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37 親子(白)

「やぁ!はぁはぁ、これで3人目ね。」


 リシェルはこの建物の入口で敵の増援を食い止めていた。続々とやってくる敵にリシェルも息を切らしていた。幹部クラスでは無いにしても、リシェルからすれば十分に鍛えられた猛者であり、全員に傷を負いながらも、ナイフに塗った薬で全員を眠らせている状況だった。

 入口のエントランスの様な広い空間の奥で隠れながら待ち伏せしていたリシェルだったが、3人目を倒したところで大量の敵が雪崩れ込んでくる。


「岸の兄貴から侵入者がいると連絡があった!絶対に逃すな!ここで全員仕留めるぞ!」


「チッ…あの数は流石にマズイわね。まともに行ったら勝ち目がないわ。」


 そう言ってリシェルは敵をギリギリまで引き付けて、リーダーらしき男に一気に襲いかかる。リーダーの男はリシェルのナイフにギリギリで反応し、なんとか受けたが、ナイフが滑って腕を掠める。

 その瞬間、男の身体が薬によって硬直し、力なく地面に倒れる。


「なんだ!敵か!!」


「敵は女1人だ!!囲んで殺せ!!」


 周りにいた男たちがリシェルを取り囲んで一気に襲いかかる。そのタイミングでリシェルは地面に煙玉を投げ、辺りが一気に煙に包まれる。極道達はヤマカンで銃弾の雨を降らせるが、素早いリシェルは既に敵の中から抜けており、煙の中で何人にも薬を塗ったナイフで傷を付けていく。しかし、組員の1人の背後に来たタイミングでいきなり腕を掴まれる。


「何!?」


「残念だったな。俺は耳がいいんだ。ふん!」


 男は掴んだ腕を引っ張って上向きに力を加える。


「キャア!」


 体重の軽いリシェルは容易に空中に浮かされ、男は思い切り地面に叩き付ける。リシェルも空中で身を捻って何とか受け身を取るが、地面に無防備に晒される。リシェルが立ち上がる前に、その男に背中に膝を押し当てられ左手も踏みつけられる。


「グゥ!クソッ!離せ!」


「大人しくしてろ。暴れたら右腕を折るぞ。」


 そう言って男はリシェルの右腕を捻り上げる。激痛で顔が歪むリシェルは背中を強く抑えられて、呼吸するので精一杯となり、完全に身動きが取れなくなった。煙が晴れた頃、周りにいた組員たちが組み伏せられたリシェルの周りに集まってくる。


「厄介な女だったな。でもこれで終わりだ。」


「嬢ちゃん、そんなに若くて美人なのに、人の道外れちゃいけねぇよ。残念ながら、これから待ってるのは地獄だ。嬢ちゃんみたいな若くして外道に落ちる女をこれ以上生まないために、見せしめとしてキツい拷問の後に殺す。来世では正しく生きな。」


 身体を抑えられ、何人もの組員に銃口を突きつけられたリシェルはとうとう観念した。


「はぁはぁ…ここまでのようね。ヴァルス…ごめんなさい。先に逝くわ…貴方は生きて…」


 その時、とある若い組員が下卑た笑い声を出しながら話す。


「兄貴、どうせバラすなら、俺が楽しんでもいいですか?コイツ、身体はガキだけど相当に美人だ。お願いしますよ。」


「…うぅぅ!誰がガキだ!お前みたいな三下はお断りよ!」


 その瞬間、その男がリシェルの指を踏みつけて怒りを露わにする。


「おい!調子に乗るなよ。次に口答えしたらこの指折るぞ!」


 そう言ってリシェルの人差し指をグリグリと踏みつける。


「グゥ!!…ふん!やれるもんならやってみなさいよ!!」


「おい!お前ら何を遊んでいる!?」


 そう言って建物に入ってきたのは立松と直属の複数人の舎弟たちだ。立松は相変わらず車椅子に乗っており、先ほどの会話を聞いていたようで表情は険しい。


「ゲッ!立松の姉貴!?」


「我々は任侠者だ。いくら襲撃者だとは言え、見せしめにする必要はない。さっさとその場で殺してしまえ。」


 立松は極道達に囲まれた女を遠目に見ながらそう言い放つ。


「はい。分かりました。良かったな嬢ちゃん、最後に名前だけでも聞いてやろうか?」


 そう言って頭に銃口を突きつけられたリシェルは大声で言い放つ。


「ふん!私はリシェルよ!でも覚えておきなさい、ここにいる貴方たちは、私の死体を見て怒り狂った私の相棒に皆殺しにされるわ!!地獄で会いましょう!!」


「そうか…じゃあな。ん?」


 そう言って男が引き金を引こうとした瞬間、入口の方から強烈な殺意を感じ、そちらを見ると、立松が鬼の形相でコチラに全力で走ってきていた。


「た、立松の姉貴!?グハァ!!」


「姉貴何を!?グヘェ!」


 混乱する極道たちを殴り飛ばしながら、押さえつけていた男も蹴り飛ばしてリシェルを抱きしめる。


「うぉおお!!!リシェル!!無事か!?」


「って、ママ!?」


《ママ!?》


 周りの組員たちが驚愕の声を上げる中、2人は人生で2度目の感動の再会を迎えた。



「ああ、私の可愛いリシェル。やはり生きていたんだな。私は…私は!」


 そう言って涙を流しながら、リシェルを強く抱きしめる。


「ちょ、ママ!力強すぎ!苦しいって!!」


 立松はそれを無視して更に強く抱きしめながらリシェルの頭を撫でる。


「ああ…こんなに傷ついて、痕が残ったら大変だ。すぐに手当しないと。」


「ぐぅ…苦しい…」


 顔を胸に埋められ、息も絶え絶えのリシェルを無視して立松は涙を流し続ける。それを眺めていた組員が話しかける。


「あの…俺たちはどうすれば…この女、殺さなくていいんですか?」


 それを聞いた立松は凄まじい怒りの表情を見せる。


「ああん?誰を殺すって!?貴様から先に殺してやろうか?」


「ひぃ!?」


 ヒヨッコの新人たちは立松の圧に気押される。それを無視して再びリシェルに向き直る。


「ああ…ここも、ここも血が出てるじゃないか。可哀想に…一生残ったらどうしようか…………おい、これをやったのは誰だ?」


 立松は急に低い声で周りにいた組員たちを睨み付ける。睨まれた組員たちは恐怖で萎縮する。


「…お前ら全員、後で私の部屋まで来い。たっぷりと説教してやる。」


《ひぇ!》


 説教と言う名の暴力を悟った組員たちは涙目になる。


「ああ…でも、この人たちも役目を果たしただけだし、そこまでしなくてもいいんじゃないかな?ほら、私だって生きてるワケだし、こんな傷も全部掠り傷だからさ、ね。」


 流石に可哀想に思ったリシェルが救いの手を差し伸べる。


「そうか…お前は本当に優しいな。……お前たち、命拾いしたな。」


「おお…神よ…」


「まさに俺たちの救世主だ!」


 半殺しを回避した組員たちは口々にリシェルへの感謝を示す。


「ねぇママ、そろそろ離してくれないかしら?流石に大勢に見られて恥ずかしいんだけど…」


 リシェルは顔を赤らめながら懇願するが、立松は一向に離す気配がない。


「ダメだ。あと2時間はこうしていたい。それに、私たちは正真正銘の親子なんだからこの程度のスキンシップは当たり前だ。何も恥ずかしがる事はない。」


 そう言って再び強く抱きしめて、胸に顔を埋めさせる。


「うぶっ!ぷはぁ!はぁはぁ…もう〜!いい加減にしてよー!」


 リシェルは抜け出そうと暴れるが、ほぼ片手の立松との力の差は圧倒的でビクともしない。しかし、立松は時折苦痛に歪んだ顔を見せるがリシェルは気付かない。


「グゥ!ふぅ…お前は本当に可愛いな。…お前ら、見せ物じゃないぞ。いつまでそこでボーッとしてる。さっさと他の場所の防衛に行け。」


 リシェルを抱きしめたまま、周りの組員に命令を下す。


「いや、しかしオヤジが…」


「おい…何度も言わせるな。ここは私と岸の2人で十分だと言っている。早く失せろ。これ以上、私と娘の2人きりの時間を邪魔するな。」


「…はい、分かりました。全員、他の区画へ行くぞ!」


 そうして、リシェルに眠らされた組員を抱えて、全員が建物から出ていった。そして、広いエントランスにはリシェルと立松の2人きりになった。

 すると、立松はリシェルを抱き抱えたまま、近くのソファに座りリシェルを膝の上に乗せた。


「よっと…うーん、少し軽すぎるんじゃないか?ちゃんと毎日食べているか?」


「大丈夫よ。それに私は身軽の方が戦いやすいからこれぐらいがちょうどいいのよ。」


「そうか…それにしてもなぜリシェルがこんな所にいるんだ?リスペルに戻ったはずじゃ無かったのか?」


 理由を聞かれたリシェルは少し焦ったように目を逸らす。


「ええっと…それは…」


「なんだ?私に隠し事か?…はっ!これがよく言う反抗期というヤツか!そうだな…うんうん。リシェルはまだまだ子供だ。反抗期の子供を躾けるのも母親の役目だな。」


 初めて母親らしい事ができると、立松は感動に身を震わせていた。


「ちょっとママ!私は反抗期なんかじゃないわ!それに子供扱いしないで!もう立派な大人なんだから!」


「ああ…これが親子か…素晴らしい。…アンドレ見てるか?私がこの子を立派な大人に育てていくからな。」


 そう言って頭を撫でられたリシェルは立松に完全に子供扱いされた事に怒りの声をあげる。


「もうー!私は反抗期の子供じゃないって言ってるでしょ!言うわよ!言えばいいんでしょ!」


 そう言ってリシェルはここに来た目的を立松に全て話した。


 それを聞いた立松は真剣な顔でリシェルに話し始める。


「お前たちがここに来た理由は分かった。この奥で今、ヴァルス・アラムドと岸が戦っていると言う事だな。」


「ええ、そうよ。私は脱出口であるここを守るように言われたわ。」


「ここはもういい。それより2人の元へ行こう。ゴフッ!」


 そう言って立松はリシェルを膝から下ろして歩き出そうとするが、立ち上がった時に血を吐き膝をつく。リシェルが立松を見ると腹部が赤く染まっていた。太田に刺され縫合していた傷が、先ほど走った事で開いていた。


「ママ!大丈夫!?何が…まさか、そのお腹の血…誰かにやられたの?」


「ハァハァ…大丈夫だ。少し傷が開いただけだ。それより、急ごう。」


 そう言って少しずつ歩き始めた立松を見て、リシェルは車椅子を持ってくる。


「はい、怪我人は安静にしてて。私が押してくから。」


 リシェルは立松を支えながら車椅子に乗せた。


「ハァハァ…すまない。」


 そして2人は奥の部屋の扉の前に辿り着く。


「ここに、2人が…開けるわよ。」


 そう言ってリシェルが扉を開くと、そこには倒れる岸とコチラを見つめるヴァルスがいた。


「ヴァルス!!大丈夫!?」


 後ろから続いて入ってきた立松はヴァルスと目が合うと真剣な表情で一言呟いた。


「…ヴァルス・アラムド…」

親バカ

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