31 厄介事(白)
「満足していただけたかな?」
「はい、ありがとうございました。」
「じゃあ堅苦しい話はこの辺にして、食事でもしようか。」
そう言って桜田が携帯を触ると、扉が開いて全員分の食事が運ばれてくる。机も用意され、豪華な食事が目の前に並ぶ。
「遠慮せずに食べてくれて構わない。ところで、さっきの話を聞いていて、君たちが知りたいであろう情報があるんだけど、聞いてみたくないかい?」
皆が食事を始める中、桜田が話し始める。それに対してセルタスが食事を中断し質問する。
「それはどういった情報でしょうか?」
「そうだなぁ、今の君たちが聞きたい事、先ほどの戦争に関係のある話だけ。」
「…分かりました。いくらですか?」
「そうだね、本来なら100万ってとこだけど、ついでの依頼も受けてくれたらタダでいいよ。」
「なるほど…話を聞く前に依頼を受けるかどうか、金を払うか、約束するできません。しかし、有益な情報であると判断したならば、相応の金額を払うことをお約束しましょう。」
「契約成立だね。じゃあ最初に聞くけど、君たちが戦争している柏木組で近々、組長を決める選挙があるのは知ってるかな?」
「ええ、それは把握しています。」
「実は最近、色々あってね。候補者が絞られて2人になってしまったんだ。その2人っていうのが、組でNo.2の武闘派の男と、2年目の21歳の女の子でね、もちろん武闘派の男が圧倒的に優勢で、次期組長は確実にその男になると言われている。」
何も知らなかったヴァルスは驚きの表情を見せる。
「柏木組ではそんなことをやってたんですね、全く知りませんでした。でも、それの何が問題なんですか?」
「実はその男は君たち帝国を非常に憎んでいてね、組長になるにあたって帝国との全面戦争を即決すると言ってるんだ。つまり、彼が組長になれば柏木組が帝国に攻めてくるって事。それにおそらくだけど、他の『五木』も結託して攻めてくると思うよ。彼らは今の柏木組長の専守防衛という方針に反対しているからね。」
それを聞いてその場の雰囲気が一気に変わる。
「ふむ、それは初耳でした。…ですが不味いですね。柏木組だけならまだしも、他の組まで出て来たら我々もタダではすまないでしょう。」
「まさか、そんなことになっているなんて…」
「あくまで俺の分析だけど、お互いが全てを賭けた全面戦争になった場合、極道連合が勝つだろう。ちゃっかり今、君たちは窮地に立たされているんだよ。」
桜田は全員に衝撃の事実を伝える。
「もう!せっかく生き延びたのにまたピンチじゃない!」
「私も死にたくないですー。」
2人は突然の命の危機に動揺する。それに対して、ヴァルスが疑問を呈する。
「そうですね、それにしてもなぜ候補者が2人しかいないんですか?それにもう1人が21歳の女の子なんて…実質1人じゃないですか?」
それを聞いた桜田は大声で笑いながら答える。
「ははは、君がそれを言うとは面白いね。そもそも今回の選挙はこの前の君たちの襲撃の被害の責任を取って、今の組長が引退するから起きた事なんだよ。」
しっかりとこの前の襲撃に関わっているヴァルスは図星を突かれたかのように反応する。
「そ、そうなんですね…」
「それにね、本来なら組長になるのは今の若頭のはずだったんだけど、とある帝国軍人に腕を落とされたらしくてね。極道達の長年の決まりで、五体満足で無いものは組長にはならないんだ。だから本来跡目を継ぐはずの穏健派の彼が跡目を継げなかったんだ。その軍人が誰か分かるかな?」
「まさか…」
「レトローム隊長ですね。」
ヴァルスが言う前にセルタスが答える。
「その通り、それに柏木組の被害は半分以上彼女によるモノだからね。今の現状は彼女によって引き起こされたと言っても過言ではない。」
それを聞いてヴァルスは頭を抱える。
「はぁー、リミ姉…すごく頑張ったんだろうけど…やりすぎだよ…」
「やはり、あの人はいつも厄介事を引き起こしますね。」
2人はリミエルのした事の大きさにため息をつく。
「よく分からないけど、貴方の姉はめちゃくちゃね。本当に迷惑しちゃうわ。」
リシェルの呆れたという発言を聞いた桜田はニヤけながら続ける。
「でも、それだけじゃないよ。本当は候補者は4人いたんだ。その中で最も優勢だった柴田という男は、先日のリスペルでの騒動で、人身売買が組内にバレてしまった事が原因で破門にされているんだ。バレた原因は柴田派を取りまとめていた男が殺された事。コイツだよ。」
桜田は懐から写真を取り出して見せる。
「リシェル、あの時お前が殺した極道ってもしかして…」
「そ、そうね。コイツとよく似た顔だった気がするわ…」
2人は過去の事を思い出して苦い顔をする。
「それともう一つ教えておこう。選挙を辞退したもう1人の候補者、立松華織だがリスペルの騒動に関わっていて、どうやらどこかの誰かに左手を切り落とされてしまったせいで、選挙を辞退せざるを得なくなったらしい。」
そして桜田は立松の写真を見せる。
「ブフゥ!!ゴホッ!ゴホッ!」
話を聞いたリシェルは飲み物をその場で吐き出してしまった。
「おいリシェル、お前リスペルで人の左手、切り落としたりしてないよな?母親だろ?」
「…そうねー…記憶にないわー…」
必死に目を逸らすが、嘘だというのは明らかだった。
「お前、何やってんだよ!いくら捨てられたからとはいえ母親の手を切り落とすとか酷すぎだろ!!」
「し、仕方ないでしょ!あの時は母親だなんて知らなかったんだから!それに、気絶した貴方を助けるために私も必死だったんだから!そ、そうよ!全てはあの時寝ていた貴方が悪いわ!」
「な!あれはお前を庇ったせいだって言ってるだろ!」
「2人とも痴話喧嘩はやめてください、不快です。」
《誰が痴話喧嘩よ(ですか)!》
「ははは!君たちは面白いね。まるで父上たちのようだ!」
2人は息ピッタリでセルタスに反応する。そして、セルタスが桜田に続きを促す。
「それで?私たちにこれを教えた理由は何ですか?」
「うん、その事で君たちに1人紹介したい人がいてね。この場に呼んでも構わないかな?」
「分かりました。その方は東側の人間ですね?」
「ああ、そうだ。だから申し訳ないが、目を合わせないようにしてくれると助かるよ。彼は俺と違って『白の涙』をしてないからね。それじゃあ呼ぶね。」
そう言って桜田はどこかへ電話をかけた。そしてしばらくすると、人の気配がして部屋の扉が開き1人の男が入ってくる。
「紹介するよ、彼の名は田沼照義。今、柏木組と喧嘩してる犯罪組織のボスだ。」




