AE 発見(黒)
「また襲われるとはな。やはり、敷地内から出すべきではないか。」
「えー。私は無事だったんだからいいじゃん。」
「そうですぞ、こんな怪我など全く問題ではありません。」
「流石は道草の兄貴です!」
組の病院の病室で、香夜と立松と道草と南が話していた。
「純平、身体はどう?動けるようになった?」
「姉貴、心配してくれてありがとうございます。医者からはあと3日で退院だと言われました。俺ももうすぐ復帰します。」
「そう…貴方は弱いから無理しちゃダメよ。」
「はい!いつか姉貴を守れる強い男になります!」
「私は守らなくていいから、他のみんなを守ってちょうだい。」
「女神を守るのは私の役目です!これだけは誰にも譲れませんぞ!」
「はいはい、ありがとうございます。」
談笑が済んだ後、立松が口を開く。
「ここ最近、ヤツらの攻撃が激しい。見回り中の組員が何人も殺されている。関連組織への嫌がらせや放火なども頻繁に起きている様子だ。ヤツらとは早急に決着をつけねばならん。そこで、ヤツらの拠点を一掃する計画を実行すると決まった。第一段階として、シマ内の監視カメラを総動員してヤツらの動向を探る。お前たちにも協力してもらうぞ。」
「シマ内の監視カメラって、何台あると思ってるんですか?それを総動員なんて、正気じゃありません!」
「こんな人海戦術に頼るしかないほどに、ヤツらの潜伏が巧妙なんだ。ボスの特徴を掴んでいる南と、頭がいい香夜には特に期待しているぞ。」
そう言って立松は2人の肩に手を置く。
「3人とも自分で歩けるな?」
「俺は大丈夫です!」
「私は女神に肩を貸して頂かねば歩けません。」
「げっ!じゃあ私は歩けないから、姐さんにおんぶして欲しいなー。」
「何ですと!それでは私がお姫様抱っこで」
「3人とも歩けるな。道草は香夜に接触禁止だ。」
「なんと!ひどいですぞ、立松の姉貴!」
「そうだね!それが一番よ!さぁ、張り切って行きましょー!」
そう言って4人は部屋を出た。
しばらく歩いて着いた場所は、特注の事務室だった。そこには、席の前にパソコンがあり、監視カメラの映像が複数映し出されていた。既に、100人以上の組員が席に座って監視カメラ映像を確認しており、電話の声も鳴り響いていた。
「お前たちはここだ。怪しいヤツがいないか監視しろ。」
そう言って立松は3つの空いた席に3人を座らせる。
「立松姐さん、なんか他の人と比べて私だけ映像の数が多い気がするんだけど気のせいかな?」
そう言ってモニターを指差す香夜の画面には20個近くの映像が映し出されており、他の人が5個程度である事を考えても、明らかに多い数だった。
「区画毎で連携を取らねばヤツらのアジトは絞れん。この商店街は約30台のカメラがあるから、道草と南が5個づつ、香夜が残りを担当だ。2人は、怪しいヤツを見かけたら、香夜に伝えてくれ。何としても、ヤツらの拠点を暴くんだ。」
「了解です!」
「分かりましたぞ。」
「いやだから、何で私だけ2人の4倍なの?30個なら、10個ずつでちょうどいいでしょ?」
「適材適所だ。香夜の頭の良さなら、20個の映像でも余裕だろう。確認しているだけの敵の顔写真も渡しておくから、見逃さないように。何かあったら連絡してくれ。では、私はこれから会議があるので失礼する。」
そう言って立松は部屋から出て行った。
「不平等だなぁ…はぁ、それじゃあやりますか。2人は怪しい人を見かけたら私に教えて下さい。」
「了解です!」
「女神との共同作業…これはまさしくカップル!」
3人は席に座って映像を監視し続けた。5つの映像を食い入るように見て必死になっている2人に対して、香夜は20個のカメラを同時に監視する。それでも、香夜は余裕そうな姿勢で、足を組んで欠伸までしていた。香夜の情報処理能力は異常に高い。4つほどなら違う映像を同時に見せられても一言一句漏らさず内容を把握できる。さらに、情報分析力も桁違いで、監視カメラの場所も全て立体的に把握しているため、一つの映像に映れば次がどの映像かを完璧に把握していた。そのため、カメラに写った人間は香夜の頭の中のミニマップ内で動向を全て把握され、異常な行動をとる人間がいれば即座にバレる。
「うーん…こっちは豆腐屋のおじさんも入ったから白…ここの施設は、立ち入り禁止のはず…この民家はおばあさんが一人で住んでいたはず…いや確か少し前に引越しで若い人が…」
独り言を呟きながら怪しい施設と人間を洗い出していく。
確認を開始してから3時間、香夜が突然叫ぶ。
「…今入ったので10人目ね。ここよ!」
そう言って携帯を取り出して電話をかける。
「もしもし、立松姐さん?私だけど…ヤツらのヤサを見つけたわ。場所を送るから即座に人員を手配して…ええ、お願い。」
それを見た2人は驚愕の声を上げる。
「姉貴、見つけたんですか!?」
「流石は女神です。私が行きましょうか?」
「いや、流石に兄貴は怪我してるからね。立松姐さんが手配するって。それにしても、貴方達は何か見つけたの?」
「いえ!何も見つけられませんでした!」
「私も人の顔を覚えるのは苦手でしてな。」
「道草の兄貴は強いからまだいいけど、純平は弱いんだから事務作業ぐらいは頑張りなさい。」
「はい!頑張って強くなります!」
「それじゃあ、ご飯食べに行きましょうか。」
「なんと!女神と2人で食事デートとは!」
「純平もです。ほら早く、頭使って糖分足りてないんだから。」
それを聞いて分かりやすくヘコむ道草を無視して、敷地内の食堂に向かった。
今の時間はあまり人がいないため、スムーズに注文を済ませて、席に着く。
3人が席について、食事をしようとしたタイミングである男が入って来た。
香夜と目が合ったその男は香夜に話しかける。
「…確か山下だったな。ちゃんと生きていて安心した。いくら決闘とはいえ、同じ組員の女を殴り殺したとなれば、悪評がつきかねんと言う話だ。」
「…お久しぶりですね、岸の兄貴。私に何かようですか?」
軽快に話しかける岸に対して香夜は嫌そうな顔をする。しかし、岸は香夜の前の席にドカっと座る。
「まぁそう邪険にするなという話だ。選挙では敵だが、同じ組の仲間ではないか。ところでその左腕、治りそうか?」
「…はい、あと1.2週間ほどで動けるようになるって医者に言われました。…あの時は、手加減してくれてありがとうございます。本気で殴られてたら、私はおそらく死んでました。」
「気にするなという話よ。舎弟は大切にしろ、命をかけても守れと水瀬の姉貴に教わったからな。それにお前も女だてらに命をかけて戦う任侠者だ。組長にする事には反対だが、俺にも臆さず向かってきたその心意気は認めているという話だ。」
岸はそう言って豪快な表情で笑って見せた。それに対して香夜は岸に質問する。
「やっぱり兄貴は帝国の奴らとは違う。皆んなから慕われてて凄くいい人なのは分かりました。だから、そこまで帝国を恨む理由を、水瀬さんについて…兄貴の過去について教えてくれませんか?」
それを聞いた岸は途端に怒りの表情を浮かべながら話し出す。
「…いいだろう。水瀬の姉貴は、俺が最も尊敬していた姉貴分だ。しかし、10数年前に帝国の外道どもによって殺されてしまったという話だ。」
「帝国に…それで兄貴は帝国を恨んでいるんですね。何があったんですか?」
「…水瀬の姉貴は強くて、後輩思いで、何よりも平和な日常が好きな人だった。俺は組に入った日から世話になっている。俺に極道のいろはを教えてくれた人だ。ある時、当時の組長と帝国の東の軍隊長との間で、和平の取り決めの話が出たのだ。それで、ようやく戦争が終わると皆喜んだ。その和平の使者として、自ら水瀬の姉貴が買って出た。そもそもこの和平の話も水瀬の姉貴が尽力してようやく取り付けたものだったのだ。姉貴はようやく願いが叶うと、とても喜んでいたよ。俺もそんな姉貴が代表として帝国まで行くのを見届けた。
…だが奴らは、約束を反故にするどころか、姉貴を含めた使節団の全員を拘束し、大量の身代金を要求してきた。そんなふざけた要求を飲めるハズがない組はその後、使節団の救出に向かい他の舎弟たちは救い出せたが、水瀬の姉貴だけが既に殺されていた。負けを悟った奴らが腹いせに姉貴を殺害したんだ。その時の姉貴の死体は…何者かに性的に襲われた跡と、折られた首、そして顔が原型を留めないほどに潰されていた。おそらく女である水瀬の姉貴は奴らの慰み者にされていたのだろう。あの遺体、顔は潰されて分からなかったが、きっと奴らを最後まで恨み続けて亡くなったに違いない。許せるはずがない、俺の尊敬する人を…罠に嵌めて辱めたクソどもは皆殺しにせねば、あの世で姉貴に顔向けできん!だから俺がヤツらに復讐する。水瀬の姉貴が受けた屈辱を果たす事が俺の生きる意味という話よ。」
岸の衝撃の過去を聞いて、香夜も動揺する。しかし、香夜は岸に自分の意見をぶつける。
「…私も親と友人、そして最愛の家族を帝国軍に殺されました。…私たちは極道、仲間の仇は取らなきゃ面子が立たない。それでも!帝国を滅ぼして解決なんていう結論は間違ってる!全てを憎んで復讐を実行すれば、待っているのは更なる悲劇だけよ!」
「お前の話は理想論だ。俺はこれ以上の悲劇を根絶する為に戦うと言っているのだ。それに、俺が言っているのは水瀬の姉貴の事だけじゃない。俺の派閥にいるものたちは大小様々ではあるが、帝国に恨みを持っている者たちだ。彼らの恨みを晴らすために俺が先頭に立ち、戦うという話だ。邪魔はさせん。」
「まぁまぁお二人とも、ここは食事をする場所です。岸の兄貴も落ち着いてくださいませんか?」
白熱する2人の間に入ったのは道草だった。それによって落ち着いた岸が再び口を開く。
「そうだな…熱くなってしまい申し訳ない。それにまずは帝国よりも選挙よひも『憚』だ。ヤツらを潰すためにお互いに尽力しようではないか。では、俺は失礼する。」
そう言って岸は食堂から出て行ってしまった。
「ふぅ…すみません、私も熱くなってしまって。」
「いえ、誰にも譲れないモノがありましょう。私は女神を応援しますぞ。」
「お、俺も姉貴を応援します!」
「ありがとうございます。」
ーー憚のアジトーー
「岡部のヤツ、また失敗したのか。」
「はい、渡した雑魚も、花園も殺されたそうです。しかし、GPSの情報は本当であり敵も気付いていないようだと報告がありました。」
「やはり、スパイは信用ならんな。岡部…そろそろ始末するか…」
「田沼さん?」
「何でもない。それより、今日の昼から集会場の一つから連絡が取れない。様子を見に行かせた部下も音信不通だ。おそらく潰されたな。堂島、周辺の拠点に指示を出せ。ヤツらが攻めてくるぞ。」
「なるほど…分かりました。幹部を集めて戦力を厚くします。ッ!」
その瞬間、堂島は殴られた。
「バカかお前は。これ以上戦力を減らしてどうすんだ。武闘派の幹部は全員温存だ。その代わりに、各拠点に爆弾を仕掛けて攻めて来た奴らを返り討ちにしろ。」
「…ですが、周辺の拠点をすべて潰されては、仕事が立ち行かなくなるのでは?グハッ!」
田沼は堂島の顔面を蹴り抜いた。
「お前なぁ…敵に拠点を探られるようなバカ共に重要な拠点を話してるわけないだろ。あの周辺にある拠点はすべて奴らを返り討ちにする為の囮だ。」
「そうだったんですね…分かりました。罠を貼っておきます。」
「ああ。だがもし、山下香夜が来ていたら話は別だ。俺たちも動く。GPSはちゃんと追っておけ。」
「はい。分かりました。」
岸が何かと女に否定的なのは、その時の水瀬の死体にトラウマを抱えているからです。




