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AG 志願(黒)

「立松姐さん、大丈夫?」


「ああ、こんな怪我など擦り傷だ。」


 病院に運ばれ、治療を終えた立松はベッドに寝かされていた。爆発を庇った左腕は包帯が巻かれ、刺された腹は繋いではいるが、動けば傷が開くような状態で、少しでも力を入れると激痛が走る。


「それより、敵の幹部を逃してしまったな。私が足を引っ張ってしまったせいだ。すまない。」


「いやいや、そんな事ないよ。元々、私が戦えないのが悪いんだから。それに、拠点は破壊したんだし十分でしょ。」


「…」


 少しの沈黙の後、重々しく立松が口を開く。


「…何人が死んだ?」


「…18人。そのうち幹部が2人。やっぱりどこの拠点にも罠があったって。」


「…そうか。」


 立松が気を失っている間、香夜が代わりに被害報告を聞いていた。


「敵が1枚上手だった。まさか、お前の見つけた拠点が囮だったとは。捕らえた敵の情報は真実だった。つまり、あの拠点の人間は情報を抜き取られる前提で虚偽の情報を渡されていた。『憚』…本当に厄介な連中だ。」


「ほんとにそうだね。それともう一つ。捕獲した敵からの情報で、2日後に東町のホールで幹部全員が集まる会議が開かれるって。」


 それを聞いた立松は頭を抱える。


「クソッ!また同じ手を…今度は本当か、それともまた罠か…」


「それについて、カシラが姐さんの意見も聞きたいって。」


「分かった。今すぐ行こう。グゥッ!」


 そう言ってベッドから降りようとした立松だが、腹の傷が激痛を走らせる。


「待って待って!車椅子があるから。これに座って。」


 香夜はベッドの隣にあった車椅子を持ってきて、立松を座らせる。


「ふぅ…悪いな。お前も怪我人だというのに。」


「大丈夫よ。私が押すから安静にね。」


 香夜と立松は若頭の部屋まで向かった。



「失礼します、カシラ。」


「おう、来たか。」


 部屋の中には若頭である松林がいた。そして、他にも岸と神保もその場にいた。


「立松の姉貴、その怪我大丈夫ですか?」


「神保…ああ、私はこの程度では死なん。」


「立松…あまり無理はするな。お前は女なんだから誰かに守ってもらえ。」


「何だと?私はまだ…グゥッ!ハァハァまだ耄碌した覚えはないぞ。」


 岸の言葉に対して車椅子から立ちあがろうとした立松は激痛で苦悶の表情を浮かべる。それを見た松林は笑いながら話す。


「香夜にあれだけ言っておいてお前も人の事言えないな。次に無理しようとしたら、お前が全身麻酔行きだ。分かったな?」


「…はい。情けない姿を晒してしまい、申し訳ありません。」


「それじゃあ、お前たち2人の意見を聞こうか。情報は香夜から聞いてるはずだ。2日後の会合、どうするべきだと思う?」


 そう言って松林は立松と香夜に視線を送る。


「私はまた罠だと思います。ヤツらも私たちが拠点を破壊した事は把握しているはず。仮に本当の会合であったとしても、何かしらの罠を仕掛けてくると思います。だから私は襲撃をかけるべきではないと思います。」


「確かにお前の言葉はもっともだ。ハッキリ言って罠である可能性が高いだろう。しかし、ヤツらの情報が現状これしかない。だから放置するという事はありえない。最低でも鉄砲玉を送り込む必要はある。」


 それを聞いていた香夜が口を開く。


「なら、こっちから先に罠を仕掛けるっていうのは?目には目をっていうでしょ。」


「それも考えた。だが、罠と言っても俺たちが使える罠は限られる。爆薬や毒物の部類はダメだ。あのホールはウチのシマの施設だからな。ヤツらを嵌めるためだとしても、俺たちが進んで施設を破壊するわけにはいかん。」


「なら、誰か忍び込ませるっていうのは?」


「それは非常に危険だ。ヤツらに索敵ができる敵がいれば、隠密はバレてしまう。」


「やはり、力技で襲撃するしかないという話だな。」


 黙って聞いていた岸がそう言った。


「いや、待て。無策で突入するのは危険だ。何かコチラが裏を掻かねば奇襲は成功しない。…周囲に監視員を配置し、幹部が本当に来るのかどうかを調べるというのはどうでしょうか?」


「なるほど、本当に幹部の姿が確認できたら攻め込むというわけか。ホールに協力してもらえば、ホール内の監視カメラの映像も確認できる…悪くない案だ。よし、それで行こう。」


 立松の提案に松林が乗った。それを聞いて神保が松林に話しかける。


「カシラ、メンバーはどうしますか?」


「ああ、東町のホールまでは車でおよそ1時間。だから、その中間位置にカチコミのメンバーを配置する。先ず、戦力として多対1に優れる神保と道草、それと武闘派の中堅を10人、運転などの雑用で舎弟を5人ほどってところか。」


「カシラ、私も行かせてください。」


 香夜はメンバーに自ら志願した。それを聞いた松林は少し俯いて考えた後、結論を出す。


「…分かった、いいだろう。存分に暴れてこい。」


「ありがとうございます!」


「カシラ、俺は…」


「岸、お前は本部の守衛だ。神保も道草も外に出す故に、お前が本部に残る最大戦力だ。頼むぞ。」


「…了解しました。この岸龍司、柏木組の次期組長として、必ずや親父とカシラ、兄貴たちや舎弟も全て守って見せます。」


「よろしくな。立松、お前はもちろん居残りだ。組に残って緊急時には指揮を取ってもらう。」


「分かりました。」


「それじゃあお前ら、気合い入れてけよ!」


《はい!》



 話し合いが終わり、全員が部屋から退室していった。病室に戻ってきた香夜は、車椅子から立松を持ち上げてベッドに寝かせる。そして、立松が香夜に話しかける。


「ありがとう…ところで香夜、カシラがお前の参加を許可したのはお前の能力を買っての事だ。出来るだけ周りにバレないようにしながらその力で掻き乱して来い。やり方はお前に任せる。」


「ええ、分かったわ。私がボスを倒して勝谷の仇を取るわ。」


 その瞬間、病室の扉が開き、南が入ってくる。


「失礼します!立松の姉貴、香夜の姉貴…聞きました。ヤツらの会合に乗り込むって。」


「純平、道草の兄貴にでも聞いたの?」


「はい、さっき聞きました。」


「一応極秘なんだけどなぁ。アンタは他の誰にも言っちゃダメよ。敵にバレたら終わりなんだから。」


「分かってます。…それで、俺も連れて行ってくれませんか?」


「はぁ?何言ってんの?アンタみたいな雑魚が何しに行くのよ?また前みたいに敵に捕まったらどうするのよ。」


「そうなったら即座に俺が腹を切ります。」


 即答した南の決意に満ちた目は本物だった。


「南、お前が志願する理由は勝谷の事か?」


「はい。勝谷の兄貴は俺を守って死にました。兄貴の仇は俺が取りたいんです。ですからお願いします!俺を連れて行ってください。」


 その瞬間、南は頭を地面に叩きつけて土下座した。その覚悟をを見て考えを変えた香夜が立松に話しかける。


「姐さん、私からもお願い。」


「…分かった。雑用係の舎弟を5人連れて行くという話だったから、その1人にしておこう。カシラには私から話を通しておく。」


「ありがとうございます!」


「だが南、香夜も含め他のメンバーの足を引っ張る事だけは許さん。自分で言ったように、もし人質にされたら即座に自害しろ。分かったな。」


「はい!もちろんです!」


「そうとなったら今からトレーニングするわよ。明日には出発するから、少しでも戦えるようにしてあげる。」


「香夜の姉貴、よろしくお願いします!」


 そう言って2人は病室から出ていった。

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