第二十六話 お嬢様のお戯れ
評価してくださった方、ブックマークをしてくださった方が、少しずつ増えているようで、嬉しいです。ありがとうございます!
なるべく頑張ります!
初話に挿絵を入れてみました☆
「ではお嬢様、何がお望みでしょうかな?」
此処は領主様のお屋敷の庭園。目の前に居るのはその一人娘の、アーラお嬢様である。そして僕は、お嬢様に付き合わさ…お相手をしている。ちなみにイレルフとドーガはお嬢様にお呼ばれでは無いようなので、お屋敷の方に入っていった。
「冒険者なのにやけに畏まった言い方をするのね。そうね、貴方、この世界にはないお料理を出せるのでしょう?お昼もまだだし、食べ物がいいわ!そうね、この街であんまり食べられないお魚を所望するわ!」
「了解です。では、始めますよ!出よ、描画キット!」
収納から取り出しただけだけどね。
「わぁ!これは…絵画を描くお道具ですの?」
「はいそうですよ。私はこの、一見普通で実は特別な道具を用いて、力を行使するのです。」
「へー…貴方、もっと崩して話したらどうなの?街の英雄なんだからもっと堂々としてなさいよ。」
「よろしいのですか?ではお言葉に甘えて…この話し方で良いかな?」
「良いわね!優しい人って感じがするわ!大人っていうのは皆頭が固いせいで、全然敬語を崩してくれなかったから嬉しいわ!」
「そ、それならよかった。」
好感触なようで何より。
「それではお嬢様、これから制作を開始します。」
「なによ、敬語に戻ってるじゃないの。」
「人間というのはふざけているときも敢えて敬語を使うものなのだよ。」
これから作るのは、魚のフライで御座います。僕としてはカルパッチョとか刺身とかもこの世界的には斬新でいいかなぁと思ったのだが、生食の文化は無さそうだし、何よりもお嬢様は明らかにお子様なので、フライの方が食べやすかろうと思ったのだ。
で、そこで問題となるのが、トンカツなどとどう区別するのか、ということだが、そこは断面、もしくは魚特有の皮の模様などを描くことで解決する。
よくスーパーのお惣菜売り場などで見かける「白身魚のフライ」は、細めのラグビーボール状の形で、半分に切るようにする。アレなんの魚なんだろう…。
そして、鯛などの魚の切り身を使ったフライは、切り身の形で、鱗を剥いだ後の皮を、衣越しに表現する。ちゃんと火が通っているように、衣が付いていると分かるように描写するのだ。
そして、これだけだと彩りも味気も足りないだろうから、千切りキャベツなどの野菜と、タルタルソース、ウスターソースも、陶器の容器入りで追加しておく。この世界の料理レベルがいかほどなのかは正直よく分からないが、日本人が好んでいた調味料なら問題は無いだろう。
「さあ、これくらいで問題無いでしょう。御所望の力が発揮される様を、よーぉく見ておくんだよ。『物質顕現』!」
「まぁ!何もない所から虹色の…なにかが現れましたわ!」
まあ「なにか」だよね。
現れるのは白身魚のフライ達。勿論皿に乗ってるし、現れた先は庭に設置されていた、ティータイムにでもしそうな感じの屋根付きの小さな机である。
「すごいわ!本当に絵に描いた通りの料理が現れるなんて、信じられない!」
「そうでしょうそうでしょう。僕も最初見た時は驚いたものだったよ。さ、フォークはここにあるからご賞味あれだよ。」
ちなみにコレは前作ったものの複製体である。
「フォークまで出しちゃうのね、じゃあ遠慮なく頂くわ……!?美味しい!サクサクのふわふわだわ!」
「フフッ、そのソースを付けてみな。」
「付ければいいのね…この茶色いのは濃くてあんまり食べたことのない感じで、こっちの白いのはちょっと酸っぱい感じで、どちらもこの揚げた魚に合うわね!」
「揚げ物はあるんだ?」
「勿論あるわよ。でも、こんなにサクサクしてるのは無いわね。私、気に入っちゃった!」
なるほど、揚げるという概念はあるのか。パン粉という概念が無いのか、卵が貴重なのか…。
「あら!もうなくなっちゃったわ!ねえ、他の料理を出してちょうだいよ!」
「早っ!でも今日のお昼ご飯があるんじゃないの?」
「大丈夫よ!『今日は街の英雄にご馳走してもらう』ってエンビに伝えさせたから!」
気が早いなぁ!
「わかったよ、じゃあ次は…」
こうしてお嬢様に、サンドイッチ (パンが薄い方)やら唐揚げやら色々食べさせてあげたわけだが、底無しの胃袋を持っているのか何なのか、すぐ食べ終わっては差し出し、すぐ食べ終わっては差し出しを30分強ほど続けて、やっとお嬢様が満腹を訴えたのだった。
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「エンビ!戻ったわよ!私、こんなにお腹いっぱいになったの久しぶりよ!」
「おかえりなさいませ、アーラお嬢様、アーティ様。『魔力転換・貯蔵』を持つお嬢様を満腹にさせられてしまいますとは、このエンビ、感服で御座います。」
え、ナニソレ。
「何それという顔をしてるわね。『魔力転換・貯蔵』ってのはね、必要以上に食べたものを一定まで魔力に変換して、その魔力を貯蔵しておけるスキルよ。逆に、その貯蔵した魔力を必要なエネルギーに変えることもできるわね。今の私なら1週間くらいなら飲まず食わずでも余裕よ。そんな事しないけど。」
「マジッスカ。」
なんて便利なスキル。そしてそれならあの量も納得できる。
「お戻りですか、ご主人。」
「なかなかに遅かったじゃねえか。ま、俺らはもてなしてもらってたからいいんだけどよ。」
「この街の立役者であるドーガ様とアーティ様のお仲間のイレルフ様をもてなすのは当然のことですよ。ささ、主がお待ちです。私についてきてくださいまし。お嬢様、そそくさと立ち去ろうとするのではありませんよ。アーティ様にする依頼にも関係するので、ご一緒してください。」
「はぁ、やっぱりエンビからは逃げられないのね。シクシク…。」
「人聞きの悪いことは言わないで頂きましょうか?」
仲のいい主従だこと。
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「久しぶりだね、ドーガ。そして、その隣にいるのが…?」
「お初にお目にかかります。私はアーティと申します。そして、こちらが相棒のイレルフです。」
「ご紹介に預かりました。我が、イレルフで御座います。以後、お見知り置きを。」
「ああ、よろしく頼むよ。」
エンビさんに連れられた、アーラお嬢様を含む僕達は、アレーファ領主、アラル様のいらっしゃる客間に通されていた。
アラル様は、想像していたのと大違いで、年齢は30代半ばか前半くらい。一言で表すならイケオジだ。
「私の娘が迷惑をかけたようだね。すまなかった。」
「いえいえ、私が承諾したことですから。私も楽しんでいましたし。」
「そうかい?それならよかった。娘のワガママに付き合ってくれ、感謝するよ、アーティ君。」
なんだか話しやすい人だなぁ。英雄扱いされているとはいえ、平民的な謎立場にいる僕に対して丁寧に接してくれている、ということだけでも、しっかりした人なんだということがわかるよ。
「ところでアーティ君、本題、つまりは依頼の話に移ってもいいかい?」
「あ、はい勿論。」
「討伐の依頼でしょうか?もし素材がどうでもいい類のものであるのなら、ご主人が出るまでもなく我がサクッとヤッてきますが…。」
「いやいや、私が彼、アーティ君を呼んだのは、英雄だからではない。相当に腕の立つ絵師であるということを聞いたからだよ。」
ほぉ?『絵師』が要因とな?
「端的に言うとだね、私達家族の家族絵を、見たそのままに描いてほしいんだ。」
「それはまた…。しかし、どうして今なんで?」
「今回、悪魔の光の襲撃があっただろう?被害こそ殆ど出ていなかったが、改めて気づいたんだよ。人生は有限で、いつ終わるかわからない。それも、自分だけでなく他の人に対しても同じなのだと。だからこそ、私は今の自分たちの姿をを残しておきたい。そう思ったんだ。アーティ君、君に頼みたいんだ。頼まれてくれるかい?」
「なるほど…わかりました!この依頼、受けさせていただきましょう!」
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「さあ皆様、自然な感じでお願いします!エンビさんもそう硬くならないで微笑んでください!」
場所は変わらず応接間。机などを取っ払って、アラル様、アーラお嬢様、奥様のシャアラ様、そして最も長く仕えてきた執事であるエンビさんが家族写真を撮る時のように並んでいる。
シャアラ様は、庭園で花の世話をしていらっしゃたのを、無理を言って連れてきてもらいました。花がお好きなようで、屋敷に飾られている花の数々は全て彼女が手塩にかけて育てたものらしい。すごい。
エンビさんは最初は、微笑ましそうに準備をされる御三方を見ていたわけだが、アーラお嬢様が
『ねえ、エンビが入っていてもいいんじゃないの?お父様お母様と過ごした時間と、エンビと過ごした時間、全然変わらないのだもの。ほとんど家族みたいなものよ!』
と言い始め、二人もそれに納得したことで参加が決まった。最初は緊張していそうだったが、やはり最年長かつ領主様ですら赤子の頃から知っている執事。今ではもう慣れてニコニコとしていらっしゃる。
ちなみに、先代領主様達は、他の村かどこかで隠居していらっしゃるらしい。のどかな所で穏やかに過ごすのが夢だったそう。
領主様からのオーダーは、盛ったりはせず、ありのまま今の自分達の姿を残して欲しい、とのことだ。僕からしてみれば、イケオジに美人、美少女とカッコいい執事さんということで盛るも何も無いんだけどね。
ということで制作を開始する。今回は普通に絵を描くお仕事なので、キャンバスは比較的普通の物、というか『物質顕現』で作ったものを使用する。描き終わったら、都合良くあった『状態保存』『自己修復』を付与し、簡単には傷がつかないように処置をする。
絵の具は言わずもがな『マジックカラー』を使う。色は勿論、重ね方も自在なので、自由度が格段に上がるのだ。『デリート』をすれば筆や指を洗う必要も無いし。
まずは鉛筆で下絵を描く。相手は物でなく人間なので、あまり時間をかけていられない。故に急いで仕上げる。
…よし、大体のあたりは付いたな。よし、絵の具を使い始めるか。にしても、アレだな。異世界転生したってのに生前と同じように、依頼を受けて絵を描く仕事ができるってのは感慨深いもんだ。しかもその初仕事が貴族の家族を描くというものになるなんて、最初は思ってもいなかったよ。
さあ、最高の絵を描いてやろうじゃあないか!
〜〜
「陰影を付けて、良し、完成だ!」
制作開始から約5時間。絵はようやく完成した。
皆さんがその間ずっとモデルをしていたのかというとそんなことはなく、最初の十数分だけモデルをしてもらい、大体の色と立ち位置、描き方などがわかったら、休んでもらった。色はむしろ近くで見た方がわかりやすいので、服の色を見せてもらったりしたよ。
あと、『状態保存』『自己修復』も付与しといた。
で、出来栄えはと言うと…
「本当!? できたの!?」
「お嬢様! 廊下を走ってはなりません!」
エンビさん、大変ですね。ワクワクした表情を隠しきれていませんがね!
「わ!すごいわ!まるで皆がそこにいるみたいよ!」
「これは…!素晴らしいですよアーティ様!私までこんなに緻密に…!ありがとうございます!!」
「喜んでいただけ何よりです。額縁も、私が用意します…というかしましたよ。この絵が、永く残るようにね。」
ずっと同じ絵を描き続けるのは疲れるので、息抜きとしてサイズが合いそうな感じの、オシャレな、装飾控えめながら高級そうな額縁を制作していたのだ。『プラスインフォメーション』は、『衝撃吸収』『形状自動調整』をつけた。
「なんと!そこまでしていただけるとは!」
「こだわるならとことんこだわらないと、皆様に失礼ってもんですよ。さ、飾りましょうよ。そして、御二人にお見せしましょう。」
「そうね、それがいいわ!」
「このエンビ、お手伝い致します。」
「おお…なんと…!」
「まあまあ!すごいですわね、あなた!」
「この額縁も、アーティ様が提供してくださったんですよ。」
「そうだったのか。本当にありがとうアーティ君。末永く大事にするよ。」
「いえいえ、依頼を心を込めて遂行しただけで御座いますよ。ちなみに、その絵と額縁は、私の能力により、そう簡単には損傷しないようになっています。」
「本当にありがたい事だ…。どうだろう?金銭に加え、領主だけが発行できる、紹介状でどうだろうか。これがあれば、どこぞの貴族にいちゃもんを付けられた時にも役に立つだろう。」
「よ、よろしいのですか?こんな私のような1冒険者にそんなものを渡したりして…。」
「ハハハ、この紹介状は私が信用できると考えた者にしか渡していないものだ。君は依頼を全力でこなすだけでなく、こちらのことを考えて最適な額縁まで作ってくれたのだぞ?信用に値するに決まっているだろうが。」
「そういうことなら…ありがたく拝領致します。」
この世界のルールとかマナーとかよく知らないからな。こういう強力な身分証みたいなものはありがたい。
「それにしても、本当に素晴らしいな。もう一人の私達がこれから出てくると言われても納得できる程だぞ。」
「ええ、皆が揃っている時、つまり今が最も幸せなんですもの。その私達の姿を残せるなんて、こんなに嬉しいことはそうそうないわよ。」
「なんど見ても本当にすごいわね、貴方の絵は。」
「ええ、ええ!感激ですとも!一執事に過ぎない私がこの御家族の絵の一員になれるなんて…!うぅ…素晴らしいです!」
エンビさん泣いてるし。
「アーティ君、本当にありがとう!困ったことがあれば、アレーファ家一同力になろうじゃないか!」
「こちらこそ、本業を全力で出来て、それに喜んでもらえて凄く嬉しいですよ。」
やっぱり、あれだな!自分の仕事は、依頼人が満面の笑みを浮かべられるような物でなくてはな!素晴らしく清々しい気分だよ。




