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39 お母様(白)

「ママ!ママ!!いやぁああ!そんなの嫌よ!!ママぁああ!!」


 既に動かなくなった立松の死体をリシェルは強く抱きしめて、涙を流す。ヴァルスはしばらく何も言わずにそれを見守っていた。

 しばらくしてリシェルが泣き止み、動かなくなってしまった。そこでヴァルスが声をかける。


「彼女は最期まで芯を貫いた本当にカッコいい女性だった…流石はお前のお母さんだな。」


「……」


「リシェル、そろそろ時間だ。早くここを脱出しないと、敵に囲まれてしまう。行くぞ。」


 そう言ってヴァルスはリシェルの手を掴んで引っ張ろうとしたが、リシェルはそれを拒んだ。


「ダメよ…ママを置いては行けないわ…こんなにボロボロになって…1人じゃ可哀想でしょ…」


「リシェル…ダメだ。お前を置いていくワケにはいかない。ここに残れば、この人を殺害した犯人として殺されてしまう。だから早く…」


 そう言って強く引っ張ろうとしたところ、リシェルはそれを振り払う。


「うるさい、うるさい!!別に殺されたっていいわ!!ママは私と暮らしたいと言ってくれた!だから少しでも私が一緒にいてあげないと!!」


「いい加減にしろ!!」


 ヴァルスはリシェルを引っ張って無理矢理引き剥がした。


「この場でお前が死ぬ事をあの人が望んでるわけないだろ!!俺はあの人にお前を託されたんだ!!絶対死なせるものか!!それが、あの人を殺した俺の責務だ!!」


「待って!ママが!ママが!!」


 そう言ってヴァルスは立松の死体を背に、暴れるリシェルを抱えて無理矢理その場を離脱しようと走り出した。


「うっ!!!!!」


 ヴァルスが走り出したその瞬間、建物全体が悍ましい気配に包まれる。ヴァルスは本能的にその存在感に気圧され、足が止まる。そして、何も言わずにリシェルをその場に下ろして、気配を集中させる。


【貴方がリーシェね。会いたかった。】


 全ての感覚を研ぎ澄まし警戒していたヴァルスの背後からいきなり話しかける声があった。ヴァルスが背後を振り返ると、後ろにいたのは2人の女だった。


「…レムナさん?いや、雰囲気が違う。貴女たちは一体…っ!!!」


 ヴァルスは2人を凝視する。1人はレムナと似た顔立ちのオッドアイの女で、一瞬レムナと勘違いするが、別人である事に気づく。問題はもう1人だった。レムナと似た女よりも明らかに幼い見た目で、リシェルより少し歳下と思われた。


「あ……あ…………」


 その女のオッドアイの目を見た瞬間、ヴァルスの理性が吹き飛んだ。


「ガァああああ!!!」


 ヴァルスは獣のような声を上げ、その幼い女に襲いかかる。


「ヴァルス!!」


 その目には理性が全く宿っておらず、ただ敵を殺す事しか考えていない様子だった。身体のブレーキを無視した、その全力の突進は目にも止まらぬ速さだった。しかし、女は余裕そうに欠伸をする。


「はぁああ…眠くなってきちゃった。ん?あら、貴方もそうなの?でも、貴方と戦う気はない。消えて。」


 ヴァルスの凄まじい拳が女に当たる瞬間、女が適当に右手を振ってヴァルスに当たった瞬間、ヴァルスの姿が一瞬で掻き消える。


「えっ!!ヴァルス!!どこ行ったのよ!!ねぇ!!」


 リシェルも慌てて周りを見渡すがその気配すら全く感じない。慌てるリシェルに対して雷葉が話しかける。


「大丈夫よリーシェ。彼には外に行ってもらっただけだから。」


「雷葉…何でここに?」


「お兄様から頼まれ事があって来たの。それにお母様がどうしても貴方に会いたいって言うから。」


「ちょっとらいちゃん、私はそんなんじゃない。ただ、2人の友達だって言うから、何か邪な目的で付き合ってるなら殺そうと思ってきただけ。」


「ああ…そう…でも、ごめんなさい。今はそう言う気分じゃないのよ。ママの側にいてあげないと…」


 そう言ってリシェルは立松の遺体の方まで歩いて行き、再びその遺体を抱きしめて動かなくなってしまった。それを見かねた雷葉が幼い女に声をかける。


「お母様、頼まれてたのはあの人よ。お願いしていいかしら?」


「そうね、あの子は貴女たちの友達だもんね。私もママ友が欲しいと思ってたところ。」


 そう言って女が徐にリシェルに近づいてくる。


「どいて。」


「いやよ…今まで一緒に入れなかった分、少しでも側にいたいの。だから…キャア!」


「大丈夫よ、リーシェ。お母様に任せて。」


 女の提案を拒否するリシェルを雷葉が無理矢理引き剥がした。少し離れた所まで連れて行き、雷葉が後ろからリシェルの目を隠す。


「ごめんなさいね。これだけは見せないようにって、みんなから止められているの。少しだけ我慢してね。」


「ねぇ!ママに何するつもりなのよ!!ねぇってば!」


 リシェルの問いを無視して雷葉は笑顔を見せる。それから少しだけ時間が経って、女が声をかける。


「終わった。もういいよ。」


 そう言われて雷葉はリシェルを解放する。リシェルは急いで立松の方へ向かう。リシェルが立松の身体を見ると、全身の傷や血が綺麗にされていた。


「ああ…エンバーミングってヤツね。綺麗にしてくれてありがとう。良かったわねママ…」


 そう言ってリシェルが立松を再び抱き上げると、なんと立松が動き出した。


「えっ!!」


「うぅぅ…ん?ここはどこだ?」


 寝起きの様な態度を見せる立松にリシェルは驚愕の声を上げる。


「ママ!私よ、リシェルよ!分かる?」


「ああ…当たり前だ。にしても、寝てしまったと思ったら急に全身が軽く…一体何が…はっ!まさかここはあの世か!!それにリシェルまで来てしまったのか!!」


 壮大な勘違いをする立松をリシェルは落ち着かせる。


「落ち着いて、ママ。ここはあの世じゃないわ。…雷葉!これは一体どういう事よ!!」


「それはね…」


「私の能力で死体を無理矢理動かしているだけだよ。まぁそう長くは続かないから、今のうちにたくさん話しておくといいんじゃない?」


 雷葉の言葉を遮って女が話す。リシェルはそれを聞いて愕然とする。


「そう…でも、これは本当のママなのよね?…ありがとう、少しでも私と長く居させてくれて。ママ、少ししか話せないらしいけど、たくさんお話ししましょう。」


「そうなのか…身体の違和感は全くないのだがな…だが、そうだな。神がくれた最期の時間を大切に過ごそう。」


 そう言って2人は強く抱きしめあった。


 それを見て雷葉は微妙な表情をする。そして女は驚いたように話しかける。


「へぇー、貴方は怒ったりしないんだ。今まで、このドッキリをした人たちはみんな怒ってきたのに。死者を弄ぶなー!って。」


「お母様、その悪戯はやめましょうって何度も言ってるでしょ?はぁ…リーシェ、さっきのは嘘よ。死体を無理矢理動かしているワケじゃないし、時間制限もないわ。正真正銘、生きた貴方の母親よ。」


「…生きた母親って…さっきまでママは確実に死んでいたのに、生き返ったって言うの!?」


「そうね。信じられないかもしれないけど、これは夢じゃない現実よ。」


 それを聞いたリシェルと立松は理解が追いつかない。


「生き返った!?…やはり私は一度死んでいたのか…それにしてもこの身体、左手まで完治している。一体どんなカラクリだ!?」


 そう言って立松は、かつてリシェルに切られた左手と、綺麗さっぱり傷口が消えた腹部を眺める。


「よかったわね。2人とも、兄様とお母様に感謝することね。いや…そもそもこれも兄様の仕組んだ事だから、感謝する必要はないか…」


 それを聞いて立松は目の前にいる女を見つける。抱き合っていたリシェルを優しく離し、その場で頭を地面に叩きつける。


「本当にありがとうございました!この恩は、私の全てを賭けていつか必ずお返しします!」


 それを見てリシェルもその場で深く頭を下げる。それを見た女が話しかける。


「別に感謝しなくてもいいよ。慎吾くんに頼まれた事だしね。それに、家族はやっぱり一緒じゃなきゃ。…今後、娘を悲しませたくないんだったら、もう勝手に死なない事ね。…残された人たちの気持ちも考えなさい。」


 女は最後に悲しそうな表情を見せた。そして欠伸をしながら眠そうに言う。


「はぁああ…能力使ったせいで眠くなっちゃった。リーシェにも会えた事だし、私は帰って寝るわ。らいちゃん、後はよろしく。」


 そう言って女が目の前に手をかざすと、半径1メートルほどの巨大な白い円が出現する。その巨大な円から放たれる波動は、規格外のモノだった。それを見て、リシェルと立松は全身から汗が吹き出る。そんな中、涼しい顔をした雷葉が手を振る。


「分かったわ。おやすみお母様。」


 そうして、女は禍々しい波動を放つその円の中に入って行った。女の全身が入りきると、すぐに円はかき消えてしまった。


「はぁはぁ…今のは…何だったの?」


「ああ…近くにいるだけで動けなくなるほど危険だと感じる波動だった…あれが1人の人間の波動なのか?」


 女のいた場所に目を向けながら呆気に取られている2人に雷葉が話しかける。


「さて!2人ともここで見た全ての事は忘れてね。理由は言わずもがなだけど、この事は議会でもタブーとされている事だから、家族を含めて誰にも言っちゃダメよ。立松さんは初めから死んでなくて、ギリギリで生きていたところを治療して直してもらった。いいですね?」


「ええ、分かったわ。ヴァルスにもそう説明しておくわ。」


「はい、分かりました。立松華織の名に誓って他言しないと約束します。」


 そして、そのタイミングで部屋の入口の扉が開く。


「…あっ、やっぱりここにいた。おねえさまとリーシェ…久しぶり。」


 部屋に入ってきたのは、全身血塗れで左足と右腕がぐちゃぐちゃに折れた、ボロボロのレムナだった。

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