34 巨躯(白)
「あれが柏木組の本部だ。」
「あれが…にしても広すぎでしょ。どれだけ塀が続いてるのよ。」
2人は本部近くの道まで来ていた。そこからは本部の裏門が見える。ヴァルスにとっては2度目の柏木組本部襲撃、姉を失った過去のトラウマでヴァルスは動悸が止まらなくなる。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
それを見たリシェルは背後からヴァルスに抱き付いて落ち着かせる。
「落ち着きなさい。大丈夫よ。貴方は1人じゃ無いわ。」
「…ああ。ありがとう。少し落ち着いたよ。」
「ええ、しっかりしなさい。それより、早く突入しないの?」
「おそらくまだ襲撃は始まっていない。ヤツらの突入タイミングに合わせて行くぞ。」
「分かったわ。」
そこでしばらく2人でタイミングを待った。そしてついにその時が訪れる。凄まじい爆発音と共に『憚』の構成員達が本部に雪崩れ込んだ。
「リシェル、行くぞ!」
「ええ!」
2人も構成員たちに紛れて本部に突入した。
内部では至る所に火が上がり、極道の死体が何体も落ちており、まさに地獄のようだった。主戦力が無く、奇襲をかけられた極道が劣勢だったが、彼らも黙ってやられるだけではなく、何人もの敵を倒していた。
「全員殺せ!」
「仁義ハズレのクズどもが!返り討ちじゃ!」
突入した『憚』の構成員はおよそ200人。対して極道は武闘派がおよそ700人。数では圧倒的だが、手段を選ばない半グレたちの攻撃で何人もの組員が死んでいる。さらに、『憚』は武闘派の幹部が集結しており、戦況は五分だった。
ヴァルスとリシェルは目立たないように後ろから状況を眺めていた。
「ねぇ、どうするの?敵が多すぎてここから奥へ行けないわよ。強引に突破する?」
「いや、ここで波動を消耗したくない。少し待とう。まだ時間は…っ!?」
その瞬間、極道たちの奥から凄まじい気配が溢れ出す。戦っていた極道と半グレたちも動きを止め、そこに注目する。そこから現れたのは袴を着た巨躯の男だった。
「おう、ちょっと通してくれ。…面白い事があるって聞いてたが、これのことか。」
それは溢れんばかりの波動を解放し、ゆっくりと歩いてくる鈴木将士だった。
「コイツらを助ける義理はねぇが、アイツが俺をここに呼んだって事は皆殺しにしていいって事だよな!?」
その瞬間、鈴木がとてつもないスピードでコチラに突っ込んでくる。
「なんだ、コイツは!?殺せ!!」
「囲んでやっちまえ!」
「死ね死ね!!」
『憚』の構成員たちは一斉に攻撃を仕掛けるが、全く怯まず進んでくる。そして、鈴木が目の前で拳を振るうと、衝撃波が発生し、軌道上にいた半グレを全員瞬殺した。その隙をついて斬りかかってくる敵も首を掴んでぶん投げると、100キロ以上のスピードで飛んでいき、トラック事故の様に何人も巻き込まれて即死した。
「コイツはヤベェ!!逃げろ!!」
「バケモンだ!!幹部を呼べ!!」
「うるさいぞお前ら。俺がやるからどいてろ。」
そう言って逃げようとした男の首を切りながら、幹部らしき男が後ろから出てくる。
「俺の名は」
「遅ぇよ。欠伸が出る。」
男が名乗る前に、鈴木は拳で男の頭部を跡形も無く消していた。
「さて、次はどいつにしようかな…っ!?面白そうなヤツがいるじゃねぇか!!」
「!!」
周りを見渡してヴァルスと目が合った鈴木は、何かに気づいたかのように一直線にヴァルスに向かってきた。
狙われている事に気付いたヴァルスも剣を抜いて迎撃体勢に入る。
(なんで、俺の方に向かってきた!?いや、そんな事はもうどうでもいい。凄まじいスピードだけど、直線的だ。こっちはリミ姉の超スピードで鍛錬してたんだ、これなら見える。その威力をカウンターで逆に利用させてもらう!!)
ヴァルスは完璧なタイミングでカウンターの剣を合わせる。そして、鈴木の頭部に一刀が直撃する。しかし、鈴木は指2本でヴァルスの剣を掴んでいた。
「何!?」
「いいカウンターだ。だが、効かねぇな。ふんっ!」
鈴木は掴んだ剣を指二本で易々と折る。
「そんなおもちゃで遊んでる場合じゃないぞ。本気出さなきゃ死ぬぞ。」
そう言って鈴木が拳を振り上げた瞬間、ヴァルスの横から1人の女が通り抜ける。そして、凄まじい速さの横薙ぎを鈴木に繰り出す。鈴木は振り上げた拳と逆の腕でそれをガードし、金属同士がぶつかったような音が響き渡る。その女の正体に気付いたリシェルが声を上げる。
「レムナ!!」
鈴木もレムナに気付いた事で、一度構えを解いて笑顔で話し始める。
「ハッハッハ!久しぶりだな!!レムナ!!」
「…うん…」
そう言って鈴木はレムナの一撃を受けた腕に目をやると、ほんの少しだけ出血していた。
「いい一撃だった。また強くなってるな。俺は嬉しいぞ。」
「…おにいも前より波動が洗練されてる…でも、今日こそは私が勝つ…」
「まだまだお前には負けねぇよ!来いや!!」
その言葉でレムナと鈴木の激しい闘いが始まった。
その闘いを眺めていると、背後から聞き慣れた声がかかる。
「ヴァルスくーん、リシェルちゃーん。久しぶりー。大丈夫ー?」
「ンレナさん。俺たちは大丈夫です。それより…レムナさん、凄まじい強さですね。あの男とほぼ互角だ。」
「そうでしょー。帝国十傑は伊達じゃないって事だねー。でも、君の役目はここで闘いを眺める事じゃないでしょー?はい、コレ。」
そう言ってンレナは簡単な手書きの地図をヴァルスに渡す。
「これは…」
「この赤い丸を付けた建物に岸がいるらしいよ。私の役目もこれでおしまい。私はここでサボってるから、2人もちゃんと役目を果たしてきてねー。」
「いつの間に…ありがとうございます。リシェル、行くぞ。」
「ええ…変態さん、レムナの事よろしくお願いします。」
「はいはーい。頑張ってねー。」
そうして、激しい戦闘を続ける2人をおいて目的の建物を目指して走り出した。




