第一五話 食べ物
ちょっと久しぶりです。
ーー女神様にこの世界に転生させてもらったんだーー
これは、僕がドーガに言った言葉だ。信用できる、ほとんど直感でそう思った僕は、ドーガに正体を明かしたのだ。
「そうかそうか、俺の耳がおかしくなったんだろうな。で、なんだって?」
あれぇ?ドーガがめっちゃ汗だくになってるな。
「おかしくなんかなってないよ。向こうで死んで、女神様に会って、この世界にやってきたんだ。」
あ、ドーガが吹っ切れたようなイイ笑顔をしている。厳ついおっちゃんのイイ笑顔、これはなんとなく胡散臭い。
「そうか、そうなのか。俺はとんでもない秘密を共有しちまったようだな。だが、俺に相談したのは正解だったぜ?」
「やっぱとんでもない厄ネタだよね、コレ。で、なんでドーガに相談したのが正解なんだ?」
「お前さん、女神教のことは知っているかい?」
「ああ、今日の昼頃、女神様に神託で教えてもらったよ。その名の通り女神様を信じていて、争いを好まない教義なんだよな?」
「おう。その認識で間違いない。だが、神託まで授かったのか、ますます正解だぜ。アーティ、お前はこれからどうしたいんだ?」
「これからか。そうだな、各地を旅をして、異世界生活を満喫したいところだな。」
「じゃあ、女神教の神父なんかに、お前の素性がバレたらどうなると思う?」
「ええと、僕は女神様と直接会っていて、神託も授かっているよな。あと、『神託スキル』ももらってるから…」
「『神託スキル』までもらったのか、すげえな。バレたら女神様の使徒ってことで教会で祭り上げられるだろうよ。そうなりゃおめぇ、気ままに旅なんかできねえってこった。」
「なるほど、確かにちょっと考えてみりゃわかることだな。」
「だろ?まあ俺はただのしがない門番だからな。そんなことはしないさ。」
「それはありがたい。せっかくの異世界なんだ。満足行くまで冒険しないと損だってもんだからな。」
「羨ましい話だぜ。俺も長期休暇が取れたらついて行ってやってもいいぜ?」
「ハハ、その時はよろしくな。さて、次はさっきも言った『神託スキル』のこt…」
スキルについて話そうとしたら、僕の腹が盛大に音を立てた。
「お?なんだアーティ。もしかして今日なんも食ってねえんじゃねえだろうな。兵士も冒険者も身体が資本。食わなきゃ命に関わるんだぞ。」
「実は、そのとおり何も食べていないんだ。転生したのがだだっ広い草原だったから、何もなかったんだよ。」
「そうか、それは気の毒だな‥。今から夕飯の支度でもしようと思うんだが、一緒に食うか?」
「ああ、そうしようかな。すごい助か…いや、まてよ?この機会に、僕の『神託スキル』を見せて説明してもいいか?」
あれから時間も経ったし、何個かなら食事を描いて出すくらい問題ないだろう。
「スキルの説明?まあ遅くならないならいいぞ。」
「合点承知だ。じゃあ始めるぞ。」
そう言って僕は、『空間収納』から、マジックキャンバス、マジックカラー、マジックヒッセン、仕切り直しの筆を取り出した。
「これは…絵を描くための道具か?『空間収納』ならもう知っているんだが。」
「ノンノン、これからが説明なんだよ、ドーガ。僕が授かった『神託スキル』は『描画顕現』。これに描いたものを現実とする能力だ。これから僕は、僕の世界の料理を描いてみようと思うんだけど、なにか希望はある?」
「国が国なら王に一生監禁されるやつだな。あ、この国の王は聡明な方だから大丈夫だと思うぞ。リクエストは…そうだな、肉料理がいいな。」
「そっかぁ。なあ、ここってどんな調味料があるんだ?」
「塩と香草くらいだな。金持ちになったら胡椒なんかも使えるそうだが、普通の門番に手が出せるはずがない。他はよく知らないな。」
どうやらここにはあまり調味料が無いらしい。それなら、味が濃いもののインパクトは強いだろう。
「じゃあ、肉のステーキにしようか。」
「ステーキ?わざわざスキルで作らなくても、ボアやブルの肉でも、ただ焼いたらできるだろう?」
「いやいや、僕の予想では、この世界ではあまり味わえないであろうモノにするつもりなんだ。」
会話的に、ドーガが食べているステーキは、きっと塩をかけて焼いたくらいのものだろう。だが、僕の描画顕現なら…!あと、ついでにあの権能も試してみるとしよう。
「時間が惜しいな。『地球のステーキ』作成開始だ!」
ドーガに部屋の隅を貸してもらったので、そこで作業をする。
まずは鉄板を描く。普通だったら上に乗っているものから描くだろうが、『マジックカラー』は割とどうにでもなる。まるでデジタルのイラストアプリでレイヤーを重ねているかのように、塗ってある色を混ぜるか混ぜないかは、自分の意志で変えられる。故に、鉄板を先に描いても、後に描くステーキに影響しないのだ。
そして、何故そこまでして鉄板を単体で描くか。それは、画力値が重要となってくるこのスキル、たとえ鉄板でも細かく描写することで、モノとしての格が上がるのではないか、と考えたのだ。質のいい鉄板ならドーガにあげても良いだろうしね。
鉄板を描き終わったら、メインとなる肉を描く。大の大人でも足りるように、巨大なやつだ。僕的には、良いステーキと言えば分厚くて赤い部分が残っているレアというイメージがあるので、それを描いていく。そして、乗せるのは胡椒とバターだ。本当に乗っているのはあまり見たことがないが、何故かそういうイメージがある。胡椒をわざわざ描くのは、胡椒をちゃんと反映させるのが目的だ。
「よし、できたぞ!」
「これがお前が言うステーキ…?何か乗ってるように見えるんだが。」
「大丈夫!ちゃんと旨いさ…多分。よし、我がスキルとくと見よ、『物質顕現』!」
僕が権能の名を唱えると、テーブルの上に七色の渦が現れた。
渦が消え、そこには湯気を上げ、香ばしい匂いと音を立てるステーキが1皿あった。
「なんだと!?何も無いところから絵に描いたままのステーキが現れやがった!」
実は、温度大丈夫かな、とか、『物質顕現』で大丈夫なのかな、とか思ったが、見た感じ大丈夫そうだ。が…
「一応確認しておくとするか、『解析鑑定』」
僕の目の前に青い電子板のようなものが現れると同時、ドーガがブツブツ言い始めた。。
「『解析鑑定』?『鑑定』関係のスキルなら持っている者もそこそこいるが、『解析鑑定』は聞いたことがないぞ?」
おそらく食事後に質問攻めに合うだろう。だが、今はステーキだ。
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名称:地球のステーキ
種類:肉
画力値:110/110
説明:異世界人が神託スキル『描画顕現』を使用して創造したステーキ。胡椒やバターなどの、この世界では貴重なものが多く使われている。十分店で勝負できる味をしている。
プラスインフォメーション:無し
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今の僕がそこそこ丁寧に描いたら画力値は100前後になるのかもしれないな。
「どれどれ、一応見ておこう。ステーキに向かって、『プラスインフォメーション』」
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対象:地球のステーキ
使用可能画力値:110/110
候補:防腐(10)、毒化(30)、筋力一時増強(40)、鋼化(50)
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毎度のように『鋼化』があるのはいいとして、間の2つがやばいな。デバフとバフをかけられるようになるとは、流石チートスキルだ。まあよっぽどのことがないと『毒化』は使わないだろうが。
僕が色々考えていると、ドーガが話しかけてきた。
「なあアーティ、次のやつは作らねえのか?コレを目の前に待たされるのはかなりキツイんだが。」
「ああ、作るよ。だが、上手く行けば一瞬で用意できるぞ。」
新しく描かずにステーキを創造する方法、それは、僕がまだつかっていなかったとある権能にある。
その名も『コピー・アンド・ペースト』だ。説明によると、魔力を消費して、画力値を下げた複製物を創造する権能だという。
「さあやってみるぞ。ステーキに向かって、『コピー・アンド・ペースト』!」
僕が権能の名を言うと、『地球のステーキ』を『物質顕現』させた時と同じくらいの魔力を消費し、今あるステーキの隣に、もう1枚ステーキが現れた。
「偽物だったらまずいからな。『解析鑑定』」
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名称:複・地球のステーキ
種類:肉
画力値:70/70
説明:異世界人が神託スキル『描画顕現』を使用して創造したステーキ…を複製したもの。胡椒やバターなどの、この世界では貴重なものが多く使われている。十分店で勝負できる味をしている。
プラスインフォメーション:無し
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名前に「複」が付き、画力値が110から70に下がったらしい。人間の数分は揃ったが
「コレで3個目になっちまうが、コレが成功すれば、永久食糧も夢じゃない!『コピー・アンド・ペースト』!」
僕は、『地球のステーキ』に向かって、再度権能を発動させた。
結果は上々で、『複・地球のステーキ』と全く同じモノが出来上がった。
こっそり味見をしてみると、オリジナルも複製も味は同じだったので、オリジナルを残して複製し続ければよいだろう。
「さて、僕とドーガの分ができたな。そろそろ食べ…あ、イレルフもステーキ食べるのか?」
ずっとドーガと話していたから、うっかりイレルフの存在を忘れていた。そこで僕は、ステーキを机に並べながら背中の方に居るイレルフに聞いた。すると予想もしなかった返答が帰ってきたのだ。
「はい、ぜひともお願い申し上げます。我が主人よ!」