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3 沈黙(白)

 2本の剣を抱えたヴァルスは将軍の部屋に向かう道中で、1人の男に声をかけられた。


「よう、ヴァルス。さっき隊長殿がすごい速さで走って行ったけど、なんかあったのか?」


 声をかけてきた男の名前は、ナルキ・ジュバン。ヴァルスの先輩であり、同じ部隊のメンバーだ。


「あの人、また将軍閣下との約束忘れてて、それで急いでたって話です。」


 ヴァルスはいつも通りと言った感じで陽気に話す。


「ウチの隊長殿にも困ったもんだな。あんなに強くて美人で頭も良くて頼れる最高の上司なのに、戦闘以外の事になるとポンコツなんだからな。ははは。」


 リミエルの事を本気で尊敬しているナルキだが、戦場とのギャップについて笑いながら話す。


「全く、いつも大変なんですよ。昔から、朝は全然起きないし、すぐに部屋の物を壊すし、俺が忘れ物を何回届けたことか。…それに実はこの前、大切な会議に寝坊して、朝に急いで着替えをして家を出た時、パンツを履き忘れて行ってしまった事があるんですよ…」


「おい、それマジかw あのクソ真面目な隊長が、ノーパンで会議に参加してたのか!はっはっは!こりゃあ面白れぇ!隊の皆んなに教えてやらなきゃな!」


「いや、今のは内緒にしてくださいよ。俺が殺されてしまいますからね。あっ、まだありましたよ。あの人、タオルと間違えて俺の下着を」


「随分と楽しそうだな、2人とも。何か面白いことでもあったのか?」

 

 その瞬間、2人の背後から強烈な殺気が放たれる。そのあまりの恐怖で2人は振り返る事ができなかった。しかし、その姿が見えなくとも、背後に立つ人物の姿は容易に想像できた。2人は全身に冷や汗が止まらなくなり、顔は引き攣り、死を覚悟する。


「……全て聞いていたぞ、お前たち。よほど死にたいらしいな。なぁ?」


 2人の背後から急に声をかけたリミエルの顔は微笑んでいるようで、目が全く笑っていなかった。


「た、た、隊長。将軍とのお話は終わったんで、ですかますか?」


 ナルキは恐怖で振り向く事すら出来ない中で、意味不明な敬語を使いながらその一言を絞り出した。


「ああ。そんな事より、今から2人とも私が直々に稽古をつけてやろう。もちろん真剣でな。」


 そう言って、リミエルは剣を抜こうと腰に手を当てるがいつもと感触が違う。


「ん?」


 リミエルは腰に下げた剣が木刀である事に気付き、自身の愛剣の在処を探す。腰だけでなく懐や背中、服の中までくまなく探したが一向に見つからない。それもそのはずで、リミエルの剣はヴァルスが腰に下げているのだ。しかしリミエルは怒りと焦りでヴァルスの持っている自身の剣の事など見えていない。


「私の剣は……少しここで待て、逃げたら殺す!」


 疑問に感じたリミエルは、少し黙って考えると思い出したかのように少し顔を赤らめてこう言った。その直後とんでもないスピードで先ほどの稽古場の所に走って行ってしまった。

 緊張感から解放された2人は大きく息を吐き出す。


「はぁ!今回はマジで殺されるかと思ったぜ。」


「ふぅ…ええ、そうですね。…リミ姉の剣、ここにあるんだけどなぁ。」


「目の前にあるのに気付かないなんて、やっぱりあの人どこか抜けてるよ。…それよりもヤベェよ、隊長が戻ってきたら俺たち殺されちまう!!今のうちに逃げようぜ。」


「あっ!そうでしたね、早く逃げないと追いつかれてしまいます。急ぎましょう。」


 2人はそう言ってリミエルの走って行った方と逆側に全力で逃げ出した。

 

 少ししてリミエルが先程の場所まで戻ってきた。


「はぁはぁ…そう言えばヴァルスのヤツが腰に下げていた事を思い出した……あの2人は…逃げたか……逃すか!」


 その瞬間、リミエルは凄まじい表情を見せ、勘で2人の逃げた方向へ一直線に走っていった。


 帝国最速と恐れられるリミエルから逃げ切れる者などいるはずもなく、直後に普通にリミエルに捕まった2人は、訓練と称してリミエルが飽きるまで何時間もボコボコにされた。それ以降、2人はリミエルの陰口を言うのはやめた。



ーー少し前ーー


 将軍の部屋では、2人の男がテーブルを挟んでソファで座っていた。1人は白髪で髭を生やし、貫禄たっぷりで葉巻を吸っていた。もう1人は、30代前半と思しき見た目でどこか妖しい瞳の男だった。


「閣下、いよいよですね。」


 若い男は笑みを浮かべながら話しかける。


「ふぅ……そうだな。今回こそは奴らを叩き潰して、セントラ地域を我がモノとしたいものだ。」


 白髪の男は葉巻を吸いながら答える。


「それにしても、リミ…レトローム隊長の部隊を先鋒にするとは意外でした。いくら彼女が強いと言っても、少し戦力的に厳しいのではと思いますが。」


 若い男は先ほどまでの軍議での決定についての疑問を唱える。


「それも計算の内だ。ヤツの部隊を単独で最初にぶつけ、敵を削った後で本命の軍を一気に送り込んで制圧するという戦法だ。あの女は強さだけは本物だからな。敵の幹部も何人かは始末してくれるだろう。」


 白髪の男は悪い笑みを浮かべながらそう言い放った。


「…しかしそれでは、彼女の部隊は危ういのでは?」


 若い男は笑みを崩さずに、一拍置いてから再び質問する。


「まぁそうなるな。あわよくば、敵の大将まで始末してくれれば良いが、ヤツに生きて帰られると俺の立場が危うい。この戦いは皇帝陛下直々の勅命だからな。派手な戦果を上げればヤツが将軍へ昇格ということもあり得る。それだけは避けねばならん。」


 白髪の男は悪びれもなく堂々と言った。顔にはリミエルへの嫌悪感が滲み、不機嫌そうに葉巻を灰皿に押し付ける。


「…なるほど、流石は閣下です。では、後続の部隊の指揮官は私がという事ですね。お任せ下さい。敵を殲滅し、その功績を全て閣下のものとしましょう。」


「そうだな、頼んだぞ。それと、もしあの女が生きていたら、裏でコッソリ始末しておいてくれ。」


「…それは追加料金でお願いしますね。」


「ああ、分かった。」


「では、私も失礼しますね。」


 部屋を出て白髪の男と別れた後、若い方は1人ごちる。


「さて、どうなることやら。まさかあの程度の戦力であの()()()を落とせると本気で思っているのでしょうかね。この作戦は失敗、これであの男も終わりですかね。…おっと、」


 何かを思い出した若い男はどこかへ向かって早歩きで歩いて行った。



 普段と変わらない日常の裏では、黒い陰謀が渦巻いていた。

若い男が向かった先はとある人物の所です。後に伏線として登場します。

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