。
「もちろんですよケーリさん。俺に任せてください。」
その返事を聞いて皇帝は何も言わずに会場を出た。
「では…私も帰るとしましょうか。行きますよ、ナハ。」
「はい」
ジーガスと連れの女も会場を後にする。
「俺たちも帰るかぁ。っし!武闘派の奴らは全員俺と一緒に走って帰るぞ!!他のヤツは凛花と一緒に車で帰れ。いいな?」
《はい!》
「んじゃ、慎吾もまたな。」
「はい。お疲れ様でした、将士さん。」
「あとお前、とびきりの才能持ってんだからもう少し強くなっとけ。今のままじゃ遊び相手にもならん。それじゃあな。」
将士はヴァルスを指差しながらそう言った。
「は、はい。頑張ります。」
「おっしゃ!誰が1番に着くか競争だ!!行くぞお前らぁ!!」
将士はそう言って会場の扉を開けて走って行ってしまった。最強格の武闘派の極道たちはそれぞれ能力を駆使してとんでもないスピードで追従して行った。
「あらあら、行ってしまったわね。では、私もここで。お兄様、またどこかで。」
「ああ、でも帝国に攻められて死にそうになったら、将士さんに助けてもらうんだよ。凛が死んだら母上が暴れてメチャクチャになってしまうからね。」
「はい、よく覚えておきます。では。」
着物の女は数人の極道を引き連れて会場を後にした。
そして会場に残ったのはヴァルスと桜田だけになった。
「俺たちも帰ろうかヴァルスくん。」
「はい、そうですね。」
「それと最後に一つだけ、君に頼みがあるんだ。どうか受けてくれないかな?」
「良いですよ、僕にできる事であればですが。」
桜田はの顔が真剣な表情に変わる。
「ありがとう、それは………」
桜田は依頼の全容をヴァルスに話した。しかしヴァルスはそれを聞いても全くピンと来ない。
「いいですけど…何故俺に?ハッキリ言って世界最高の情報屋である桜田さんが無理だという時点で俺に出来るはずが無いと思うのですが…」
「まぁそうだね。頼んでおいて何だけど、俺からしてもほぼダメ元さ。君の心の片隅に置いといてくれるだけで構わない。もし君がこの依頼を達成出来たならその報酬は………」
これにて第四章(白)が完結になります。
ここで少し ねるの能力について説明しておきます。現状判明している能力は【移動】と【時間の巻き戻し】。
後者については言葉のままで、触れたものの時間を巻き戻すことが出来ます。しかし、巻き戻す時間が長いほど出力を上げる必要があり、年単位だと巻き戻しに必要な時間も増え、彼女の肉体にも多大な負荷がかかります。負荷の方はこまめに自身の肉体を巻き戻す事でほぼ無効に出来るので、実質何年でも巻き戻せます。第三章でこれを使える針の様なアイテムが出て来ましたが、これは彼女が作った波動具であり、肉体の時間を巻き戻せます。しかし、効力はそこまで大きくなく、使い捨てになります。また、時間を停止させる事も可能で、普段は自身の肉体の周囲の時間を止めています。時間を止められたモノは無敵となり、同等量の波動による攻撃で中和しなければ攻撃が通りません。
分かりにくいのが前者の【瞬間移動】で、コチラは遠距離の[どこでもドア]式、近距離の[瞬間移動]式の2種類があります。
[どこでもドア]式は、白い楕円から移動する能力の事です。特徴としては上記を逸した ねるの波動を遠距離まで飛ばして、索敵をしながら楕円をどこにでも生成できます。索敵の際に飛ばした ねるの波動を近くにいる人が感じます。
[瞬間移動]式は、ねるから約1キロ以内の場所に瞬間移動出来ます。他人でも触れれば移動させる事が出来ますし、彼女が本気になれば触れなくても約100メートル以内であれば無制限に瞬間移動させる事も出来ます。




