32 同盟(白)
部屋に入ってきた男の顔を見て、ヴァルスは本能的嫌悪感を覚える。
「犯罪組織って…その人大丈夫なんですか?」
「そうよ。どんな人か知らないけど、明らかにヤバい顔してるわよ。今まで会った中でもトップクラスで邪悪な顔してるわ。」
「ははは、邪悪って。まぁ、彼の素性は邪悪を超えた極悪だからね。先日も柏木組のシマの店に火をつけて、助けに来た組員を1人殺してるからね。」
それを聞いて黙っていた男も口を開く。
「出会って早々、失礼なヤツらだ。おい情報屋、俺が欲したのは傭兵であり、戦力だ。コイツらは何者だ?」
「そうだよ、田沼の旦那。彼らは君たちと同じ、柏木組の敵である帝国軍人だ。」
それを聞いて田沼の態度が変わる。
「ああ、何年も柏木組に手を焼いているとかいう西側の腰抜けどもか。最近じゃ、『純白の悪魔』とかいうイかれた女が大暴れした事以外、まともに幹部1人も殺せていないそうじゃないか?その腰に下げた剣は飾りか?」
それを聞いたセルタスも口を開く。
「聞き捨てなりませんね。貴方の組織がどれほどのモノか知ったことではありませんが、帝国軍に比べたら烏合の衆でしょう。クズどもを束ねてお山の大将してるのは貴方なのでは?」
「ほう、お山の大将かどうかここで確かめてやろうか?」
その瞬間、田沼はナイフを持ってセルタスに向かって突っ込んできた。しかし、セルタスは微動だにしない。ナイフが当たる直前で、それは何かに弾かれる。2人の間に立っていたのは剣を抜いたヴァルスだった。
攻撃を防がれた田沼は興が冷めたかのように殺気を解く。
「流石に5対1は俺の望むところじゃない。俺は帰るぞ。」
殺伐として空気の中、田沼が部屋を出て行こうとした時、桜田が口を開く。
「まぁまぁ、皆落ち着いて。旦那も話だけは聞いて行ってよ…それじゃあ本題に入るね。先ほども言った通り、君たちは岸が組長になるのを阻止したい、田沼の旦那は柏木組を攻める戦力が欲しい。両者の利害は一致していると思わないか?」
それを聞いたヴァルスは桜田の目的を悟った。
「…岸龍司を暗殺するという事ですね。」
「その通りだ。でも暗殺までする必要はない。無力化して手首を切り落とせば組長にはなれなくなる。」
「貴様に岸龍司が殺れるのか?」
田沼は嘲り笑うようにヴァルスを見つめる。それに対して桜田が補足する。
「岸は柏木組のNo.2と言われる最高戦力。旦那の雑兵どもでは手も足も出ないはずだ。だから、旦那の襲撃のドサクサに紛れて、帝国軍が岸を攻撃するって言うのはどうかな?お互いにメリットしかない提案だと思うが?」
セルタスは少し下を向いて考えてから、口を開く。
「…ふむ、岸龍司が組長になるのは何としても妨害したいところですね…それに、我々としても柏木組は因縁の宿敵です。仮にこれから全面戦争となった時のために少しでも戦力を削っておくのは得策でしょう。そ我々のこの人数だけでは岸を暗殺するのはまず不可能ですからね。」
「俺としてはコイツらはどうでもいい。ただ、本当に岸を殺せるなら作戦の成功率は格段に上がるだろう。だが、コイツらが本当に岸を殺せるのかが問題だ。足を引っ張るだけなら必要ない。」
「それは安心してくれていい。そこにいる子は俺の妹で帝国十傑の1人だ。戦闘力は保証する。それに、そこの彼は前回の襲撃で幹部の1人である田淵を殺害している。それに最近じゃあ、柏木組最強と言われる神保にも勝利している。この2人なら岸にも勝てると俺は思うよ。」
東側でも有名な帝国十傑の事、そして、田淵、神保の名前を聞いて田沼の態度が変わる。
「はっはっは!まさか、このボケた女が噂の帝国十傑だとはな。それに、コイツがあの『不動』の田淵を殺し、『風神』神保に勝っただと?…いいだろう、この話受けてやる。」
それを聞いたセルタスも不機嫌そうに返答をする。
「どこまでも上から目線ですね。協力してあげるのは私たちなのですがね?もう少し素直になったらいかがですか?」
再び2人の間で火花が散る。それを制止するようにンレナが間に入る。
「はいはーい。同盟成立ね。田沼さん、一時的にですがよろしくお願いしますねー。」
ンレナが田沼に対して手を差し出すが、田沼はそれを拒否する。
「貴様らと仲良くするつもりはない。あくまでも互いを利用するだけの関係だ。それに『五木』を全て制圧したら次はお前ら帝国だ。覚悟しておけ。」
それを聞いていたヴァルスが口を開く。
「セルタスさん、本当に大丈夫なんですか?上の許可なく勝手に決めてしまって、将軍殿や宰相閣下に怒られるのでは?」
「そうよ。こんな極悪人と手を組んで1人を攻撃するなんて、帝国軍って案外卑怯なのね。」
ヴァルスとリシェルの問いに対してセルタスも返事をする。
「黙りなさい、2人とも。この場の最高責任者は私です。部下である君たちは私の決定に従いなさい。」
「…はい。分かりました。」
「まぁ、隊長には恩もあるし、私との約束を守ってくれる限りは命令は聞くわよ。はぁ…よろしくね、最低外道さん。」
「おいガキ、今ここで殺してやろうか?」
田沼が再び殺気を出すが、リシェルもブチギレる。
「ああん?誰がガキよ?それにアンタさっき、私の友達をボケた女とか言ったわね?半グレ風情が調子に乗るんじゃないわよ。」
2人は殺気を剥き出しにして武器を構える。しかし、ヴァルスとレムナが間に入った。
「リシェル、少し落ち着け。この人は一応同盟相手なんだ。ここで殺し合うのは1番無駄だ。」
「…この子を傷つけるのは許さない…」
レムナは剣を抜いて田沼に向かって構えていた。その殺気は凄まじく、部屋の空気が一変する。流石の田沼もここで全員と戦うのは危険だと判断して、武器をしまう。
「ふん、冗談だ。こんなガキの戯言でムキになるわけないだろう。名も知らぬガキ、命拾いしたな。」
「リシェルよ。まぁ貴方なんかに覚えてもらいたくないけど。」
リシェルはそう言って不機嫌そうに席に座る。そして、ヴァルスが苦笑いしながら田沼に質問する。
「では、襲撃に関する詳細を聞いてもいいですか?」
それを聞いた田沼は嘲笑する。
「バカかお前は。こんな所でお前らに言うわけないだろう。お前らに教えるのは当日の30分前だ。だが、1週間以内だ。俺に協力する気があるのなら準備しとけ。」
「なるほど、ヴァルスくんと違ってバカでなくて安心しました。では、私たちは柏木組本部に近い場所に潜伏しておきます。連絡は桜田様にお願いして良いという事ですか?」
「ああ、それは任せてくれ。潜伏場所も俺が手配しよう。」
「話は終わったな、俺は帰る。当日までにやらないといけない事があるからな。」
そう言って田沼は部屋から一方的に出ていってしまった。田沼がいなくなった後、セルタスが口を開く。
「さて、あの男もいなくなった事ですし、作戦会議をしましょうか。少なくとも今日一日は大丈夫だという事ですので、しっかりと作戦を立てますよ。」
「作戦ならば彼もいた方が良かったのでは?」
「あの男がいれば先ほどのようにまともに会議になりません。まぁ所詮、本質的には敵同士ですからね。」
そこで、ンレナが唐突に桜田に質問する。
「それより桜田さまー、私気になってる事があって、レムナ様って帝国十傑だから条約で戦争には参加しちゃいけないんじゃないんですかー?」
「ん?ああ、あの条約か。そうだねぇ…多分大丈夫じゃないかな?」
それを聞いたヴァルスは驚きの声を上げる。
「いや、そんな適当な…」
「あの条約は元々帝国側が作ったモノだからね。十傑に攻められる事自体、なんなら将司さんは望んでるんじゃないかな?あの人は戦闘狂だからね。それに一応俺も上院のメンバーの1人だよ?その俺が言うんだから説得力はあるだろう?」
「なるほど、それなら安心ですね。では隊長、作戦はどうしますか?」
「そうですね。先ず、先手は彼らに任せます。彼らに注意が向いたところで、我々は3つの班に分かれて潜入します。
1つ目はレムナ様とンレナくん。
2つ目はヴァルスくんとリシェルくん。
3つ目は私1人です。
私は全体の指揮を取ります。
レムナ様とンレナくんの班と、ヴァルスくんとリシェルくんの班はそれぞれで岸龍司を狙います。ンレナくんは、能力を使って情報収集し、岸の居場所を全員に伝えてください。何かあれば私に連絡する事。 とりあえず、大まかな作戦は以上です。詳細は当日の状況などに応じて連絡します。では桜田様、我々を潜伏拠点まで連れて行っていただけますか?」
「了解だ。では全員、この薬を飲んでくれるかな?」
そう言って桜田は懐からビンを取り出した。
「即効性の睡眠薬だ。知っての通りここは極秘でね。すまないがこれで眠ってもらいたい。でも安心して欲しい。桜田の名前に誓って君たちを害する事はしないと約束するよ。」
それを見てセルタスが真っ先にビンの錠剤を手に取って飲みこんだ。
「では皆さん、後で会いましょう。桜田様も失礼致します。」
そしてセルタスは椅子に深々と腰掛け、やがて眠りについた。
「じゃあ、私もー。」
「…にいさま、またね。」
「ちょうど眠くなってきたところだわ。しばらくは起こさないでね。」
そう言って3人も錠剤を飲んで眠った。最後に残ったヴァルスも錠剤を手に取る。
「桜田さん、色々とありがとうございました。」
そして、ヴァルスも錠剤を飲む。
「そうだね。こちらこそありがとう。君たちの健闘を祈ってるよ。最後に一つだけいい事を教えてあげよう。…実は君の…………」
「えっ!それは…ほん…と…で…」
桜田の言葉を聞き、その真偽を確かめようとしたヴァルスは、それを聞く前に眠ってしまった。
「…ああ、無事に着いたか。ありがとう。また連絡する。」
全員を無事に潜伏先まで送り届けた事を確認した桜田は1人となった部屋のソファで考え事をする。
(今回の特異点も2人とも世界平和が目的か…やはり、特異点とは白と黒の争いを止める舞台装置という仮説は正しいのかもしれないね。しかし、あの父上と皆さんでさえ成し遂げられなかった終戦を果たして達成できるのか。非常に興味深いね。)
「…おっと、あの人にも連絡しておかなきゃ。」
そうして桜田はとある人物に電話をかける。
「…あっ、お久しぶりです。…はい、ちょっと面白い話がありまして…3日後に柏木組に是非行ってみてください。妹が是非戦いたいと…はい。失礼します。」
桜田は電話を切った。
「これで、また戦場が荒れるだろうね。一方の味方ばかりするのは不平等ってもんさ。頑張ってね、皆。」
桜田は楽しそうな笑みを浮かべて部屋を後にした。
非常に複雑になってきましたので、今までの流れを簡単にまとめます。
(黒)
第一章の襲撃の責任を取って組長が引退を宣言。若頭も腕をリミエルに切られたので引退。
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組長の息子である柴田、戦争賛成派の岸、穏健派の立松、鈴木の推薦で香夜が次期組長候補になる。
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リスペルの事件で柴田は人身売買がバレて破門、立松はリシェルに左手を落とされたので辞退
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岸と香夜の2人が残り、選挙で勝てないと悟った香夜が岸に挑んで返り討ちに
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ガタガタになった柏木組を『憚』が襲撃、互いに死者を出して本格的な戦争へ
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桜田からの提案でヴァルスたちは『憚』と手を組む事になる。
『憚』は柏木組を潰す事が目的。
ヴァルスたちは岸の暗殺が目的。
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柏木組の選挙の事を知り、岸を組長にしてはならないと考える。
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極道連合の隣にある央共和国の情報屋である桜田に伝言を伝える。
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灰の街で伝言を伝える。
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皇帝からの命令で、とある人物に伝言を届けるために東側へ。
(白)




