44 開幕(白)
「ここが…」
ヴァルスは巨大な扉の前にいた。広いドーム内をしばらく歩き、中央の巨大ビルのとある部屋まで来たヴァルスはその扉の大きさに驚いていた。
「緊張しなくてもいい、君は俺の従者なんだから。でも、基本的には何も喋っちゃダメだよ。あんまり生意気だと、他の人たちに殺されても文句は言えないからね。」
「わ、分かりました…」
次の瞬間、部屋の中から声が聞こえてきた。
「続いては上院の方々の登場です。先ずは第六席の桜田慎吾様!!」
「さぁ、行くよ。」
桜田はそう言って大きな扉を力強く開いた。
「こ、これは!」
ヴァルスが部屋に入ると、そこは広い会議室のようになっていた。四方の壁から向かい合うように席が並べられている。向かって手前側は椅子のみで、壁には【下】の文字が刻まれている。向かって右側には豪華な椅子と机、壁には【右】の文字があり、左側も同様にして【左】の文字が刻まれていた。
そして、向かって正面には段差のある席で、下に4席、上に2席並んでいた。しかし、上の2席は明らかに配置のバランスが悪く、会場の中央に存在する最も豪華な1席と、その隣のもう1席と言った構図になっていた。そして、その壁には【上】の文字が刻まれている。
【下】の席には何人かが既に着席しており、コチラを見ている。そしてその中にレムナが眠そうに座っているのを見つけた。レムナもヴァルスに気付いたようで、小さく手を振ってきた。ヴァルスも小さくお辞儀をして返事をすると、先に行った桜田の後ろをついていく。
【右】と【左】の席は既に埋まっており、全員が2人を注視している。中には殺気のこもった目線を送ってくる者もおり、ヴァルスも緊張感に包まれる。
(凄まじい殺気だ…あの時の風高いの極道の人と同等の殺気が複数…って、あの風使いの極道もいるじゃないか!あの人も左院議員だったのか!)
【左】の席から神保が驚くようにヴァルスを見ていた。
(それにさっきの2人もいる…)
【左】の席には先ほどの2人もおり、強い殺気を向けている。そんな殺気に耐えながらも、桜田の後ろをついていった。
そして桜田は【上】の席の一席に腰掛けると、ヴァルスも彼の後ろに控える。すると、アナウンスをする女が話し始める。
「続いては第五席のジーガス・ベレンザ様です。」
そのアナウンスと共にヴァルスが使った扉とは別の扉から2人の男女が入ってきた。落ち着いた雰囲気の2人は、おおよそ40代くらいと思われる風貌で、2人の立ち振る舞いは見事と言わざるを得ないモノだった。背筋をピンと伸ばし、頭が一切ブレない。その洗練された歩き方には会場の人間も息を呑む。そして、2人は優雅に【上】の席に着き、アナウンスの女に視線を送る。
「続いては…」
「ようやく俺の番か!待ちくたびれたぜ!」
アナウンスの女が紹介する前に、その男は激しく扉を開いて入ってきた。
「アナタ、まだ呼ばれていませんでしたよ。」
「細え事はいいんだよ。別に礼儀の決まった式ってワケでもねぇしな!」
「まぁ、そうですね。」
男は背後の女と話しながら、堂々と歩く。そして、ヴァルスにはその男の見覚えがあった。
(あいつは!!あの時の和服の極道!!上院議員だったのか!!)
そして、その男の登場に合わせて【左】から3人、【右】から2人が立ち上がって頭を下げる。その様子を見るに、その5人は極道連合に属する人間であり、極道連合のトップであるその男に敬意を示す。
しかし男はそれを無視して、背後の女と談笑しながら自分の席まで歩いて行った。そして、その男が近づくと、慎吾も立ち上がる。
「将士さん、先日はありがとうございました。」
「ん?ああ、あれか。俺も暇だったし、ちょうどいい運動になった。まぁ、レムナ以外は雑魚ばかりだったが…あれ?お前、どこかで会ったか?」
将士はヴァルスに気付いた。
「先日の柏木組襲撃の時に少しだけ手合わせしました。あの時はどうも。」
「ああ!アイツか!変わったオーラだったから覚えてるぜ。…んで?テメェ、本当は女だろ?何で男装なんかしてんだ?」
将士はいきなり意味不明なことを言い出した。
「はい?何言ってるんですか、俺は正真正銘の男ですけど。」
「何言ってんだ。お前、間属性だろ?なら、女に決まってんだろ。俺は騙されねぇぞ。」
そう言って詰めてくる将士の問いに対して慎吾が答える。
「将士さん、実は彼は父上や母上と同じ特異点なんです。」
それを聞いて将士は驚きの表情を見せる。
「な、何!?コイツがか!?へぇ…今回の西側の特異点はコイツだったのか…なら、男で間属性ってのも納得だ。…でもなぁ…お前、白の間属性のくせに波動の量が少ねぇな。ちゃんと鍛錬してんのか?」
「彼は最近覚醒したばかりなんです。ですが、何度も死線をくぐり抜けて来てます。それに、あの人と比較するのは可哀想ですよ。」
「そりゃそうだな!あのバケモノと比較したら、俺以外の全ての人間は赤子みたいなモンだからな。はっはっは!!」
「あの、1つだけ聞いてもいいですか?前に桜田さんに聞きました、貴方が本気になれば戦争を止められると。貴方は今まさに戦争の真っ只中である極道連合の長だ。部下を守る為に今の現状を変えようと思わないんですか?」
ヴァルスは真剣な表情で質問する。それに対して将士は即答する。
「思わんな。前にも同じような事を聞かれたが、俺は極道の長っていう肩書きは持ってるが、それはただのお飾りだ。俺は、連合を立ち上げた最初の5人の兄貴分で、アイツらにどうしてもと頼まれたから渋々受け入れて今の地位に着いてやってるだけ。アイツらが生きているならまだしも、今の極道たちはアイツらの舎弟であって、俺の舎弟じゃない。守りたいモンは自分で守れ、これが俺のスタンスだ。分かったか?」
「そうですか…分かりました。」
「そういうこった。この世は所詮、弱肉強食だ。お前も何かを守りたいなら強くなれ。幸い、強くなる才能は誰よりも持ってるんだ。頑張れよ。」
「はい、ありがとうございます。」
「では仕切り直して…続いては第三席、ケーリオンノイン・サクラ様!」
「!!」
ヴァルスはその名前を聞いて緊張感が走る。そして部屋の扉が開かれ、2人の男が入ってきた。前を歩く男は、豪華な衣装で腰には剣を下げていた。首には巨大な宝石のネックレスが巻かれ、両手の指に豪華な指輪もしている。何よりその堂々たる歩き姿は、見たものを魅了する。
(アイツが皇帝陛下!!何という存在感だ…)
ヴァルスは皇帝を睨みつける。それに、周りにいる東側の議員達も強烈な殺気を向ける。特に【左】の席に座る革命派の2人は今にも飛び掛かりそうな程の怒りを露わにしている。しかし、当の本人はそんな殺気など気にせずに堂々と中央を歩く。背後に控える男も、ほとんど気にする事なく後ろを追従する。
そして2人が【上】の席に着くと、その隣に座る将士が軽々しく声をかける。
「相変わらず嫌われてんなぁ、俺が黙らせてやろうか?」
「必要ない、こんな事は日常茶飯事だ。」
「あっそ。」
皇帝は将士の軽口にも毅然と答える。そして皇帝が席に座ろうとしたタイミングで、睨み付けてくるヴァルスに気付いたが無視する。それを見てヴァルスは殺気が強くなる。
(クソ!俺など眼中に無いのか!!この男さえ…この男さえいなければ、ナルキさんも、副隊長も、リミ姉も死ななかった!!リシェルが1人になることも、俺の親が死ぬ事もなかった!!今この場でコイツを殺せば全てが終わる!!殺さなければ!!ここで!!)
家族や友人の仇を目の前にしてヴァルスの怒りは頂点に達する。目の前が真っ赤に染まり、腰の剣に手をかけ一歩目を踏み出そうとしたその時、前に座る桜田に右腕を掴まれる。
「落ち着いて、今はダメだ。ここで彼に襲いかかるというなら俺は君の敵にならざるを得ない。もちろん将士さんやジーガス爺様も同様だ。一度深呼吸して冷静になるんだ、君の夢はこんな所で自殺する事だったのかな?」
それを聞いてヴァルスは冷静さを取り戻す。
(何やってるんだ、桜田さんの言う通りだ。今の俺じゃ、こんなに敵ばかりの場所で皇帝を殺すのは無理だ。仮に殺せたとしても、その後俺は確実に殺される。落ち着け、一度気持ちを落ち着かせるんだ…)
「ふぅ…ふぅ……すみません、冷静にさせてくれてありがとうございます、桜田さん。命拾いしました。」
ヴァルスは気持ちを落ち着かせて殺気を解いた。
「そうか、それは良かった。おっ、次のアナウンスが始まるよ。」
桜田はそう言ってアナウンスの女の方を見る。
「では続いて第二席、旭ねる様…と言いたいところですが、本日も欠席でございます。故に代理としてこの私、神山雷葉が参加させていただきます。では失礼して…」
そう言ってアナウンスの女は【上】の席の2段目の隅側の席の隣に置かれた簡素な席に座った。
それを見てヴァルスは小声で慎吾に話しかける。
「桜田さん、今日は来ていないようですが、第二席の方はどんな方なんですか?」
「うーん…簡単に言うと寝坊助のお姫様って感じかな。その力と権力を濫用してやりたい放題好き放題さ。俺たちでも手を焼いているよ。」
「な、なるほど…」
(俺たちとはおそらく上院の方々のことだろう。彼らでさえ手を焼くという第二席はどんな人なのだろうか…)
ヴァルスがそんな事を考えている間に、雷葉と名乗った女がマイクを握る。
「では最後に紹介いたします。上院第一席、ユーファスカイト・サクラヤ様です。」
その瞬間、将士以外の上院のメンバーが全員立ち上がった。それ以外にも、会場にいた半分近くの人間が勢いよく立ち上がる。そして、その全員が同時に深々と頭を下げる。
(い、いきなりなんだ!?)
その異様な光景にヴァルスは驚きを隠せない。特に驚いたのは、慎吾やジーガスだけでなく、あの皇帝陛下も深々と頭を下げていた事だ。あれほどの存在感を持つ男が最大の敬意を払う存在に注目すべく、入口の扉を凝視するが、誰も入ってくる気配はない。
「ありがとうございました。皆さん、ご着席ください。」
雷葉のその合図で全員が席に戻る。一番最後まで頭を下げていた皇帝も普段の立ち振る舞いに戻って着席する。
「あ、あの…桜田さん、今のは…」
「ん?ああ、あれはいつもの儀式だ。今は亡き俺たちのリーダーに対する、ね。」
「それは一体…」
ヴァルスが詳しく聞こうとしたタイミングで皇帝が大声で呼びかける。
「本日は集まってくれてありがとう。先ずは、偉大なるあのお方への感謝をここに。…それでは、第36回『世界議会』の開催をここに宣言する!」




