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第十四話 信用できる人

 イレルフがでかいサイを瞬殺した後、僕達は無事に街に入ることができた。

 この国の名前はスタティーズ。そして、町の名前は、アレーファと言うらしい。そして…


「おう、アーティ。ここが俺の家だ。あまり綺麗とは言えんかもしれんが、ここで我慢してくれ。」


 今僕は、さっきの門番ーードーガさんの家にお邪魔させてもらっている。何故こうなったか、説明していこう。






 目の前には、5つに分かたれ絶命した、ジャイアントライノの無惨な死体が転がっている。


「しっかし、あんたの従魔、恐ろしいほどの強さだな。おかげで助かった。兄ちゃん、そっちの狼さんも、ありがとよ。」


「ワフ!」

「いえ、僕もこの子がこんなに強いとは思ってなくて、驚いてるんですよ。それに、見ず知らずの僕なんかを助けようとしてくださって、ありがとうございました。」


「いやいや、人を守るのは兵士の責務よ。だが、礼はもらっておくよ。そういえば聞き忘れていたが、あんたら、名前はなんて言うんだい?俺はドーガ。スタティーズ国アレーファ所属、門番兼教育係だ。ドーガと呼んでくれ。」


「僕はアーティと言います。こっちは従魔のイレルフです。えー、流れの絵師をしています。うっかり草原で迷った末、この街にたどり着きました。」


 これは念の為に考えておいた口上だ。流石に「女神様に転生させてもらってこの野原に降臨しました!」なんて、誰にでも言えるわけじゃないからな。


「そうか、アーティとイレルフか。で、なんで一文無しだったんだ?この槍は大層価値のある魔法武器だぞ?もし買おうと思ったら、金貨10枚は下らん。迷っていたのなら金は使わんだろうし、その実力なら魔獣や野盗もどうにかできるだろう。それに加えて『空間収納』持ちと来た。持ち物を失くしたとか奪われたとかはほとんどありえん。」


 うっ、この人抜け目が無いな。


「そっ、それはですね〜…、」


「ワケアリ、なんだろうな。まあ詮索はしないさ。命の恩人だし、悪しきことも考えていなそうだ。」


「えっ!良いんですか?こんなに怪しい要素が揃ってるのに。」


「ああ、勿論だ。そもそも兵士団ではな、あまり他人の詮索はしないように、と教えられてるんだ。悪人なら別だが。それに、俺は悪人かどうかわかるスキルを持ってるんだ。アーティ、あんたは問題無かったよ。」


 そんなスキルがあるのか。この人が居たらこの街は安全だろうな。


「これで街に入れると?」


「ああそうさ。後は、そうだな。あんた、物の値段とかよくわかってないだろ?街へ入るのに必要なのは銅貨5枚。あんたが出した槍は少なく見積もっても金貨10枚。つまり、銅貨100枚だ。ここまで差があるものを出されたのは初めてだぞ?」


 あの槍、そんな値が付くんだな。最初からチートで悪目立ちするルートにはいったのでは?

 同じように何か描いて売ったりしたら、即アウトかもな…。


「ここまで物を知らないとなると、街に一人で放り出すのは不安だな…。宿とかもよくわかんねえだろ?今日は俺ん所に泊まらねえか?今日は仕事も終わりだし、人を泊めるくらいなら問題無い。色々教えてやるからよ。」


「え!良いんですか!?右も左もわからないのでありがたいです!でも、なんでそこまで?」


「困ってるやつは放っておけないタチなんだ。色々話を聞けたら嬉しいしな。家に行ったら、とりあえずこの槍を買わせてくれねえか?通行料には高いし、今は持ち合わせがそこまで無いからな。」






 というわけで、冒頭の通りになるのだ。

 道中、救援を呼んだらしいドーガの後輩と兵士を束ねる団長に出会ったり、ドーガが街中の人々に声を掛けられていたりしたが、これといったことは起こらなかった。

 団長はライオス、ドーガの後輩はテーミンと言うそうだ。どちらも丁寧な人物で、団長は僕のことをスカウトしたそうだったが、

「アーティ殿は流れの絵師をしてらっしゃるのだろう?民に迷惑をかけては兵士団の名が廃る。ドーガは信頼できる男だ。色々聞くといいぞ。」

 と言って、別れた。

 テーミンはドーガに色々教えてもらっているそうで、ドーガがしてきた偉業を熱心に語っていた。指名手配犯を取り押さえた、という話に始まり、中には迷子の母親を1日中探し続けたという話もあった。絶対誇張してるだろ!という類のものもあるにはあったが、ドーガが信頼できる人間だ、というのは確からしい。


 ドーガの家は、二階建ての一軒家だった。大きさは日本の一般的な住宅街にある家と同じくらいで、一人で住むには広いんじゃないかな、という大きさだ。よくファンタジーに出てくるレンガ造りの家、といった感じで、日本人の僕的には、オシャレな部類に入ると思う。


「さ、上がれよ。茶でも出してやるから、そこの椅子にでも座っといてくれ。イレルフも入って大丈夫だ。あと、俺には敬語じゃなくていいし、ドーガって呼び捨てにしてくれたんでいいぜ?あんまり丁寧に接されるのは慣れてねえんだ。」


「わかった。ありがとう、ドーガ。」


「おう、待ってな。」


 内装は、ドーガの豪快な見た目と反した感じで、家政婦を雇っていてもおかしくない状態だった。家具の数は必要な物だけ置き、置き方にも工夫がなされており、ゴチャゴチャしないようになっている。洗濯物が転がっているだとかゴミが落ちているなんてことは無く、掃除も行き届いているらしい。家の大きさも生活能力も、前世の僕よりドーガの方が優れている。完敗だ…。


「ほら、茶を入れてきたぞ。」


「あ、ありがとう。ところで、あんなこと言ってたのに、綺麗だよね、部屋。だれか一緒に住んでるの?」


「お、そうか?そう言ってもらえると嬉しいな。普段からちゃんとすることが、兵士団で上手くやっていくコツだからな。デキる兵士の家はみんなこんなもんさ。俺は独り身だよ。たまに部下やお前みたいな心配なやつを泊めることはあるがね。」


 ドーガはなんと独り身だった。この世界の兵士ってのはキチンとした人が多いのかもな。


「さて、色々教えるんだったよな。まずは何から話したもんか…。」


「なあ、ドーガ。」


「ん?なんだ、アーティ。質問か?」


「いや、そうじゃな…ある意味そうか。もし、僕が今から言うことを秘密にしてほしいと言ったら、本当に誰にも話さないでいてくれるか?」


「こりゃまた唐突だな。流石に罪を犯した、なんてことを見逃すわけにゃいかんが、そうじゃなけりゃ秘密にするぞ。個人情報の守秘義務を守ることも、兵士の務めだ。」


 僕は、ドーガに話そうと思う。日本人の性質として、誰にも言わず、誰も知らないまま秘密にしたままでいるのはキツイのだ。まだ1日目だが、このままだとポロッと言いかねない。そして、ドーガなら信用できる気がする、というのが大きいのだ。


「僕はこれから、到底信じられないことを言うと思う。でも、信じてほしい。本当のことなんだ。」


「真面目な顔だな。悪意の気配もない。秘密は守ろう、聞かせてくれ。」


「わかった。じゃあ言うぞ。僕は、


 ーー女神様にこの世界に転生させてもらったんだーー」


 僕は、転生して初めて、他人に秘密を明かした。

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