第二話 天界
(誰か、誰かが僕を?ここは?さっきと打って変わって真っ白だな。でもなにも無いわけじゃない。ここは…そう、あれだ。空島ってやつだな…え!?空島!?)
そう、そこは空島だった。具体的に言うと、小さな浮かんだ野原があり、下にある空に滝が流れている。上も下も空で他にも空島がたくさん浮かんでいるので、ここが地球でないことは明らかだ。
そして、真っ白で、実に美しい。おそらく大理石で作られたのだろう、腰ほどの高さの輪状のベンチのようなものがある。更に、その輪の中は水で満たされている。
しかし、そこに映る景色が問題だ。そこには、地球をはるか上空から見た景色が映っていたのである。しかも、それだけではない。見たこともないような中世の見た目の景色、ロボットが闊歩する機械仕掛けの景色など、様々な景色が映っていたのだ。そう、これはまるで、まるで⋯
「(神様の視点のよう)、ですか?」
(!?なんだ!?心を読まれて…というかこの声、なにか聞き覚えが…。)
突然のことに驚いたが、よく考えてみれば自分は死んだはずだし、現実離れした場所にもいた。そして、声が聞こえたその後の場面ということは、声の主がいても不思議ではない。
「お気づきになられたようですね。」
心を読まれているん…だよな?思えば伝わると思えばいいだろう。
(はい、先程はすみませんでした。取り乱してしまって。その…貴方が僕をあそこから助けてくださったのでしょうか?)
「いえいえ、むしろ驚かせてしまって申し訳ありません。あ、質問の答えですが、そのとおりです。ワタシが貴方を冥界から連れ出したんです。ワタシは女神!ですからね、そんなことはお茶の子さいさいですよ。」
振り返るとそこにいたのは、絶世の美女ーー女神だった。一回見たら忘れられない、そんな感じだ。というかお茶の子さいさいって…まあいいや。
(女神様が僕を助けてくださったんですね、ありがとうございました!)
「え?ワタシが女神だったとわかった時の反応それだけ…?」
(ああすみません、死んだあとに天界に行く、みたいなシチュエーションは何度も想像してたので、ここにいらっしゃるのはほぼ確実に神様だろうな、と予想しちゃいまして⋯。)
ちょっとドヤ顔をしていた女神様は、いたずらの失敗した子供のような顔をしていた。可愛いと思ってしまったのは内緒である。
「女神に対してまあいいやとかドヤ顔とか子供って表現はどうかと思うんですけど」
しまった!内緒にすることはできないんだった!思ったことは筒抜けか。
よし!気を取り直して⋯。
女神様、色々伺ってもよろしいでしょうか?
「はい、構いませんよ。」
では…なぜ、僕なんかが助けて頂けたのでしょうか。
「それはですね、貴方が苦しんでいるのが見えたからですよ。あとは、魂だけの状態で意識を保っているなんて、今まで見たことがないので、少し興味がありました。」
そ、そうだったんですね。じゃあ、ここやさっきの場所はどこで、僕は今どんな状態で、これからどうなるのでしょうか?
「順に説明しますね。まず⋯」
ーー女神様の説明によるとこうだ。
まず、さっきの何も無い真っ暗な場所ーー冥界は、死んだ者の魂が辿り着き、輪廻転生を待つ場所で、普通は人格も記憶も残らないそうだ。つまり、僕のこの状態が異常だということ。
で、今居る場所が天界。女神様も含めた、様々な神様が住んでいる場所らしい。神様は一人あたり一つの世界を作っていて、各々の世界を見せあっているらしい。いろんな神様がいて、人間がよく繁栄していくのを見るのが好きな神様(女神様もそんな感じ)、人魔問わず、戦っているのを見るのが好きな神様、動物がのびのびと暮らしているのを見るのが好きな神様など色々いるそうだ。
最後に僕の状態と今後について。まず僕は今死んで魂だけの状態になっているらしい。それも、人格、記憶が残った状態で。そしてこれからだが…ーー
(あのーこれから地球に戻ったりは…)
「ごめんなさい、ムリですね。あなたはもう死んでしまった存在。つまり、地球に居てはならないんですよ。」
そうですか、まあそれはわかっていましたが…。では僕は今後どうなるので?
「はい。貴方には2つの道があります。1つ目は、通常通り地球の輪廻の輪に戻ること。これは人格も記憶もリセットされて、新しい生物に生まれ変わる、というものですね。普通です。」
うーん、普通なんだけどあんまり選びたくないなぁ。
「そして2つ目ですが、ワタシが創った世界『ワードルド』に転生する、というものです。」
そう、女神様は何度も夢にも思ったことを口にした。