第十二話 初めての街
イレルフが指し示した方角、そこには異世界に来て初めて見る街…の外壁があった。
え?魔獣を探すとかレベル上げるとか言ってたのはどうなったって?
イヤ、ムリムリ。始めた時はそう思ってたけど、もう遅めの夕方だからね。
地球でさえこういう野原だと危険そうなんだ。異世界なら尚更だ。
夜に紛れる魔獣とか、不死者も出るかもしれない。そんな場所を出歩くわけには行かないのだ。
ちなみに、何故イレルフを顕現させえMPが尽きなかったかと言うと、時間経過でMPが回復していたからだ。
『マジック・ヒッセン』を描いた後は、筆洗の水を『水操作』で綺麗にするくらいしかMPを消費しなかったので、ほぼ満タンまで回復していたのだ。顕現の直後は1割くらい、つまり15しか残ってなかったけど、今だと40はある。安静にしてると回復が早くなるのか、使うのに慣れてきたからなのかはわからない。今度調べてみよう。
話を戻そう。
その見た目はと言うと、まず日本では絶対に見ないものだ。
土色のレンガを積み上げて造られており、上には数人の兵士がいる。人の数倍はありそうな両開きの門があり、今は開いている。もちろんそこには2人の門番が居る。
で、おそらくだが、身分証明書や、通行料が必要になるだろうが、僕はそのどちらも持っていない。
夕方だからか、人もいないので、当てにできる人もいないのだ。
それに加えて、僕はイレルフーー虹色の巨大な狼に乗っている。怪しいこと間違いなしだ。
どうしたものか、門が閉まるギリギリまで考えてみよう。
数刻後、僕たちは門から少し離れた所に居た。
見覚えが無い格好の、身分証を持たない、一文無し。狼を添えて〜の僕たちが怪しいのは言うまでもない。
ちなみに、イレルフはスキル『変幻自在』により、大きさも色も普通の、犬のような見た目になっている。無かったらもう駄目だっただろう。
準備もできているので、近づいて話してみることにする。
「あの〜、こんな遅くにすみません。街に入れてもらうことはできるでしょうか?」
「ん?こんな時間に人が来るとは珍しいな。汚れた珍妙な格好に、従魔の犬か?この街の者では無さそうだ。身分証、無ければ通行料を払うことは可能か?」
ハイ、予想通り身分証か通行料が必要なようですね!だが、僕は準備をしてきたんだ。大丈夫なハズ。
「すみません。身分証もない一文無しな者で…。現物ではだめでしょうか?」
そう言って僕が『空間収納』から取り出したのは、一本の槍だった。何故こんなものを持っているかと言うと…
(数刻前)
うーん、どうしたものかなぁ。金を生み出してもバレるだろうしなぁ。
イレルフは『変幻自在』で普通の動物の見た目になってもらうとして、問題は通行料だ。
現物でどうにかするしか無いよな…。
何にするかな…。門番のあの兵士、武器を持っているな、槍か?兵士って武器は多めにあるほうがいいよな…、強めの槍を描いてみるか。
………
ということで完成したのがこの槍だ。
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名称:門番の槍
種類:槍
画力値:0/60
攻撃力:85
説明:異世界人が神託スキル『描画顕現』を使用して創造した槍。普通のものよりも鋭く、壊れにくい。動きがよくなること間違い無し。
プラスインフォメーション:高耐久化、攻撃力増加、軽量化
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この槍、結構強いんじゃないかな?きっとこれで通してもらえる…はず!
「現物、この槍か?俺はもう槍はもってるんだが…!?なんだ!この槍は!俺が持っている槍とは比べ物にならないくらい軽いぞ!」
「はい、そうなんです!この槍は特殊な槍でしてね、並の物よりも鋭く、丈夫で、その上羽のように軽いのです。どうです?これを通行料の代わりとして、通して頂けないでしょうか。」
「うーん、そうだな。疑いたくは無いが、鈍らを掴まされているかもしれんからな。何かで試させてもらいたいんだが…んん!?おい!向こうから何か来てるぞ!魔獣だ!それも結構強いぞ!お前たちは俺の後ろにいるんだ!」
え!?マジで?これまで周りには何もいなかったのに!まあ僕レベル低いからな、仕方ないか。
僕は言われた通り門番の後ろに回る。初対面の得体の知れない人を守ってくれるとは、この人はいい人だな。
僕はイレルフに小声で話しかける。
「イレルフ、色はそのままで大きくなって、あの兵士の人を手助けしてやってくれ。」
「ワフ!」
僕がそういうと、イレルフが元の大きさの1.5倍くらいの大きさになり、臨戦態勢に入った。
向こうから、何か土煙が見えるな、アレが魔獣か。ここからでも鑑定できるかな?
「『解析鑑定』…。」
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名前:無し
種族:ジャイアントライノ
Lv.15
説明:硬い皮膚と鋭い2本の角を持つ、巨大な魔獣。夜行性。素早く移動するものに反応する性質を持つ。
装備:無し
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鑑定した直後、それは現れた。
それは、一言で言うと、名前の通り巨大なサイだった。違いがあるとすれば、その角が金属光沢があるかのように、夕日の光を反射していたことである。
人間くらいすぐ死んでしまいそうだ。
僕が呆然としていると、先程まで話していた門番が、先手必勝とばかりに飛び出した、僕が渡した槍を持って。
僕が詐欺師だったらどうしたのだろう、と思ったが、僕は本当に良い槍(自称)を渡したのだ。
ああ飛び出したのだから、勝ち目があるのだろう。
「うおぉぉ!『身体強化』!ぶち抜けぇぇ!」
『身体強化』か、イレルフも持っているスキルだな。
門番の身のこなしは、素人目にもわかるほどに慣れた、熟練のもので、その実力から門番に選ばれたのだろうことは自明だった。
事実、門番が突き出した『門番の槍』はジャイアントライノの片目を、まるで木の葉を貫くかのように容易く貫いていた。
「驚いたな。いつもならこんなに素早く動けることはないし、こんなに容易く入ることもない。これもこの槍のお陰なのだろうか。」
門番はよほど驚いたのか硬直しているが、まだ戦いは終わっていない。
ジャイアントライノは少し怯んだが、すぐに立て直すと門番に向かって突進をし始めた。
門番は、しまった!と言わんばかりに跳び下がったが、ジャイアントライノはそれを追いかけている。
もう駄目だ!と思ったその瞬間、門番とジャイアントライノの間に巨大な狼が割って入り、その鋭利な4本の爪を振り下ろした。
すると、ジャイアントライノは縦5つに分かたれ、絶命した。
僕が驚いたのは言うまでもないことである。
「これで、レベル1…?」