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Y 満身創痍(黒)

 勝谷と南は2人でシマ内の巡回をしていた。


「兄貴…香夜の姉貴は大丈夫でしょうか?」


「あいつはあの程度で死ぬほどやわじゃないよ。だけど、最後のあの一撃は生身で受けられるものじゃない。おそらく、左腕は折れてるだろうな。」


 2人の闘いの現場にいた勝谷は自身の見解を述べる。


「そうですか…では、次期組長は…」


「十中八九、岸の兄貴になるだろうな。今回の一騎打ちも組内には出回るはずだ。ここから逆転するのは無理だと思う。」


「そんな…立松の姉貴と香夜の姉貴が可哀想です…」


「まぁ仕方ない事だ。岸の兄貴が組長になったら、柏木組は帝国との全面戦争に入るぞ。お前も気合い入れて修行しろ。俺も付き合ってやるから。」


「そうですね…はい!俺、香夜の姉貴を守れる強い男になりたいです!」


 南は自身の尊敬する香夜を守る決意を固めた。


「おう!その調子だ。…あれは…火事か!!南、行くぞ!」


 そこで2人が目撃したのは、とある店から立ち昇る煙だった。いち早く気づいた勝谷は現場へ向かう。


「は、はい!」


 勝谷に言われて南もついていく。


 現場に着くと、周りは人だかりになっており、まだ消防車は来ていないようだった!建物からは煙が立ち上っており、一部は火に覆われていた。


「通してくれ!この店のおばちゃんは無事か!?」


「極道さん!実はまだ中にいるんだ!助けてやってくれ!」


 勝谷は知り合いであるお婆さんが中にいる事を確認する。


「分かった!南、お前は救急車を呼べ!俺が行く!」


「はい!分かりました!」


 そう言って勝谷は近くにあったバケツの水を頭から被って、煙が出ている建物の中に入っていった。


 中は煙だらけで視界が悪い。勝谷は出来るだけ煙を吸わないようにしながら進む。奥のキッチンでは、火が燃え広がっており、そこに倒れているお婆さんがいた。それを見つけた勝谷は迷いなく炎の中に突っ込み、お婆さんを抱えて、最速で脱出した。

 建物から出てきた勝谷は服に引火しており、南は急いでバケツの水をぶっかけた。間一髪で、全身に燃え広がる事はなかったが、服の一部は燃えてしまい、全身に火傷の痕があった。


「兄貴!大丈夫ですか!」


「俺はいい。それよりおばちゃんを早く病院へ!」


 そうしていると、救急車が来ておばちゃんは運ばれて行った。

 観衆が周りに残ったまま、2人は一息ついて話し始めた。


「兄貴も病院へ行きましょう!」


「ああ、そうだな…っ!南!危ねぇ!!」

 

 勝谷は僅かな殺気を気取る。


「えっ!」


 その瞬間、観衆の中から一人の男が飛び出して来て南に日本刀を突き刺す。だが、間一髪で勝谷が間に入り、それを止めた。

 しかし、その代わりに勝谷の脇腹に日本刀が深々と突き刺さっていた。


「ゴフッ!テメェ、カタギの前で何してんだ!」


 腹を刺されたまま、勝谷はハンマーを作り出し、その男を裏路地へ殴り飛ばした。しかし、男は刀を抜いて腕でしっかりとガードしたため、手応えは小さい。


「兄貴!すみません!大丈夫ですか!!」


「ああ…ゴフッ!ちょっとヤバいな。あいつを殺したらすぐに病院だ。行くぞ!」


「はい!」


 裏路地には男がすでに立ち上がって待ち構えていた。


「ハァハァ、おい!よくもやってくれたな。火をつけたのもテメェか!」


 刀を正眼に構える男はそれに答える。


「ああ、そうだ。お前らを釣る為にな。だが、お前らみたいな舎弟では意味がない。」


「その必要はねぇよ。俺がここでテメェを殺すからな!」


 その瞬間、勝谷はハンマーを持って飛び出した。そして全力のフルスイングをするが、男はギリギリで回避して日本刀でカウンターを飛ばす。攻撃とほぼ同時に飛んできた完璧なタイミングのカウンターに、動きが鈍った勝谷は回避する事ができず、胸を激しく斬られてしまった。そして仰向けに地面に倒れてしまった。


「兄貴!クソ!俺が相手だ!うぉおお!」


 雄叫びを上げながら南も男に突っ込む。そして渾身の右ストレートを放つが、男に容易にかわされてしまい、カウンターの突きが飛んでくる。

 胸に当たるギリギリで、南は左手で刀を掴んだ。そのまま刀を手前に引き込む事で男が体勢を崩したところに右フックを放つ。

 男は回避できずに、顔面にモロに拳を喰らう。しかし、男は一瞬怯んだだけで倒れる事は無かった。


「いいパンチだ。お前も力属性だな?だが、まだまだヒヨッコだ!」


 男は刀を握る手に力を込めて、南の手から無理やり引き剥がすと、袈裟斬りを放つ。

 回避できなかった南はそれをモロに食らってしまう。そして、膝をついた。


「ガハッ!あ、兄貴…」


「…もうボロボロじゃないか。つまらんな。」


 倒れた勝谷を心配する南だが、その背後から誰かの声がした。そこには1人の男が立っていた。

 その黒と紫のスーツを着た男は邪悪な笑みを浮かべており、こちらに歩いて来た。それに気付いた南は、男の不気味さと放つ波動の強さに焦燥する。


(増援か!マズイぞ。俺は胸を斬られて、兄貴は動けない。ここは、もう逃げるしかない!入口のコイツを倒して、兄貴を抱えて脱出する!)


「うぉおお!死ねぇ!」


 南は男に向かって突進する。南は男の目前まで迫り、拳を振り上げたが、突如、男の右足が跳ね上がり、南を蹴り飛ばした。南は壁に激突し、頭から血を流す。


「グハァ!」


「雑魚が、俺に勝てると思っているのか?おい堂島、そっちの倒れてるヤツをさっさと殺してしまえ。」


「はい。」


 堂島と呼ばれたその男は、倒れた勝谷に近づき、トドメを刺すべく、日本刀を振り上げた。しかし、堂島が隙を見せたその瞬間、勝谷は右手にハンマーを作り出し、思い切り振り抜いた。


「今だ!」


「何!?グォオ!」


 男は反応が遅れ、左腕でガードするも吹き飛ばされてしまう。勝谷は即座に立ち上がって追撃を仕掛けようとするが、背中から激痛が走る。


「無駄な足掻きはやめろ。お前らは死ぬしか無いんだよ。」


 スーツの男が後ろから勝谷の背中をナイフで刺していた。


「グゥッ!!隙ありだぁ!!」


 勝谷は痛みに耐えながら、背後の男にハンマーを振り抜く。

 しかし、勝谷の手にはハンマーが握られておらず何も持っていない手がすり抜ける。


「ゴハッ!何だ、なぜハンマーが出ねぇ!」


「お前はつまらん。さっさと死ね。」


 スーツの男は勝谷に銃弾を放つ。満身創痍の勝谷は避けきれず、右肩を撃たれた。


「兄貴!!」


「南…うぉおお!」


 膝を突き、動けなかった南が声を上げる。

 その声を聞いて、勝谷は決断する。即座に南の方に向かい、南を守るように背負い上げた。そして、スーツの男の横を抜けて路地を脱出する。


「逃すわけないだろうが。」


 スーツの男は背後から銃を撃ちまくる。それらは勝谷の背中を何発も撃ち抜くが、勝谷は止まらなかった。


「兄貴!何やってるんですか!!降ろしてください!兄貴が死んでしまいます!」


「グッ!黙ってろ!ゴフッ!お前だけは何としても逃す!」


 何とか裏路地を出て大通りに出るが、スーツの男の追撃は止まらない。そして、その一発が勝谷の足を捉える。それによって勝谷は転んでしまい、南も地面に転がった。その瞬間、勝谷が叫ぶ。


「南!テメェは早く逃げろ!振り返らずに、全力で逃げるんだ!!」


「兄貴!!それじゃあ兄貴は!!」


「うるせぇ!!ゴチャゴチャ言わずに行け!殺すぞ!」


「グゥッ!!兄貴!!」


 勝谷からの凄まじい圧に、南は泣きながら、震える身体を立ち上がらせて、全力で逃げる。


「逃げられるわけないだろう。」


 スーツの男は走る南に照準を合わせて発砲した。しかし、勝谷が立ち上がってその間に身体を滑り込ませ、その弾丸を受けた。それは勝谷の心臓部を撃ち抜いており、限界を超えた勝谷はその場に倒れる。

 スーツの男は再び銃を構えるも、カチカチという音だけが鳴ってそれ以上撃つことはできなかった。


「チッ弾切れか。逃げられちまったな。まぁいい。どうせ柏木組は全滅させるからな。震えて待っていろ。フハハハハ!」


 そう言ってスーツの男は歩いてどこかへ消えてしまった。

 

 倒れた勝谷にはもうほとんど意識がなかった。


(ああ、これは死ぬな。でも、最期に兄貴分らしい事ができたんだ。悔いはない。田淵の兄貴…俺もそっちへ……)


 勝谷昌は息を引き取った。

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