27 呪い(白)
「おーい!帰ったわよー!」
「随分と遅かったな。まさか、遊んでたんじゃないだろうな?それに、その匂い…夕食を食ってたのか?」
「もちろん食べたわよ。あんなに美味しい料理は生まれて初めてだったわ。」
「お前…俺たちが腹を空かせて待ってる間に優雅に飯食ってやがったのか。」
2人が帰ってくるやいなや、何時間も待たされたヴァルスは苛立ちながら話す。
「まぁ、良いではないですか。ですが、もちろん任務は果たして来たんでしょうね?」
セルタスは苛立つヴァルスを制止しながらリシェルに尋ねる。
「それはもちろんよ。ちゃんと伝言は伝えていたし、これも貰ってきたわ。」
そう言ってリシェルはポケットから白と黒の2つのケースを取り出した。
「これが…ここで早速付けてみろよ。」
それを聞いたリシェルは明らかに動揺する。
「えっ!今!…いや、今はいいんじゃないかしら。ここには貴方達しかいないし、ここは『安全領域』だしね。ねっ!」
「いや、別に付けない理由は無いだろ。俺以外の3人は目を見たらダメなんだから、これからはちゃんと目を見て話せるしな。」
「いや、今はそのままでいいと思うわ。とにかく、ここを発ちましょう!さぁ!早く!」
ヴァルスは付けるように催促するが、リシェルは一向に付けようとしない。
「なんで、そんなに付けたくないんだ?」
「そうだねー。ここで、ちゃんと効果があるか試さないとねー。不良品だったら変えてもらわなくちゃ。」
「ええ〜…でも、でも…」
なぜかここで付けることを躊躇するリシェルに皆が疑問を抱く中、レムナが口を開く。
「…リーシェはコンタクトを着けたことがないからビビってる…」
「レ、レムナ!!なんで言っちゃうの!!」
「お前、そんなくだらん理由で付けたがらなかったのか。って!リーシェ!?2人はいつからそんなに仲良くなったんだ!?」
出発する前では考えられない2人の関係にヴァルスも驚く。
「うるさいわね…レムナのお姉さんと会って、色々あってさっき友達になったのよ。」
「リシェルくん、時間もないので早く付けてください。出来ないのならンレナくんにやってもらいますが。」
「わーい。リシェルちゃんにハグできるー。」
「ちょっと!この変態にやってもらうのはイヤよ!…分かったわ、自分でやるからちょっと待ってて…」
そう言ってリシェルは白い箱から白のカラコンを取り出して着けようとするが全く入らずに何度も失敗した。
「もう!何よこれ!難しすぎるわ!!」
悲鳴を上げながら失敗し続けておよそ30分が経った頃、ようやく着けることに成功する。
「うぅ…目が痛いわ。でも何とか出来たわ。」
「やっとですか。それではフードを取って我々に顔を見せてください。」
リシェルは少し躊躇しながらもフードを脱いで顔を見せた。4人はリシェルの目をじっくりと見つめて確認する。
「ンレナくん、どうですか?何か感じますか?」
「私はなーんにも感じませーん。レムナ様はー?」
「…私も大丈夫…綺麗な目…」
「俺は相変わらずだ。これでもう顔を隠す必要が無くなったな。」
「えっ…ほんとに?…ほんとに何も感じないの?」
「ええ。」
「…ほんと…に…わたし…わたし…は…」
覚悟はしていたが、込み上げるものがあったリシェルは泣き出してしまった。生まれて18年、差別され続け、誰からも嫌われ続けたリシェルの呪いから解放された瞬間だった。
ヴァルスは泣き出したリシェルの肩に手を当てて声をかける。
「よかったな。もうお前を嫌う人間はいない。自由に生きていいんだ。」
「ヴァルス…貴方のおかげよ、本当にありがとう。」
「俺は何もしていない。お前自身が掴み取った自由だ。」
「グスッ…そうね、レムナもありがとう。」
「…友達だから…当たり前…リーシェ、綺麗…」
そう言ってレムナはリシェルに抱きついた。
「隊長と変態さんもありがとうございました。」
「感謝は言葉ではなく結果で示していただきましょう。これから、しっかりと働いてもらいますからね。」
「リシェルちゃーん、キスさせてー。」
そう言ってリシェルに迫るンレナをヴァルスは抑え付けながらセルタスに問いかける。
「では、出発しましょうか。次はどこに行くんですか?」
「いよいよ、東側に入ります。次に目指す場所は極道連合の北東にある央共和国です。」
コンタクトは初見で付けられるほど甘くないです。
またしばらく(白)に戻ります。




