6 戦争(白)
「各員傾聴!これから進軍し、柏木組の本部を襲撃する。セントラ地域に入れば、敵が迎撃してくるがそれらは全て第三軍が受け持つ手筈となっている。我々第二軍は真っ直ぐに敵の本拠地を目指して先行し、正門と裏門から同時に襲撃を仕掛ける。正門は私が、裏門は副隊長が先導する。潜入後は即座に散開し、敵を撹乱せよ。敵の迎撃部隊を打破した後、第三軍と第五軍も合流する手筈となっている。だからそれまでは敵を引きつけることに注視せよ。以上!」
リミエルは万全な準備を整えた第二軍の軍人達に向けて檄を飛ばす。自分たちの役割を理解した第二軍の軍人達も覚悟を決めた。
「では、進軍開始!」
先行する第三軍に追従して、第二軍も進軍を開始した。その先頭を進むのは、隊長であるリミエルと副隊長であるドレル・ドリメルだ。
「副隊長、今回の作戦は我々がカギだ。私と貴殿で敵の幹部連中を討ち、他のメンバーが構成員の足止めを図る。特に、範囲攻撃持ちの幹部クラスは早急に仕留めなければこちらが全滅しかねんからな。」
「了解した。」
「…死ぬなよ。」
周りの進軍の音で掻き消され、ドレルに聞こえない音量でそう呟いた。
「いやぁ、お二人とも緊張しすぎですよ。肩の力抜いて、リラックスしていきましょうよ。なんとかなりますって。」
「お前はもう少し緊張感を持て。」
後ろから話しかけてきて軽口を叩くナルキに対して、リミエルは一喝した。
「リミ姉、いや隊長。俺とナルキさんは正門ですよね?俺たちはどうすればいいですか?」
「状況次第だが、私は敵の幹部を討つために組長のいる中央部の建物まで侵入する予定だ。だから、2人には正門での他構成員の足止めを頼みたい。」
「おう!任せてくれよ隊長。隊長が戻ってくるまでにこっちの敵は全員倒しとくからよ。敵の大将をぶっ殺して、安心して戻ってきてくれ!」
リミエルから直接激励を受けたナルキはいつも以上に張り切っていた。
「もうすぐ、セントラ地域に入るぞ。気合いを入れろ。」
そう言った一行の目の前には、激しい戦闘の後が残る街が見えてきた。
「全軍、突撃!」
先頭を走る第三軍の隊長が咆哮を上げた。
それと同時に、その場にいた全員が走り出した。戦場が始めてだったヴァルスは少し戸惑いを見せながらも走り出し、隊長と副隊長の背を追った。
「なんじゃあ!カチコミか?!」
こちらに気付いた敵の斥候が声を上げた。
「本部に連絡せぇ!この数は、グハッ!」
本部に連絡しようとした敵を攻撃したのは、先頭を走る第三軍のメンバーだ。
そのままの勢いで走り抜けるが、敵の本拠地に近づくにつれて、敵が多くなってきている。当初の作戦通り敵の迎撃部隊は先行する第三軍が引き受け、激しい戦闘に入った。
敵と味方が戦って倒れていく中、第二軍はそれらには目もくれず真っ直ぐに本拠地を目指す。殿となった第三軍はほとんどが敵と交戦中となり第二軍にも敵が襲ってきた。
「テメェらここをどこだと思っとるんじゃ。」
「邪魔をするな。」
第二軍の前に立ち塞がる敵に対して、副隊長のドレルが無慈悲に獲物を振り上げる。
敵も刀で迎撃しようとするが、ドレルの巨大戦斧で薙ぎ払われ、吹き飛ぶ。
その頃、左右に展開しているシュリスとモルモンも敵の襲撃を受けていた。
「おらっ!吹き飛べ!」
「ちょっと、こっちに飛ばさないでくださいよ!これだから4番は。」
「あー?誰が4番だって?お前が4番だ、バカ女。」
「あなたと口論している暇はありません、ほら、次来ますよ。」
「チッ、ムカつく女だ。まぁこの戦いで俺が第二軍のナンバー3である事を証明してやるとしよう。」
敵陣のど真ん中でもいつも通りの会話をする2人はまだまだ余裕そうだった。
そうして本拠地の前に辿り着いた。
「何人やられた?」
「12人です。」
「分かった。」
道中で敵にやられてしまった者、ここに来られなかった者の人数を確認したのち目の前の巨大な建物に目を向ける。
一組織の拠点とは思えないほどに広いその場所は遊園地以上の広さを持っていると思われる。外の塀からでは中の様子は全く見えない。
「では各員、予定通りに役目を全うせよ。武運を祈る!」
《了解!》
その掛け声と共に裏口へ行くために、副隊長を筆頭に隊員がおよそ半分に分かれた。
「裏口のメンバーはこっちだ。」
「足引っ張んなよ、4番。」
「それはこちらのセリフですよ、自称3番さん。」
「早く来い。」
そう言って、ドレルを筆頭に半分のメンバーは裏口へ向かった。
「我々も行くぞ。」
正門は巨大な木製の扉で閉ざされていた。その扉は高さ3メートルはあるのでは無いかというほど、大きく堅固なものであり、まともに突破することは不可能だと思われた。
「ナルキ、頼む。」
「はいよ。」
そう言ってナルキが前に出てきて、扉に手をあてる。そうすると木製の扉が朽ち始め、ボロボロになってしまった。そうして、ボロボロになった扉を他の隊員が蹴破った。
「突撃!」
そう言って、リミエルを筆頭にそこにいたメンバー全員で敷地内に突入した。
ヴァルスはこの場所に来てから嫌な予感がずっと拭えなかった。
初めての戦場で緊張していたからなのか。敵の本拠地だから危険なのは当たり前だ。これだけ危険な作戦だ、死者も多く出るだろう。そんなことは分かっている。だが、何か嫌な予感がずっとしている。
その予感はこの後、すぐに的中する事になる。
ヴァルスの最悪の1日が始まった。
次回から(黒)になります。




