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白と黒の特異点〜家族を殺された復讐者2人、お互いが仇同士〜  作者: 福岡へむ
第二章 死にたがりの灰人
31/63

K 組長(黒)

「おはようございまーす?」


 怪我が治って事務所に出勤してきた香夜だが、事務所は慌ただしく動いていた。


「お久しぶりでーす。何かあったんですか?」


「何かあったじゃありませんよ、ただでさえ人が減っているというのに、皆さんの葬式などで人員が不足してるんです!貴女にも手伝ってもらいますからね!」


 軽口を叩く香夜に、事務員の一人が忙しそうに話す。


「もう〜朝からうるさいなぁ、しょうがない!私も頑張りますか!」


 そう言って香夜も席について事務作業を始めた。

 しばらく経った後、部屋の扉が開き、松林が入ってきた。


「香夜、ちょっと来い。」


「カシラ、私は今この会計作業で忙しいのですが。」


「いいから来い。大事な話がある。」


「はーい。じゃあ皆んなあとはよろしくねー。」


 そう言って松林と共に部屋を後にする。しばらく歩いて辿り着いたのは若頭室だった。松林が扉を開けると、中には3人の組員が座って待っていた。

 そのうち1人は立松であり、残りの2人は面識がない組員だった。

 2人が部屋に入ると、3人は席を立ち、若頭に頭を下げる。


「待たせて悪かったな。座れ。香夜もだ。」


 そう言って松林が上座に腰掛けると3人は同時に座る。

 少し遅れて香夜も座ると、松林が話を始める。


「さて、お前らを呼んだのはこれからの事についてだ。近々、他の組員にも発表する事だが、お前たちには先に伝えておく。


…オヤジが、組長を辞めるそうだ。」


それを聞いた途端、3人は驚愕し狼狽の声を上げる。


「何ですって!カシラ、それは本当なんですか?」


「信じられぬ話だ!理由を教えていただきたい。」


「カシラ!親父は病気なんですか!?」


「いっぺんに話しかけるな、聖徳太子か!俺は。

これは親父が自身で決めた事だ。理由は2つ。

一つ目は今回の戦争での被害の責任を取るという事。

二つ目は年齢だ。オヤジももう年だ。引退の時期を見計らっていたらしい。」


「今回の戦争は敵の被害の方が遥かに大きいという話だ!こちらの勝利と言っても過言ではない話では無いか!なぜ親父が責任を取るという話になるのだ!」


「いや、亡くなった組員も大勢いるんです。親父が責任を取るのは当然とも言えるかもしれませんね。」


「なるほど、納得はしました。では、カシラが次の跡目を継ぐという話ですね?」


 立松に聞かれて松林は少し間を置いてから話し始める。


「そのつもりだったんだがな…見ての通り先の戦争で俺は右手を失っちまった。利き手を失うようなヤツが組長になったら、周りの組から舐められちまう。だから、俺は組長にはなれねぇ。だからお前らを呼んだんだ。俺と親父が選んだ、お前ら4人の中から次の組長と若頭を選ぼうと思ってな。」


「なんと!」


「ふん!やっと、この時がきたか。」


「まさかこんな事になるなんて…」


 各々困惑と歓喜を示す中、1人忘れ去られた香夜が口を開いた。


「あのー、盛り上がってるところすみませんが、私は明らかに場違いですよね?というかなんでこの場にいるんですか?」


「そうだな、そもそもお前は誰だ?……まさか!父上の隠し子か!?」


「なんですと!それは本当の話なのですか!?」


「2人とも、落ち着け。この子は山下組長の娘の香夜だ。」


「山下…ああ、あの7年前に潰された小さい組か。はぁ…よかった。ではなぜ、こんなところにいるんだ?ここはままごとをする場所では無いぞ。子供は家でママのおっぱいでも吸ってろ。」


「山下組…カシラ、率直な話、この娘はなぜこの場にいるのですか?」


「ああ、そうだな。ここにいるという事はこの香夜も次期組長候補だからだ。勿論、俺とオヤジも承認している。」


それを聞いて3人は驚愕と困惑の表情を浮かべる。


「なんだって!?」


「納得いかぬ話だ。こんな年端もいかぬ子供が組長候補ですと?それこそ組が舐められるという話よ。そもそも、正直な話、私としては女がこの場に2人もいる事自体が納得しかねる話だ。」


「聞き捨てならんな。それは一体どういう事か説明してもらおうか。」


「単純な話よ。トップが女では組が舐められるというだけの話だ。」


「何を言うかと思えば…我らと同じ五木の佐々木組の現組長も女性ではないか。」


「確かにそうだな。だが、俺の上に立つのは認めんという話よ。分かったら2人ともこの部屋から出ていくべきだという話だ。」


「おい!お前らいい加減にしろ。俺とオヤジの決定は変わらん。

だが、流石に香夜が候補になった理由ぐらいは教えとくか…香夜が選ばれた理由は二つある。

一つ目は今回の襲撃において、コイツが敵の大将である『純白の悪魔』リミエル・レトロームのタマを取った事だ。この腕もヤツにやられたもんでな、香夜がいなかったら俺も奴に殺されていただろう。

そして二つ目は鈴木の大兄貴からの推薦だ。」


「何だって!?」


「何と!?」


「それはどういう事ですか、カシラ!」


「ああ、コイツが怪我で寝てる時に大兄貴が来てな、理由は分からんがコイツを一目見て、次の組長にしろと言ってきてな。俺もオヤジも流石に猛反対したんだ。そうしたら、次の選挙には確実に出せと言われてしまってな。」


「親父さんと、カシラがボケたわけじゃなくてよかった…それで、当然私は記憶に無いわけですが、鈴木の大兄貴さん?とは誰ですか?」


「お前はまだ会った事がないのか。

約70年前、当時の柏木組を含む五木(いつき)と呼ばれる5つの巨大極道組織が西の帝国に対抗するために同盟を結んだ。今では、周辺組織も含めた五木極道連合という一つの国という体裁を取っているわけだが、鈴木の大兄貴はその盟主に当たる男だ。つまり、連合のトップであり、俺たちのボスって事だ。」


「70年前って…その人今何歳なの!?」


「本人曰く100歳は超えているらしいが、どういうわけか見た目は30歳前後なんだ。あの人は…しばらく会わないと急に若返るんだ。」


「なにそれ、怖い。」


「俺にも理由は全く分からんが、とにかくあの人は同盟の締結から今まで、連合の盟主として君臨している。」


「へぇ、そんなに偉い人が私を直接推薦?ますます意味が分からないよ。そもそも、私まだ21だよ?いくら何でも早すぎるんじゃないかな。」


「全くだ。こんなケツの青いガキを推薦するなんて、あの人の気まぐれには困ったモノだ。」


「強さこそを至上とするあの方に認められるとは。見たところそこまで強そうには見えぬが。」


「ケツの青いガキって…流石にちょっとムカついたわ。アンタ、文句あるならかかってきなよ。相手になるわよ、極道らしくね。」


「あん?何だと、ガキが!」


 そう言って、香夜が波動を纏うと、部屋に緊張が走る。

 1人黙って聞いていた立松は香夜を静止する。


「香夜、落ち着け。こんなのでも兄貴分には敬意を払え。カシラ、香夜も参加する理由は分かりました。では、組長を決定する方法は…」


「ああ、我々の伝統である投票方式で行う。選挙は3ヶ月後。リアルタイムでの組員全員による投票が行われる。候補者同士での殺し合いなど、組で禁止されている行為は発覚した時点で即脱落とするからな。他に何か聞きたい事があるヤツはいるか?」


「まぁ、どうせ俺が勝つからな。お前らはちまちま票集めでもしておけ。」


「貴様の票は所詮オヤジ派のおこぼれだという話だ。」


「ふんっ!何とでも言え。勝つのは俺だからな。お前ら2人もせいぜい次期組長である僕の引き立て役になってくれよ。俺の下に着くと言うなら、将来のポストも約束してやるが。」


「断る。俺は強者にしか従う気はないという話だ。」


「結構だ。では、私も失礼する。」


「アンタなんかの下に着くわけないでしょ。私も失礼しまーす。待って、立松姐さん〜。」


2人は立ち上がり部屋から出て行った。


「ねぇ、立松姐さん。私は姐さんが組長になって欲しい。だから私も協力するね。」


「ああ、ありがとう。私も組長になりたいわけではないんだが、あの2人がトップに立つ事だけは何としても阻止しなければならんからな。香夜、この選挙必ず勝つぞ。」


「うん!」




ーー極道連合の中央区の訓練施設ーー


「ふんっ!ふんっ!」


 1人の男がトレーニングをしていた。ただひたすらに虚空に向かって正拳突きを放っているだけだが、一振り一振りで空間が裂けるような凄まじい音を響かせていた。

 そんな中、少し離れて立っていた男が話しかける。


「大兄貴、僭越ながら今日は波動が乱れているかと…何かございましたか?」


「ふぅ…ああ、ちょっとな。」


 男は動きを止めて、先日会った女の事を思い出す。


(あの娘の波動、アイツと似た波長だった。あの娘の両親は共に器属性だと調査書には書いてあった。普通ならありえないが、もしかするとあの娘は女だてらに真なる王(ロイヤル)なのかもしれない。あの娘の誕生年は、ユーフの誕生年からちょうど100年だ。100年の周期に当てはまる…あれが今回の特異点か。とすれば西側にもいやがるな!楽しみだ。これは面白い事になりそうだ。)


「いや、やっぱり何でもない。それより、一つ調べて欲しい事があるんだが…」


「はい、何なりと。」


 一つ頼み事をした男は、再び轟音を鳴らしながら正拳突きを放ち始めた。

色々な話が出てきましたが、この章では殆ど関係ないので、一旦忘れていただいても大丈夫です。本格的に関わるのは三章になります。

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