AM 深刻(黒)
「はぁはぁ…道草!香夜は!香夜はどうなった!!」
血相を変えて走ってきた立松は、病室の前の席に座る道草の姿を見て叫ぶ。
「…立松の姉貴…面目ありません。私がいながら…」
道草にいつもの陽気さは全くなく、手術中のランプが光る部屋を見つめていた。
「事情を詳しく話せ!…って、お前のその腕…」
立松が道草の腕を見ると、その全体が氷で覆われていた。さらに、透明な氷の奥には赤い血が見えた。
「私は止血しているので大丈夫です。それよりも2人が…南は何箇所かの骨折や刀傷など、重傷ですが命に別状はありません。しかし…香夜殿は…複数の銃槍に胸に深い切り傷、全身の打撲、長時間の大量失血に、腕や肋の複雑骨折、指8本の骨折と超重傷です。先生の話では助かる見込みは…低いと。そうでなくとも、何かしらの後遺症が残る可能性があると言っていました。」
道草は香夜の深刻な状態を素直に打ち明けた。
「なん…だと…」
その惨状を聞いた立松はその場で崩れ落ちた。そして、すぐにそこへ1人の女が走ってくる。
「ちょっと、ママ!はぁはぁ…速すぎよ!表に停めた車はどうするの…って、ママ!?」
道草からの電話を受け、即座に本部から車を走らせてきた立松は表で車を乗り捨て、無我夢中でここまで来た。同行していたリシェルは混乱しながらもその後ろから追いかけて来ており、手術室の前で膝をつく母親の姿を目撃した。
「ママ?…あぁ、前に話を聞いていた立松の姉貴の娘殿ですか。私は道草鞠夫と申します。以後、お見知り置きを。」
「あ、はい。私はリシェルです。よろしくお願いします。それより、香夜さんという方…どうなったんですか?」
リシェルは立松の背中をさすりながら道草に尋ねる。
「…非常に危険で、死亡する可能性もあると…」
そう絞り出した道草の拳からは、血が滲む。
「そんな…」
「…香夜…かや…だめだ…行くな…私がついてるぞ…今いくからな…もう大丈夫だぞ…かや…かや…」
立松はあまりの衝撃に極度の混乱状態に陥り、独り言を言いながら手術室の方へ歩き出した。
あまりの異常事態に、近くにいたリシェルは立松を抑える。
「ママ!どこ行くの!落ち着いて!ママが行っても出来ることなんてないわ!!今はお医者さんと香夜さんを信じましょう!」
「…どけリシェル…わたしは…もう失うわけには行かない…わたしのむすめ…かや…いまいくぞ…わたしが…」
抑えるリシェルを無視して立松は手術室の扉に手をかける。
「…つ、強い!!…こうなったら…ママ…ごめんね…」
立松の怪力を止めることが出来ないと判断したリシェルは立松の首筋に細い針を刺した。
「……あ……かや…いかないで…………」
針に塗られた睡眠薬によって立松はその場で眠ってしまった。
「…リシェル殿…すみません。」
道草はリシェルに感謝の意を示す。
「いえ…あんな状態の母を中に入れたら、成功する手術も失敗してしまうかもしれませんから。」
そう言って眠った立松をその場の待合席に寝かせた。その後、2人は一才の会話をしなかった。
ガシャ!
手術中のランプが消えた。それに気付いた2人は即座に立ち上がった。さらに信じられない事に、眠っていた立松も目を覚ました。
「ママ!」
「…すまない、2人とも。私は混乱していたようだ。」
そして、3人は手術室の扉を凝視する。少しすると中から医者が出てくる。医者が何か言うその前に立松が問いかける。
「先生!香夜は!香夜はどうなりましたか!!」
医者はマスクと手袋を外しながら話す。
「とりあえず、命は繋いだ。意識はまだ戻らないだろうが、このまま安静にしていれば死ぬ事は無いだろう。」
それを聞いた立松は待合席に倒れるように座り、涙を流した。
「…そうですか!…うぅっ!よかった!本当によかった!」
「女神よ!私は信じておりましたぞ!!」
それにつられるように道草も涙を流しながら喜びを表現する。
「本当に危なかった。あと5分遅れていたら間違えなく死んでいた。氷による止血も完璧だった、あれが無くても出血多量で確実に死んでいた。しかし…20代やそこらの女があそこまでの怪我…よく生きていたモノだ。」
「よかったわね!2人とも!」
泣き続ける2人を見てリシェルもつられて少しだけ涙を流す。そして、リシェルは立松を抱きしめ、立松も抱きしめ返す。
「ああ、心配をかけてすまない。」
「本当に感謝しますぞ、流石は柏木組お抱えの闇医者です。」
道草はそう言って医者の手を握る。
「感動してるとこ悪いが、次はアンタだ。その腕、速く治療しないと壊死するぞ。さっさとコッチへ来い。」
しかし、医者は感動の雰囲気をぶち壊して道草を手術室まで誘導する。
「あ、そうでした。…では、失礼します。あとはお二人で。」
そうして2人が手術室に入った事で、再びリシェルと立松は2人きりになった。
「リシェル…いきなり連れてきてしまってすまない。それに、コチラの都合で色々心配もさせたな。」
「いいのよ。コッチでのママの娘みたいな人なんでしょ?…私も話してみたいわ。」
「ああ…年齢も近いし、きっと仲良くなれる。…きっとお前にとっては姉のような存在だろうな。」
「姉か…そうね。私も姉妹が欲しかったから、嬉しいわ。」
2人はそのまま、道草が出てくるまで語り続けた。
ーー数日後ーー
香夜は闇医者から、柏木組内の病室に移されていた。
とある日、そこに入ってきたのは車椅子に乗った南だった。香夜のベッドの隣にいたのは、腕を包帯で巻かれた道草だった。
「道草の兄貴…香夜の姉貴はまだ起きませんか?」
「南…そうですね。かれこれ3日程経っていますが、一向に目を覚ましません。」
「姉貴…」
南は心配そうに香夜を見つめる。
未だに目を覚さない香夜は全身が包帯で巻かれていた。腕には管が通され、呼吸器を付けられ、折れた両手の指はギプスで丸く固定されていた。その装着された医療機器の多さが香夜の重傷度合いを物語っていた。
「道草の兄貴…香夜の姉貴は本当にすごい人です。俺たちが苦戦したあの2人を同時に相手して、1人を重傷、もう1人を戦闘不能にまで追いやったんですから…その後に俺があの男と一対一で戦えるように、姉貴は意識を繋ぐために…自分で指を…」
そう言って南は香夜の右手を優しく触る。
「そうですね。この方は本当にお強い。無能力者にも関わらず、私が倒せなかった相手を倒した。私もまだまだです…もっと己を磨かねば、このお方の隣に立つ事はできません。」
道草も香夜の左手を優しく触る。
「……あに…き…じゅん…ぺ…」
「あぁぁあ!!香夜の姉貴!!」
「おぉおお!!女神よ!!私ですぞ!貴方のフィアンセ、道草ですぞぉお!!」
香夜が少しだけ目を開けながら小さく呟いた声を2人は見逃さなかった。
「姉貴!すみません!!俺が…俺が弱いせいで、姉貴に無理させてしまって!!」
「…そう…ね…あなたは…おじちゃん…の息子…なんだから…もっと…つよ…く…………」
力尽きた香夜は再び眠ってしまった。
「はい!…俺、強くなります!香夜の姉貴よりも!親父よりも!そして、姉貴を守ってみせますから!!」
「南、女神は寝てしまったのですからお静かに…今はお休みさせてあげましょう。」
「はい。すみません。それよりも、立松の姉貴に連絡しましょう!」
そうしてボロボロの3人は、久しぶりの再会を果たしたのだった。
更新が遅くなりました。しばらくは此方を進めていきます。




