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26 友達(白)

「大丈夫ですかね、あの2人。」


 残された3人は車の中で休憩していた。

 リシェルが心配なヴァルスはセルタスに問いかける。


「ここは『安全領域』内ですからね。犯罪に巻き込まれる事は先ず無いでしょう。それに、レムナ様は帝国でも指折りの強者です。足手纏いのリシェルくんがいたとしても、彼女一人くらいなら守ってくれるはずです。」


「そうですか…」


 不安は拭えなかったが、既に運転席で眠ってしまったンレナを見て、ヴァルスも眠りについた。



 2人は目的地まで歩いていた。案内板に従って林の中に作られた道を少し歩くと、非常に高い城壁が見えて来た。その高さはおよそ10メートル近くあり、街全体を囲っているようだった。


「高!」


 リシェルがその高さに驚いていると、道の真ん中の壁に巨大な扉があった。レムナがそこに歩いて行くので、リシェルも続いた。

 巨大な扉の隣には守衛の部屋の様な場所があり、こちらに気づいた1人の男がそこから出てきて、こちらに向かって歩いて来た。

 近くで見ると、その男の目はオッドアイであり、灰人だった。


「レムナ様ですね。お久しぶりです。今回もいつもの用事ですか?」


「…うん…おねえさまに…」


「畏まりました。直ちに連絡いたしますので、どうぞ中へお入りください。…それと、こちらの方は…入居希望者ですか?」


 男はリシェルの目を見てそう尋ねる。


「…ちがう、この子は付き添い…あのコンタクトをもらいにきた…」


「なるほど、そうでしたか。では、貴女も中へお入りください。」


「はい、ありがとうございます。」


「それと、この街には私や貴方と同じ灰人しかいませんので、目を隠す必要はありませんよ。誰かに襲われる事も絶対にありませんから安心してください。」


「…いや、でも…」


「いえいえ、そのままでも結構ですよ。貴女の様に目を晒す事に抵抗を持つ方は大勢いらっしゃいます。ですが、一つだけ。この街では灰人だからと言って差別する人は1人もいません。自分の故郷だと思って、堂々としていてくれて構いませんからね。」


「…はい、分かりました。」


「では、扉を開けますので、そのままでお待ちください。」


 そう言って男は部屋に戻った。少しすると、巨大な扉が開き、中に入れるようになった。


「どうぞ、お入りください。迎えの車がもうすぐ来ますので、少々お待ちください。」


 言われるがままに2人は門を通った。そこに広がっていた光景は、信じられないモノだった。道路は完璧に整備され、建物も新築なのでは無いかと思われるほど綺麗で、見た事も無いような高級車が入り乱れていた。


「これは…」


 リシェルが初めて見る街の光景に呆気に取られていると、こちらに向かってくる異様な車があった。しかも、ただの車ではなくリムジンのような後ろが長い超高級車だった。それが、2人の目の前に停車すると後ろの扉から1人の女が出て来た。


「久しぶりね、レムナ。元気にしてたかしら?」


「…おねえさま、久しぶり…」


 豪華なドレスを着たその女の顔はレムナに瓜二つであり、血縁関係があるのは誰が見ても明らかだった。唯一違うのはその女の目がオッドアイである事だった。しかし、20代後半と思われるレムナに比べて、姉を名乗るその女はリシェルと同じくらいの年齢に思えるほど若かった。

 女はレムナに近づき、軽く抱擁した。レムナもそのまま手を回して抱きつく。


「よく来てくれたわね。でも一年に一度じゃなくて、いつでも来てくれていいのよ?お母様も会いたがってたんだから。」


「…ごめんなさい…忙しくて…」


「帝国十傑だからってたくさん働かされてない?キツかったらあの人にちゃんと言うのよ。」


「…うん、大丈夫…」


「じゃあ、とりあえず移動しながら話しましょうか。そちらの彼女もご一緒にどうぞ。」


「えっ、はい。よろしくお願いします。」


 そう言って3人は車に乗り込んだ。

 車が走り出して、向かいの席にいた女が再び話し始める。


「自己紹介がまだだったわね。私は神山雷葉(かみやまらいは)。貴女は?」


「リシェル・カルヌーイです。」


「そんなに畏まらなくていいわよ。私はただの代理人で偉いわけじゃないからね。それより、貴女は今どこに住んでるの?」


「帝国です。軍に所属してます。」


「なるほどね、だから()()()が欲しいってことね。」


「『白い涙』って…」


「ええ、灰人が他者に嫌悪されるのを防いでくれるカラーコンタクトの事よ。西側に住んでいる貴女には、白の能力者に効果がある『白い涙』ね。黒の場合は『黒い涙』を対象の瞳に着けるの。」


「そうなんですね。ちなみにそれはいくらで譲ってもらえるんですか?」


「ん?もちろんタダよ。別に商売の為に作っているわけじゃないからね。貴女みたいな外で生きたい灰人のための物なの。でも、そうね…お代の代わりに一つ、私から頼み事をしてもいいかしら?」


「はい。何ですか?」


「もしよければ、この子と友達になってあげて欲しいの。この子、昔からコミュニケーションが苦手で、友達がいなかったのよ。貴女はいい子そうだし、どうかしら?」


 意外な申し出にリシェルは戸惑いを見せる。


「でも…私もこの目なので…大人になってから友達なんて出来ことなくて、正しい接し方なんて分からないんですけど…」


「そう…やっぱり貴女も苦労してきたのね。でも、これからはもう大丈夫よ。それに、貴女も友達がいないならちょうどいいわね。レムナと2人で仲良くしてほしいわ。」


 そう言われて断れなかったリシェルはレムナの方を向いて話かける。


「…分かりました。…レムナさん…よろしくね。」


「…うん…よろしくリシェル。」


 2人は握手した。そこでレムナは恥ずかしそうに言い淀みながらリシェルに問いかける。


「…リーシェって呼んでいい?」


「えっ!もちろんよ!私もレムナって、呼ぶわね!」


 大人になって、初めての友達ができて、愛称で呼ばれる事にリシェルはとても喜んでいた。それを見て雷葉も嬉しそうに話しかける。


「うふふ、よかったわ。それじゃあリーシェ、ついでに私ともお友達になってくれるかしら?」


「もちろんいいわよ!!よろしくね!雷葉!」


 早速、2人目の友達にリシェルはさらに興奮していた。


「ええ、よろしくお願いするわ。そろそろ目的地に着くわよ。リーシェには先にこれを渡しておくわね。」


 そう言って雷葉が取り出したのは指輪だった。


「これは?」


「このビルの上の塔の最上階には、お母様がいるわ。今は寝てると思うけど、時々寝ながら波動が暴走してビル全体を覆い尽くしちゃうの。一般人があれを食らったら、ただじゃ済まないからね。このビルにいる間はその指輪を外しちゃダメよ。さあ、着いたわ。2人とも降りて。」



 3人が車から降りると、目の前には100メートルはあろうかと言うほどの巨大なビルが建っていた。そして、そのビルの上には電波塔のような建造物が立っておりそれもさらに200メートルはあるように思えた。


「デ、デカいわね。」


 入口には守衛と思われるスーツを着た男2人が立っており、こちらの車に気付くと頭を下げて出迎えた。

 それに軽く手を挙げて挨拶する雷葉に続いて2人も中に入る。中は広いエントランスになっており、正面の受付に受付嬢が立っていた。先ほどの守衛も含めて、全員がオッドアイだ。

 雷葉に気付いた受付嬢は頭を下げて挨拶をする。


「お帰りなさいませ。」


「これから10階の会議室を使います。誰も入れないように。あと、白い涙を準備しておいてくれるかしら。一応、黒もお願い。帰りに持って帰るわ。」


「了解しました。」


 そうして、受付を通り過ぎて巨大なエレベーターに乗った。エレベーター内でリシェルは雷葉に質問する。


「ねぇ雷葉、このビルは30階まであるみたいだけど、この上に立ってる塔みたいなのは何なの?」


「さっき言った、お母様専用の寝室よ。お母様の波動暴走が街に影響を与えない為には、ビルだけじゃ足りなかったから更に高い所に作ったのよ。」


「そもそも、波動暴走って何よ?聞いた事ないんだけど。」


「そうね、殺気ってあるじゃない?誰かが人を攻撃しようとすると、波動って身体からどうしても漏れ出てしまうのよ。その微弱な波動を察知するのが殺気を読むって事なんだけど、人によっては波動を放出させる事で相手を威圧させる事もできるわ。リーシェも、すごく強い相手と対峙した時に恐怖で足が動かなくなった事があるでしょう?それは相手が威圧の為に波動を放っているという事なんだけど、それが無意識に起こってしまうのが波動暴走よ。ある種の寝返りみたいなものね。」


「へぇ、こんなに距離が離れてないとヤバいって…貴女たちの母親ってどんな人なのよ…」


「…私たちも指輪を付けないと、すごく怖い…」


「着いたわ。こっちよ。」


 そうして、3人は10階の会議室に入った。そして、3人が席に着くと、雷葉が真剣な顔になって話し始める。


「さてレムナ、代表であるお母様の代わりに代理の私が陛下からの伝言を聞くわ。話してちょうだい。」


「…うん、11月の20日に今年の『議会』が開催される…おかあさまにも次こそは来てほしいって…」


「分かったわ。お母様が起きたら聞いてみるけど、おそらくまた欠席でしょうね。でも、今年も私が行くから大丈夫だと陛下に伝えてくれるかしら?」


「…分かった…」


「ねぇ、この話って私の前でしてもいいの?わざわざレムナに来させるほど重要な事なんでしょ?今更だけど、外に出ましょうか?」


「別に構わないわ。どうせ、お兄様に伝わる時点で秘密でも何でもないしね。それより、せっかく来たのだからみんなでお話しましょう。夕食は食べた?よければ一緒にどうかしら?」


 再び姉の顔になった雷葉の提案に腹が減っていたリシェは喜んで乗った。


「そうね、是非いただきたいわ!」


「…ごはん…食べる」


 そう言って会議室を出た3人は9階の別の部屋に入った。そこは巨大な横長のテーブルに椅子が並んでおり、さながら貴族の食事スペースといった部屋だった。

 3人が席についてしばらくすると料理が運び込まれてくる。その料理はどれも超一級品で、田舎暮らしのリシェルにとっては初めての物ばかりだった。


「うーん!美味しい!こんな料理、初めて食べたわ!」


「喜んでくれて良かったわ。ところで、この後はどこに行く予定なの?」


「…おにいのところに行ってから、にいさまのところへ行く。」


「そう、東側で敵も多いと思うけど、気を付けていって来なさい。リーシェも気をつけるのよ。」


「ええ、仲間もいるし大丈夫よ。それより、おにいとかお兄様とか何人兄弟いるのよ。」


「ああ、そうね。その2人は血は繋がってない義理の兄弟なの。ウチはちょっと複雑でね。」


「…そう、お互い家族には苦労するわね…」


「…リーシェには兄弟はいる?」


「いえ、兄弟はいないわ。でも、この前生き別れたママに会ってね…



 3人はひとしきり食事と話を楽しんだ後、日も落ちそうになって来たので帰る事となった。

 先ほど入って来た門の前で、雷葉が話しかける。


「リーシェ、はい、これ。約束の物よ。」


 そう言って雷葉は白と黒の2つの小さなケースを取り出す。


「『白い涙』と『黒い涙』よ。それぞれのケースに入っているわ。貴女は左目に白、右目に黒ね。付ければそれぞれの人たちから嫌悪される事が無くなるはずよ。ただし、一つづつしかないから無くさないようにね。」


「色々とありがとね雷葉。大事にするわ。」


 リシェルは雷葉からケースを受け取る。そして雷葉は最後にレムナに話しかける。


「レムナ、また『議会』で会いましょう。」


「…うん、分かった。」


「それじゃあ、2人ともまたね。」


 そうしてリシェルとレムナは門を出た。

 その帰り道で、リシェルはレムナに話しかける。


「本当に楽しかったわ。レムナのお母さんには会えなかったけど、また来たいわね。」


「…次に来た時には、必ず紹介する…友達として…」


「…ええ!約束ね!」


 そうして2人はヴァルスたちが待つ車に向かった。



ーーー2人が帰ってから1週間後ーーー


 部屋で書類を眺めていた雷葉は背後からいきなり話しかけられた。


「らいちゃん、おはよう。何読んでるの?」


 雷葉が咄嗟に後ろを見ると、そこには寝起きで下着姿の1人の女が立っていた。


「っ!お母様、いきなり話しかけるのはやめてって言ってるでしょ。びっくりするじゃない。これは次の『議会』で話す事をまとめているの。」


「ああ、ご苦労様。それにしても『議会』か…たまには顔出した方がいいかな…もしその日に、たまたま起きてたら行こうかな。久しぶりに、れむちゃんや、りんちゃんにも会いたいしね。」


「毎年そう言って起きないから私が行ってるのよ。たまには起きて行ったらどう?他の『上院』の皆様がいつも文句言ってるのよ。」


「別にあんな奴らどうだっていい。それより…10階と9階に知らない人の波動が残ってる。誰か来たの?」


「ええ、灰人の女の子でね。私とレムナの友達になってくれたの。」


「れむちゃんに友達が…そう…次来た時には私にも紹介しなさい。」


「分かったわ。その時は何としても起こして紹介するわね。」


 眠りを妨げられる事を予告され、非常に難解な表情を示す。


「それはちょっと…よし、今のうちに会いに行こう。その子は今どこにいるの?」


「そうね…慎吾お兄様のところか、将士さんのところじゃないかしら。」


「脳筋バカの所には行きたくない。私と戦えって鬱陶しいからね。慎吾の所に行こうかな。らいちゃんも来る?」


「そうね、お母様1人じゃ不安だし、私も行くわ。」


 そう言って女が雷葉の肩に手を置いた瞬間、2人は一瞬で姿を消した。

 レムナの家族関係は非常に複雑です。少し後の話でまとめるので、今は聞き流しで大丈夫です。

 

 殺気うんぬんの話は、ハンターハンターのオーラみたいなモンです。あまりにも強い波動を受けると、ノ○さんのように恐怖で禿げてしまうという事です。


 次は(黒)に戻ります。

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