AM 増援(黒)
道草の舞台内では所々が氷で覆われていたが、気温はそのままだ。瀕死の2人に配慮した道草が調整していた。そして、両手に氷で作った剣を携え、田沼に向き直る。
それを見た田沼も臨戦態勢を取る。
「武闘派の道草か。なぜここまで戻ってきた?本部に行かなくていいのか?」
「黙れ。私の愛の力は理論を超越する。私の妻と可愛い舎弟を痛ぶった貴様はここで殺す。」
「ほう、面白い。やってみろ!」
そして、田沼が道草に突進する。凄まじい踏み込みだったが途中で地面が氷になり、バランスを崩す。そこに道草の氷塊が飛ぶ。
「うおっと!いいねぇ!戦いはこうじゃなきゃぁな!」
田沼は笑いながら全ての氷塊を手に持ったナイフで叩き落とす。逆に最後の一発はナイフの側面で道草の方へ打ち返した。
道草は既に田沼に向かって飛び出しており、その氷塊は道草の眼前まで迫るが、着弾する前に消失する。道草は舞台の中であれば自身の能力を自由に操れる。自身の生み出した氷を消すのも容易い。そして、距離を潰した道草は氷の剣を振るう。
田沼は一撃目を容易に弾き、カウンターを飛ばす。しかし、南の身体は既に氷で覆われており、ナイフが止まる。その隙に道草のもう片方の氷の剣が田沼を襲う。
それを田沼はナイフを捨ててバックステップで回避する。
「はっ!完全に避けたと思ったが、流石にやるな。」
そう言って狂気的な笑みを浮かべる田沼の顔には、額から頬まで伸びた切り傷があり、血が流れていた。
道草は斬りつけるタイミングで剣を少しだけ伸ばして攻撃範囲を広げていた。
「貴様など私の敵ではない。次はその薄ら笑いごと真っ二つにしてやる。」
再び道草が剣を構える。
「はっはっは!面白くなってきたな!そろそろ俺も本気でやらせてもらおうか!!」
そう言って田沼の顔から滴る血が拳銃の銃口に落ちた。その瞬間、田沼が銃を速射する。
それに対して道草は氷の壁を作り、ガードする。しかし、その弾丸が氷の壁に触れた瞬間、氷の壁が消失する。
「チッ!」
壁を失った道草は咄嗟に身体を捻って回避するが、銃弾が肩を掠める。道草は反撃しようと能力を発動させようとするが、その手からは何も出てこなかった。
「何!?なぜ能力が出ない!!」
困惑する道草だが、いつのまにか地面に描かれた方陣も力を失っていた。田沼も既に距離を潰しており、凄まじい横薙ぎを放つ。
丸腰の道草はバックステップで回避するが、それを読んでいたかのように田沼は銃を構えていた。そのまま速射し、体勢の悪い道草の脇腹を凶弾が抉る。
「うぅ!クソッ!」
道草が脇を押さえながら膝をついてしゃがむ。
「何が起こっているか分からないだろ?これが俺の能力だ。ここからは小細工無しの殴り合いだな!」
そう言って田沼は再び距離を潰す。
「舐めるなぁ!」
道草は懐からナイフを抜いて迎撃する。2人は激しい斬り合いにもつれ込んだ。
「すごいなぁ、道草!能力無しでもここまでやるとは!」
「黙れ!貴様などに負けるものか!!」
しかし、ほぼ無傷の田沼に対して脇腹に銃弾を喰らった道草では少し分が悪かった。徐々に道草が押されていく。その中で突然、田沼が一歩下がって銃を構える。だがその方向は道草を向いておらず、道草の後ろにいる気絶した香夜に向いていた。それに気づいた道草は咄嗟に田沼の銃を持つ腕を狙いに行くが、それは田沼のブラフだった。腕を狙った甘い斬りつけを簡単に腕を引いて回避し、逆の手のナイフを道草に斬りあげる。
「これで終わりだ!」
「ぐぅぁああ!」
完璧なタイミングで放たれた必殺の一撃を道草は腕を入れて何とか止めた。しかし、その腕からは激しく血が流れる。道草も咄嗟に後ろに下がって、倒れた香夜を背に手を広げる。
「ギリギリで回避したか。だがいつまで続くかな?」
田沼は再び臨戦態勢に入る。しかし、道草はその場で決断する。
「女神よ、失礼しますぞ!」
そう言って道草は気絶した香夜の懐に手を入れ、何かを取り出した。
「南!!離脱!!」
「は、はい!」
そして田沼の前に3種類のモノを投げつける。それは香夜が携帯していた閃光弾と手榴弾と煙玉だった。
「チッ!やはり優秀だな。」
田沼は耳と目を守りながらバックステップで下がる。道草は倒れた香夜を庇うようにして背中を向けてる。
そして、3つの兵器が同時に起爆し、辺りが混沌に包まれる。道草はその隙に香夜を抱えてその場を脱出していた。南も少しだけ回復した事で自分で立ち上がって道草の後ろを走る。
逃げる3人に対して田沼は追撃を警戒して、追おうとしなかった。
(もしかしたら奴らの罠の可能性もある。これ以上追撃するメリットは少ない。今日はここまでだな。さて、本部襲撃はどうなったかな?楽しみだなぁ!)
田沼は煙の中、笑いながら消えていった。
逃げ出した3人は何とか車に乗り込み、ホールを脱出した。全員が満身創痍たが、片手が死んでいる道草が片手で運転する。
「はぁはぁ…道草の兄貴、ありがとうございます。助かりました。」
「いえいえ、2人とも生きていて本当に良かったですぞ。でも、女神はもう限界が近い。すぐそこの闇医者を使いますぞ!」
そう言って道草はアクセルベタ踏みで闇医者に向かった。
3章の(黒)はこれで終わりです。




