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45 世界議会①(白)

「ではあとは任せた。」


 皇帝はそう言って席に座った。それを見て雷葉が話し始める。


「承りました。それでは、私の方から進めさせていただきます。先ず初めに注意点を何点か。

一つ、ここは我々『世界議会』が管理する『安全領域』です。悪意を持った暴力などは全て粛清対象となります。十分にお気を付けください。

一つ、下院の方と付き添いの方は原則として発言禁止とさせていただきます。ルールを守れない方も粛清対象となる可能性がありますのでご注意を。

そして最後に一つ、あらゆるルールは()()()()()()には()()()()()()。以上です。」


 雷葉の話を聞いてヴァルスは思考を巡らせる。


(俺みたいな新参者の為にわざわざ教えてくれたんだな。大体は分かったぞ。にしても最後のルールは引っかかる。これじゃあ、第一席と第二席とやらは何をしてもいいって事じゃないか。まぁそもそも2人ともここにいないのだから、このルール自体意味不明ではあるけどな。それに先程の一連の態度…第一席ユーファスカイトとやらはここにいる人間にとって特別な存在であるに違いない。これが終わったら詳しく聞きに行こう。これが戦争終結のカギになるかもしれない。)


「では早速本題を始めさせていただきます。最初は右院のジルヴェスタ様からです。」


 そう言って雷葉は【右】の席に座る男に発言を渡す。


「只今紹介に預かったジルヴ王国、国王アリド・ラマボート・カザ・ジルヴェスタである。先ずは偉大なる英雄王に感謝の意を…では本題に入らせていただく。一月後、我々ジルヴ王国は隣国であるダルナ国へ侵攻する。開戦の許可をいただきたい。」


 ジルヴ王は【上】の席の方にそう訴えかける。それを受けて雷葉は周りの上院のメンバーを見渡す。皆が興味無さそうにしている事を確認した後に全体に向けて告げる。


「上院の皆様から許可が出ました。ジルヴ王国の開戦を許可します。」


 雷葉は淡々と告げた。


「感謝する。余からは以上だ。」


 ジルヴ王は一言呟いて席に着いた。


「な!?」


 あまりにもアッサリ決まってしまった事にヴァルスは思わず声が出る。


(か、開戦の許可だって!?それはつまり一月後に戦争が起きるって事なのか!?そんな大切な事をこんなに適当に決めていいのか?それに、ジルヴ王国もダルナ国も西ではそこそこの大国だぞ。だが、上院のメンバーは皇帝以外、興味無さそうに談笑している。これが、世界議会なのか!?)


「では、次に参ります。右院から聖七瀬(ひじりななせ)様です。」


「は、はい!」


 右院の席に座る女が立ち上がる。その女は16.7歳ほどの見た目で、明らかに緊張している。


「わ、わた!わたたしは!!第12代目『御神(みかみ)』のひ、聖七瀬です!せ、先月、先代が病気で亡くなった為、私が今代を継承しました!よ、よろしくお願いいいたしますす!!いだっ!!」


 その少女はそう言って上院の席に向かって頭を下げる。しかし、頭を下げ過ぎて目の前の机に頭をぶつけた。音が会場に響き渡り、所々笑い声が聞こえる。それを見て少女は頭を抑えながら顔を真っ赤にして席に座った。それを見て背後に控える女が頭を撫でながら少女を慰める。


「七瀬様、お疲れ様でした。立派でしたよ。」


 それを聞いて少女は怒りの表情を見せる。


「…もう!柚子(ゆず)!甘やかさないでっていつも言ってるでしょ!!」


「いえ、こんなに大人数の大物相手に七瀬様はよくやったと思います。胸を張ってください…張れる程の胸はありませんが…」


 女は最後に余計な事を言った。そして再び少女が怒り始める。


「あっ!!また言った!!柚子が私の胸をイジった!!うぅ…だってしょうがないでしょ!!ウチの家系は初代から貧乳の一族で、どれだけ巨乳の血を取り込んでも女はBカップより成長しないんだから!!でも私はこれから」


「七瀬様、会場にいる皆様がドン引きしております。その辺で抑えてください。私も恥ずかしくなって参りました。」


 周りを見渡すと先ほどよりも大きな笑いの渦が起きていた。イジっていた女も顔を赤くし、やりすぎた事を反省するが、少女はもっと顔が赤くなっていた。


「〜〜っ!!す、すみませんでした…以上でしゅ…」


 恥ずかしすぎて耐えられなくなった少女は机に突っ伏してしまった。一連の流れを見て将士は大爆笑している。


「はっはっは!!200年経っても貧乳の遺伝子には勝てないって…可哀想過ぎんだろ!ハッハッハ!!!」


「アナタ、声が大きいですよ。あまり虐めては可哀想ではありませんか。」


「いやぁ、すまんな。100年前に出会ったアイツの先祖も、死ぬまで見事にツルペタでな。思い出して嬉しくなっちまったんだ。…七瀬だったか!?挨拶ご苦労、これから大変だと思うが、まぁ頑張ってくれや。以上!」


 将士の言葉で少女の挨拶は締め括られた。

 先ほどの流れで場が和んだ会場だったが、雷葉が次を紹介する。


「では次に移りたいと思います。次は…左院のヒューラ様です。」


 雷葉がその名前を告げた瞬間、先ほどの和んだ雰囲気が一変する。最初以上の殺伐とした雰囲気の中、ヒューラが立ち上がり話を始める。


「革命派のヒューラだ。今回も単刀直入に言わせてもらう。私が提案するのは、あらゆる国との戦争の禁止する条約の締結だ。戦争はこの世に必要ない、そうは思わんか悪虐皇帝よ!」


 ヒューラはそう言って皇帝を指差す。しかしその瞬間、ヒューラの隣に座っていた左院の男が声を上げる。


「おい、陛下に対して無礼だぞ。今すぐに謝罪しろ。」


「ふっ!何が無礼だ。戦争ばかりしているケダモノの王を悪虐だと言って何が悪い。それにヤツに謝罪するくらいなら腹を切って死んだ方がマシだ!」


 隣の男にそう言い放ったヒューラに対して、男のもう一つ隣から更に声が飛ぶ。


「ちょっとー、あんまり調子に乗らないでもらえる?いつもコソコソ隠れてウチらを攻撃してきてるくせに何それ、武士道精神ってやつ?何が死んだ方がマシよ、笑っちゃうわ。」


 その女は高校生くらいの見た目で、学校の制服を着ていた。目立つネイルとピアスのその女は、ヒューラを嘲笑する。


「皇帝の犬どもが、貴様らこそ卑怯な手で我々を襲撃しただろうが。挙げ句の果てに、我々のリーダーだったアンドレさんを………とにかく貴様らは黙っていろ。私はあのクソ野郎に話をしている。」


 ヒューラはそのまま皇帝を指差す。それに対して皇帝が組んでいた足を解いた。


「はぁ…またか…もちろん却下だ。我々帝国はこれからも他国への侵攻を続ける。これは決定事項であり、覆ることはない。」


 皇帝はそう断言した。それに対して、ヒューラも食い下がる。


「貴様はいつもそうだ!そうやって我々の提案をいつも却下する!この条約はここにいる加盟国でも多くの国々や団体が賛成しているのだ!何故そこまで頑なに否定する!?」


 実はこの提案は毎回の議会で提出される議題であった。しかし毎回同じように皇帝の一声によって却下されてきた。


「何度言わせれば気が済む。全ての国々が帝国に膝を付けば良いだけの話だと。大陸のすべての国が帝国に屈しない限り、帝国の侵攻は止まらない。諦めろ。」


「っ!!貴様というヤツは…貴様の起こした戦争で一体どれだけの人間の命が失われていると思っている!?そしてどれだけの人間が不幸になったかを…貴様は何も感じないのか!?」


 ヒューラは感情的になり身体を前のめりに訴えかける。しかし皇帝の表情は氷のように冷たい。


「感じないな、そんな甘い考えはとうに捨てた。敵味方どれだけの人間が死のうが、余にとってはどうでも良いのだ。」


 皇帝は自身の部下も多くいるこの場でそう言い放った。それに対してヒューラがブチギレる。


「貴様ぁー!!やはりここで私が!!」


「おっとぉー、それはダメだな。危ねぇ危ねぇ。」


 そう言って臨戦態勢に入ったヒューラを背後に控えていたイズカンが止めた。


「離せイズカン!ここでヤツを殺さねばこれからも多くの人間が死ぬ!!差し違えてでもヤツを殺す!!」


「待て待て、やるにしてもここはダメだ。十傑が3人もいて、上院のメンバーも勢揃いしてるこの場で皇帝を暗殺するのは流石のアンタでも無理だ。一旦落ち着けよ。」


「クソッ!離せ!!今ここで私が!!…グッ!」


「よいしょっと。」


 そう言ってイズカンはヒューラを羽交締めにしながら注射器を脇腹に打ち込んだ。それによって興奮していたヒューラは少しづつ落ち着きを取り戻していく。


「…はぁはぁ…落ち着いたよ、感謝するぞ副団長。」


「はぁ…ったく、鎮静剤なんて使わせるなよな。」


「ああ、すまない。」


 落ち着いたヒューラはイズカンに謝罪する。


「まぁ、言葉で通じるなら革命派なんてモンはそもそも必要ないんだ。ダメ元でも、口に出す事が大切なんだぜ。」


「そうだな…我々のやる事は変わらない。ヤツを暗殺するだけだ。覚悟しておけよ、亡霊が。」


「と、言うわけで俺たちからの提案は以上です。お騒がせしました。」


 そう言って2人は元の席についた。


「ちょっと待ちなよアンタら。ウチらのボスを暗殺するなんて言われて黙っていられるほどウチはお人好しじゃないんですけど?」


「おいトーレル、やめろ。」


 トーレルの反応に対して、隣に座っていた男が制止する。


「はぁ?何でアンタなんかの命令を聞かなきゃいけないわけ?私に命令していいのは陛下だけなんですけど?」


「何だと!?私は陛下の為を思って」


「…2人とも黙れ、陛下の御前だ。帝国十傑として、下らん真似はするな。」


 2人が言い争いになろうとした時、もう1人の老人が座ったまま強烈な殺気を放つ。それを受けた2人は冷や汗を流しながら大人しく席に着く。


「ふぅ…失礼しました。」


「チッ!ウチに命令すんなっつーの。」


 それを見て雷葉がマイクを握る。


「では今回も上院第三席様の却下申請があったため、ヒューラ様の提案を却下致します。それでは次に…」


 ヴァルスは一連の流れを静かに見ていた。


(なるほど、これが桜田さんの言っていた正攻法では終戦できない理由か。皇帝は何としても戦争をしたい、他の上院のメンバーはどうでも良いと思ってそうだから、議会のルール的に皇帝の意見が通ってしまうワケか。そしてあの3人、噂に聞く帝国十傑のメンバーで間違いないだろう。3人ともレムナさんよりも洗練された波動だ、十傑の10人の中でも別格の3人なのだろう。その中でもあの老人、波動がものすごく静かだ。あれほど落ち着いたオーラは見た事がない。その上で、他の2人に負けない量を放っている…皇帝とぶつかるならいずれ彼らとも…)


「次の提案者は…」



 『議会』はその後スムーズに進行していった。様々な者が意見を言って、時には反対が起きたりもした。しかし最初に比べてそこまで大きな軋轢を生む事なかった。『議会』も終盤に差し掛かる。


「それでは次は、沢村様です。」


 そのアナウンスで【右】の一席に座っていた男が立ち上がる。その男はぱっと見でも明らかに場違いな服装で、汚れたツナギを着た、いかにも普通などこにでもいる優しいおじさんと言った風貌だった。


「えぇ…ご紹介に預かりました、沢村です。どうぞよろしくお願い致します。」


 沢村と名乗るその男はそう言って恭しく頭を下げた。


「えぇ…本日は新商品の宣伝に参りました。ご覧ください。」


 沢村は持って来ていた巨大な荷物からその物を取り出した。


「は?」


 ヴァルスを含めて、会場の人間の大半が困惑の表情を見せる。

 

 なぜなら、取り出されたそれは何と、巨大なウサギのぬいぐるみだったからだ。


「えぇ…コチラは我が社の新商品である『()()()()()()()()()()』です。今回は抱き心地に特に拘りました。発売は来月からですので、是非お納めください。」


 沢村はそのぬいぐるみを抱えて上院の席まで持って行く。すると、雷葉がそれを受け取る。


「ありがとうございます、沢村様。あのお方もきっと喜びます。」


「えぇ…では私はこれで。」


 沢村はそのまま席に戻って行った。



 一連の流れを見ていたヴァルスは強い違和感を感じていた。


(何だ、今のは。ぬいぐるみの宣伝だと?今までの話と比べてスケール感が違いすぎるぞ。そんな事までこの議会ではやっているのか?…それにあの男、どう見てもただの町工場のおじさんだ、あんな普通の人が何故右院に入れるんだ?右院のメンバーは、国のトップや巨大組織の長などが並んでいるが、あの男だけは明らかに場違い。何か特別な理由があるとしか…それに一番変なのは、これを見ている周りの人間達が何も言わない事だ。こんな場違いな宣伝に対して何か文句を言ってもいいと思うが…)


「これでよしっと…あぁ、一応連絡だけはしとかないと………はい!失礼しました。それでは次に…」


 雷葉は受け取ったぬいぐるみを上院の席に立てかけた後、携帯を少し触ってからマイクを握って続きを始めようとした。



ゴワッ!



 その瞬間、雷葉の背後に巨大な黒い楕円状のモヤが出現した。ヴァルスを含めた会場にいる人間全員が、そのモヤから発せられる波動の存在感から、一気に緊張感が走る。


「な、何だあれは!!」


「て、敵襲か!?おい、私を守れ!」


「…あぁ…気分が悪く……」


 この会場にいる大半の人間が混乱し、騒ぎ始める。 そしてそれはヴァルスも同様であった。


(な、何だこれは!?いきなりあの司会の女の人の背後に現れた!!いや、それよりもこの禍々しい波動!!近くにいるだけで気絶しそうだ!)


 実際に【右】にいる人の何人かは既に気絶している。【左】にいる人も冷や汗を流しつつ、強く波動を発する事で自身を守っていた。上院のメンバーは皆、恐怖というより驚きの表情を浮かべていた。


「へぇ、珍しい事もあるモンだな。」


「参加されるのは10年ぶりですかね、今日は荒れますね。」


「普段は何を言っても来ないのに、あんなぬいぐるみに釣られて起きてくるなんて…」


 そして次の瞬間、楕円のモヤから1人の人間が現れる。




「ふぁああ…ねっむ。」

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