第二十二話 名も無き冒険者
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短めです。
「なんでだよ!なんで俺が追放されなけりゃならねえんだ!」
「それはお前もよくわかっているだろう?パーティの共有財産を勝手に賭博でスるわ、実力がそうあるパーティでもねえのに勝手に難度の高い依頼を取ってきて違約金を払わされるわ、その上失敗の原因は自分なのにそれを棚に上げて全部俺らのせいにするんだからな。お前と一緒にいるとお前だけじゃなく俺達まで全員死んじまう。」
「なんだよ、それがどうしたって言うんだよ!」
「まだわかんねぇのかこの野郎!お前はパーティの為にならないどころか害でしかないと言っているんだ!わかってもわからなくてもさっさと行け!他のパーティにでも拾ってもらえ!じゃあな!」
俺は最近調子づいてきた冒険者パーティー、「紅蓮」の一員…だった冒険者だ。
元パーティーメンバーは非情にも、そう、俺は全く悪くないというのに、俺をパーティーから外しやがったのだ。そうだ、俺は悪くない!人員を集めたのも俺だ。魔獣を多く倒したのも、依頼を取ってきたのも俺のはずだ!どうして俺が外されなければならない!外されるべきは荷物を持ってりゃいいだけのアイツや、計算しかしていないアイツとかだろう!
「フン!もうあいつらなんか知らねえ。パーティー?そんなもんバカバカしい。俺一人でのし上がってやらぁ!」
一人でやってやる!そう決心して俺はトゥールの街を後にした。
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1人の追放者が出ていき、そこにはある一つのCランクパーティー、「紅蓮」の姿があった。
「なぁリーダー、本当に良かったのかよぉ。」
「そりゃそうだろうよ、意地悪で追い出したんじゃない。アイツの、自業自得だ…。」
「確かに、俺等が集まったのはアイツがきっかけではあったがな、あの暴虐は流石に目に余る。」
彼らーーリーダーのBランク冒険者、フレールを始めとした「紅蓮」の面々が話していたのは、先程追放した冒険者のことだった。
その者は、メンバーが言っていた通り、パーティーのお荷物どころか、パーティーを妨害するような人物だった。指示を聞かないのは日常茶飯事。他の冒険者を挑発するわ低ランク冒険者をカツアゲするわ独断でフレール名義でAランクの依頼を取ってくるわで、散々だったのだ。「紅蓮」は、リーダー以外は基本的にCランク、荷物の運搬を担当する者と、値段交渉を担う者に至ってはDランクでしかなかった。そんな彼らにAランクの依頼など、こなせる訳がないのである。
もちろん、冒険者の中では面倒見のいいリーダーは、ソイツに何度も注意をした。だが、何も変わらなかった。指示を聞かないことはメンバーの生死に関わる。冒険者間のいざこざは、冒険者としての評価、つまり冒険者人生にかかってくる。賭博なんぞ以ての外だ。彼らには、ソイツを手元に置いておくデメリットはあれども、メリットは全く以てなかったのだ。
それ故に、耐えきれず、追放したのだ。このままではメンバーを失う、冒険者をやっていられなくなる、アイツもこのまま居たら死んでしまうと考えて。装備はそのままに、結構な額の金も渡して、追放したのだ。
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場所はアレーファとトゥールの丁度間ほど。時刻は夜。とある黒髪の絵描きが稼業をしていたのと同じくらいだ。
一人の愚か者が歩みを進める。
愚か者は気付かない。荷物のせいで思うように動けず、疲労を溜めていることに。
愚か者は気付かない。買った剣が本当はもっと安かったということに。
愚か者は気付かない。仲間だった者達は、ずっと手を差し伸べてくれていたことに。
そして見つける。悪魔の如き瘴気の塊を。御伽に語られる、伝説の負の象徴を。
だが愚か者は驕っている。『アイツらがいたから真の実力が出せなかった。』のだと。
Cランク下位の実力しか持ち合わせていないというのに。
「 」
自分の力量を見誤る愚か者は、その影を、悪魔の光を目に収め息を飲む。恐怖したのではない。その逆だ、歓喜したのだ。見返すための材料を見つけたことに。
そして罪を犯す。大多数を危険に晒すという罪を。
「生きとし生ける物を蝕む害為す劇物よ、今我に力を与えんーー毒弾!」
その者の性質を表すかのように、放たれるのは毒の塊。闇の塊を消し飛ばさんと打ち込まれるが、効かない。効くはずもない。その闇は圧倒的な魔獣。力をひけらかすことを良しとしない、超常の魔獣なのだから。
暴走した其れは、愚か者に死の実感すら与えない。何の因果か、己に見とれた人間の居る方に頭を向ける。もう其れに意思などない。其れは破壊するだけの厄災である。
始まりの街に壊滅の足音が迫る。