28 両親(白)
5人は巨大道路を通って共和国に向かって車で走っていた。
「隊長、央共和国とはどんな国なんですか?」
「央共和国は極道連合の隣にある国で、東側の中央にある事が名前の由来だそうです。共和国の名の通り、国民から選ばれた代表者が国を運営しているようです。国の規模としては小規模ですが、『議会』に加盟している国であり、隣の極道組織とは同盟関係にあるそうです。」
「なるほどね。レムナ、次は誰に会いに行くの?」
「…にいさま…共和国にいる…」
「そうだったわね。私も、レムナと雷葉の友達としてお兄様には挨拶しておきたいわ。」
すると、巨大道路の上に看板が見えてきた。
「皆さん、もうすぐ巨大道路を抜けて佐々木組のシマに入ります。気を引き締めてください。」
「佐々木組…『五木』の一つですか。」
「そうだよー。佐々木組は『五木』の中で唯一武闘派組織じゃない組なのー。とにかく頭の良い人たちが集まっていて、連合の内政管理などは殆ど彼らがやってるらしいよー。」
「そうなんですね。では襲われる心配もなさそうですね。」
「いいえ、そうとは限りません。佐々木組は言わば連合の心臓。過去にここに手を出した国があったそうですが、他の4組織から総攻撃を受けて、滅ぼされてしまったとか。故に、絶対に手出ししてはならないと言われています。それに…」
セルタスが言いかけたところで、道路の先に大きな門が見えてきた。和製のその門は10メートルはあろうかと思われる大きさだった。門の近くには何人もの極道と思われる人がおり、車が何台も門の前で止められており、中身などを改められているようだった。
「まさか…検問ですか!?」
「そのようですね。レムナ様、いかがいたしましょうか?」
「…私が話をつける…」
「分かりました。ンレナくん、そのまま向かってください。」
「はーい。」
そうして、一行の車は門の前で止められた。やがて、1人の男が車に近づいて来た。
「えーっと、どちら様ですか…っ!貴様ら!西側の人間だな!何をしに来た!」
男は運転席のンレナと目が合うと、いきなり態度が変わり、拳銃をこちらに向けてくる。
「ちょっと待ってよー!私たちは怪しい者じゃないってー!」
「嘘をつくな!私の勘が言っている、お前のその目はまさしく犯罪者の目だ!」
「それは間違ってないわね…」
「…ちょっと待って!…私はレムナ…私が来たって凛花おねえさまに連絡して!…」
「凛花…まさか!大兄貴の関係者様ですか!?」
後部座席のレムナはその問いに頷く。焦った男は急いで携帯を取り出してどこかに電話を掛ける。そして、少しするとこちらに戻って来てレムナに問いかける。
「すみません、失礼ですが、あなたの姉の名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「…神山雷葉…」
それを聞いた男は即座に敬礼をとる。
「失礼いたしました。本部と確認が取れましたので、お通りください。」
「はーい。」
そう言って巨大な門を通って佐々木組のシマに入った。
「レムナ、もう1人姉がいたのね。また今度、私にも紹介しなさいよ。」
「…分かった…でも凛花おねえさまにはちょっと会えないかも…」
「ん?どうしてよ?」
「…おねえさまは極道のお嫁さんだから…帝国軍人であるリーシェたちは会えない…」
「ねぇ、あの日から気になっていたんだけど、レムナと雷葉は姉妹なのよね?ならなんで、レムナは白の属性なのに、雷葉は灰人なの?それに、その凛花っていう姉は東側にいるって事は黒の属性よね?」
「…私たちは三つ子…両親はリーシェと同じで白と黒の属性…両親が別の属性で生まれてくる子供のパターンは4パターン…リーシェや雷葉おねえさまみたいな無属性の灰人、私みたいな白の属性持ち、凛花おねえさまみたいな黒の属性持ち、そしてお母様のような両方の属性持ちの灰人…」
レムナの説明を聞いて、疑問に思った2人が問いを投げる。
「ちょっと待ってください。属性持ちの灰人がいるんですか?そんなの聞いた事ありませんよ。」
「うん。灰人は無属性っていうのは常識だよー。」
「そうらしいわよ。それに、あなたの両親は白と黒の属性持ちじゃないの?お母様が灰人ってどういう事よ。」
「…うーんと、めんどくさいから簡単に言うと、私たちは三つ子って事…」
自身の複雑な家族関係を説明するのがめんどくさくなったレムナは最低限の答えで済ませる。
「いや、全然答えになってないから!でも、まぁいいわ。とにかく、会う機会があったら家族は全員紹介しなさい。」
「…分かった…リーシェ、大好き…」
そう言ってレムナはリーシェに後ろから抱きつく。
「ちょっと!みんな見てるでしょ!恥ずかしいからやめてよ!!」
「…照れてるリーシェも可愛い…」
「もうー!揶揄わないで!!」
顔を真っ赤にしたリシェルがレムナを振り解こうとするがレムナも離さない。
そんな事を話しながら夜の道を進んでいると、ホテルを見つけたのでそこで宿泊する事になった。
「リシェルくん、次は黒のコンタクトを付けてください。」
「分かったわ。ちょっと待っててね。」
先ほどよりは早く付けることに成功したが、20分かかった。
そして、皆が車で待つ中、リシェルが受付の人に話しかける。少し心配しながら受付の人の目を見て話かける。
「…すみません。5人です。」
「はい。部屋は別々でよろしいでしょうか?」
「はい。よろしくお願いします。」
その受付に逃げられる事も、攻撃される事もなく、スムーズにチェックインできた。
その後、4人も誰とも目が合わないようにロビーを通り過ぎてホテルの部屋の前まで来た。
「今日はこれで一度、解散です。リシェルくん以外は誰とも目を合わせないようにしてください。明日は人がいない早朝に出ます。朝の5時には車の中にいてください。遅れた人は置いていきます。では。」
そう言ってセルタスは部屋に入っていってしまった。
「リシェルちゃーん、今から朝まで恋バナしよー。」
「ンレナさん、貴女は運転があるんだからしっかり寝てください。」
「…リーシェと恋バナするのは私…」
「貴方ともしません!それに私に恋バナなんて…とにかく!明日は早いですから、早く寝てください!!」
「はーい。それじゃあ、おやすみー。」
「…リーシェと恋バナ…したかった…」
2人も部屋に入って行った。最後に残されたヴァルスが口を開く。
「お前は昼間ずっと寝てたから今から寝れないだろ?暇だったら俺の部屋に来てもいいぞ?」
「えっ!…それってどういう意味よ…」
「ん?そのままの意味だが?」
「ちょっ!こんなところで何する気よ!変態!」
「…いや、『灰の街』での話とか、レムナさんのお姉さんの話とか興味あったから聞きたいだけなんだが…お前、なに想像してるんだ?」
ヴァルスは少し揶揄うようにリシェルに言う。
「っ!!バカ!もう知らないわ!!」
顔を真っ赤にしたリシェルはヴァルスをビンタした後、部屋に入ってしまった。
「イッテェ…はぁ、咄嗟に誤魔化してしまった。こんなんじゃ、天国のリミ姉も呆れてるよ…でも、最後のあの顔は最高に可愛かったな。」
そう言ってヴァルスも部屋に入って眠りについた。
ヴァルスはそこまで鈍感ではありません。




