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1 閃光(白)

本話も過去編です。

 屋敷の中を閃光が駆け抜ける。

 純白の鎧を身に纏った1人の軍人が、待ち構えていた男たちを次々に斬り捨てながら屋敷の廊下を進んでいく。鎧には所々に血が付いているが、全て敵の返り血であり本人の血は一つもない。

 斬り殺した人間の数が40人を超えた頃、軍人は行き止まりの最奥まで来ていた。


「ふぅ…ここが組長室か…厄介だな。」


 軍人はそう呟いて立ち止まる。


「親父はやらせねぇぞ、帝国の犬が。」


 最奥の部屋の前に待ち構える男は、今までの敵とは明らかに別格のオーラを放っていた。

 少し息を切らしていた軍人は一度息を整えた後、正眼に剣を構え臨戦態勢を取る。

 対して部屋の前の男は分厚いドスを抜き、右手に構える。



「……ふぅっ!」


 軍人は一つ息を吐いてから凄まじいスピードの踏み込みで袈裟斬りを放つ。


「ふんっ!」


 男もギリギリで反応してナイフで受け、鍔迫り合いになった。そして、男がナイフに力を入れると片手にも関わらず軍人の剣は弾かれた。

 そのまま懐に入り込んだ男が突きを繰り出すが、軍人はバックステップでかわす。

 男に隙ができたことで、軍人は[縮地]の要領で再び距離を詰めて鋭い斬撃を放つ。

 その凄まじいスピードに、今度は男も完全に反応できずに、なんとか身を捻るも左目が斬られてしまった。


「グゥッ!クソがぁ!」


 男は痛みに耐えながら下がって体勢を立て直そうとするが、目の前に敵の姿は無かった。


「チッ!どこだ!」


「…はぁぁあ!!」


 軍人は視界を失った男の左側の懐に潜り込み、渾身の突きを放つ。

 それに全く反応出来なかった男は、軍人の細い剣によって心臓を貫かれ、そのまま仰向けに倒れた。


「…山下の親父、すみません...ゴフッ…すみません…」


 致命傷を受け、死を待つのみとなった男は最後に恩人である組長への謝罪を繰り返し、死亡した。



 軍人はその死体に軽く手を合わせて、誰にも聞こえない声で


「すまない」


と一言告げて目的の部屋に向かった。


 更なる返り血を浴び、紅く染められた鎧を軽く拭って部屋の扉を開ける。

 そこに居たのは豪華な椅子に腰掛ける高齢の男だった。


「俺のかわいい息子達は死んだか。俺の為によく頑張ってくれたな。すまん、俺もすぐ行く。」


 そう言って立ち上がった男は、上着を脱いで後ろにかかっていた日本刀を取り、構えた。

 それに応えるように、軍人も剣を構える。


「待たせたな襲撃者。ワシはこの山下組の組長、山下正二(やましたしょうじ)だ!この首、取れるもんならとってみい!」


 そう言って覚悟を決めた男に対して、軍人も闘気を高める。


「…覚えておく。では、行くぞ」


 軍人も男の覚悟に敬意を表して、小さく呟いた。


「うおぉ!」


「ふぅっ!」


 勝負は一瞬だった。軍人は決死の覚悟で突進してくる男の斬撃をかわし、カウンターの横薙ぎで男の胸を切り裂いた。それは致命傷となり、男は力なく倒れる。


「ゴフッ!……かや...どうか……しあ…わせに...」


 胸を斬られ致命傷を負った男は血を吐きながら、最期にそう言い残し息絶えた。


 軍人はその男の最期の言葉を聞いて再び小さく手を合わせた。


「すまない…」


 

 仕事を終えた軍人は死体で溢れる屋敷を歩く。だが、閃光のように走り抜けてきた廊下も、帰りはその足取りが重い。


「…ブレるな……これは必要な犠牲なんだ……私は…私は…」


 目の前に転がる無惨な死体を横目に見ながら、軍人は自分に言い聞かせる。自分が奪った多数の命の前で、そうでもしなければ正気を保ってはいられなかったのだろう。軍人は自身の矛盾に気付かないフリをしながら歩き続けた。


 その道中、ある部屋の中から物音が聞こえたので、立ち止まった。


「まさか、生き残りが…一応確認しておくか…」


 生き残りによる反撃を警戒しながら部屋の中に入ると部屋の隅で小さくなって隠れている女の子を見つけた。


「ヒィッ!!」



バタッ!!



 血塗れの鎧を着たこちらに気づいた女の子は、その恐怖のあまり気絶してしまった。その際に、女の子が大事に抱えていた何かを落としたのが見えた。


「これは…」


 軍人がゆっくりと歩み寄り、それを拾い上げる。それは先ほど殺した高齢の男と、女の子が写っている写真だった。

 軍人はその写真を少し眺めると、倒れている女の子の近くに下向きにして丁寧に置いた。


「すまない…」


 消え入りそうな声で、軍人は気絶した女の子に声をかけ部屋を後にした。



 屋敷を出ると外は雨が降っていた。降りつける雨が甲冑の血を洗い流し、純白の鎧が姿を表す。

 そして軍人は懐から携帯を取り出して、どこかに電話をかける。


「リミエルです。任務完了しました。」


「ご苦労、では君も注意して」



ピッ!



 リミエルと名乗った軍人は上司と思われる相手の言葉を最後まで聞く事なく一方的に電話を切った。


 リミエルは雨に打たれながら独り言を呟く。


「私はこれでいいのか……あと何人殺せば戦争を終わらせられる…いつまでこんな事を続ければいいんだ…誰か教えてくれ…」


 その声は雨音に掻き消され、流した涙は雨に流された。


 雨は一向に止まない。それでもリミエルは全身を濡らしながら歩いてその場を離脱する。迎えを呼ぶ事も出来たが、今は誰にも会いたくない気分だったのでそれもしなかった。



バシャッ!!



 リミエルが下を向いてトボトボ歩いていると、近くを通った車によって跳ねられた泥水が全身を濡らす。


「…ふふっ…ハハッ!」


 泥に塗れたリミエルは笑みが溢れる。それは大雨に濡れ、泥水を浴びる事で先程の罪滅ぼしになると冗談でも感じてしまった自分に失笑したのだ。


「…これももう要らないな。」


 そう言ってリミエルは泥に汚れた兜を取った。


 すると中から出てきたのは長い金髪で、整った顔立ちをした美しい女性だった。しかし、その綺麗な碧眼に本来の輝きは全くなかった。

 本作品の戦闘シーンはこのように激しいアクションを言葉で表現します。文字だけでは想像が難しいと思いますので、何となくで読んでいただけると幸いです。

 次回から本編が始まります。

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