赤田家の日常サイドストーリー1~青井くんにはいろいろあるけど美味しいパンを焼くんだZ~
※本作は正真正銘のフィクションです。
出てくるお店や人物、動物、飲み物はすべて架空のもので、どこにもありません。
約束された勝利も、風になったりもありません。
どこかのなにかで「あれ?なんか似てるな〜」と感じたら、
きっとあなたの思い出の中か、もしくは前世かなんかの遠い日の記憶です。
・アナザー第1和:誰だって誰かのパンヒーローなのだパン
「ママ!!メロンパン!!な~い!」
店内に響く妖精の羽音。
そして妖精の羽音が聞こえたということは、それは、つまり、癒やしの女神の降臨を意味する。
そして、ここは聖域となる。
おかげでオレンジ・ベーカリー朝焼け4号店の空気清浄器も停止してんじゃなかろうか。
こうしちゃいられない!
急いでメロンパンの焼成を!!
美味しく変身させてみせるZ!
「青井さ~ん?」
同僚が俺を呼ぶ声がする。
「呼んだ?」
そう言いながらレジの方へ、厨房から顔だけを出す。
「沙奈ちゃんが青井さんのこと探していましたよ。もう帰っちゃったけど」
泣かないよ、男の子だもん。
・アナザー第2和:成功こそ失敗の近道というか落とし穴
「俺、間違えないのよ、否!間違えることできないのよ」
店長からの売り言葉に買い言葉を返してしまった。
なんでだろ、いつもなんでこうなんだろ。いや、くよくよしたって仕方がない。
見せてやろう、男、青井の底力を。
数分前の出来事だった。
「青井くんさ、このメロンパンの数なんだか多くない?ていうか、最近多くない?
いや、いいんだよ、なんだか最近よくメロンパンやけにはけるしさ」
店長は知らないのだ。
天使と妖精の親子が大量にメロンパンを買ってくれているのを。
いや、天使というより女神か、癒やしの神かもしれない。
「メロンパン、美味しいし、いいじゃないですか。うちじゃ売上一位の商品ですよ」
「嘘だあ、うちの売りは小麦粉から酵母までこだわった食パンだよ?間違ってない?」
それで、さっきの謎の発言につながるわけです。
メロンパンの妖精に惑わされてるのかな。
ちなみに売上は食パンが一位のままだった。
シフトも増えた……。
・アナザー第3和:真夜中のエンジェルのフォーリンエジェーV
滅多にない遅番のシフト。
沙奈ちゃんが来るようになって、何故かありもしない担当制ができてからは早番が多くなっていた。
まあスーパーパンヒーローなのだから仕方のないことだと、割り切ろう。
人気者はいつだってつらいものらしい。
「…月って綺麗だな」
ふっと一息吐き出し、思わず空を見上げて満月に酔いしれる。
「あら、青井くんもお月さま好きなの?」
思いもよらぬ声に体が慄き、戦慄。
この声は世にも珍しい華奈様。
だがしかし、これは何なんだ!?
本当は聖域の使い手ではないのか。
あまりの邪悪さ故に脳が勘違いさせられていたのか?
「あれ、青井くん?お月さまに夢中なのかしら?」
動悸が…、なんだこれは。おれはどうなる。
「俯いちゃって、疲れてるのかしら?これどうぞ」
残っている力全てを持って顔をあげ、差し出された妙に冷たいソレを受け取る。
エネルギンV!!
夜は長いと言いたいのだろうか、それともさあお逃げなさい、どうやっても捕まえてみせる、ということなのか?!
……ヴィクトリーーーー!!
夜道は危ないが全力疾走。
※エネルギンVはフィクションです。
勝利の確約もないし徒競走が早くなるわけでもありなみん。
・アナザー第4和:後から悔やむから後悔なわけで前もって悔やんでたらいいわけで
後悔ってなんで後からしか悔めないんだろうか。
彼は心の中にあるその問題で、いつも胸焼けしている。
悔やむのなら前に終わらせて気分一転ってできないの?できてもよくない?
いや、無理なのは流石にわかってるんだよ…。
「店長、なんで俺の休み勝手に変わってんすか?」
「え?青井くんの休み変えてないけど?」
ん?どいうこと? あれ、でも前にもらったシフト表はたしか…?
ん?え?
「~~っん!!」
「青井くん、それ先月のシフト表じゃんか」
恥ずかしいのは笑われたからじゃない、シフト表を見間違えたからじゃない。
前にもやって恥ずかしくて、今度からちゃんと確認しよって、「前に後悔」したじゃん。
「前に後悔」できてんじゃん!!!!!
・アナザー第5和:さらばヒーロー、サラダバーでおいどんのU丼
「という訳で、長く4号店で働いてくれていた青井くんも栄転となります。
若くて元気で人一倍努力家で、すこしおちゃめな青井くんにお世話になったんじゃないのかな?かくいう私なんか青井くんが来てから甘えっぱなしで」
そう言いながら、照れ隠しなのか頭を掻きながら朝礼で話す店長。
どうやらメロンパンのクオリティがどの店舗より優れているとかいないとかで本社での開発へ異動になるようだ。
ただオレはヒーローなんだ、スーパーヒーローなのだ!
最前線で戦うからこそ誰かにとってのスーパーヒーローたり得るのだ。
そんなおれを最前線から引っ込めるなど、愚の骨頂。
骨の頂きで骨頂ってよくわからんよね。
「青井さん、すごいじゃないですか!!」
「今日は送別会ですね!!」
祝福の言葉はありがたい。
しかし心はどこか埋まりきらない、何かが足りない。
そんな気持ちで最後のときを4号店で過ごそう。
なぜならば、これは素晴らしいことなのだから。
迎えた開店の時刻。
今日は休日だ。きっと沙奈ちゃんも来るだろう。
最近は彼女も大きくなり、今では来年、中学生。
初めてあったのが5歳くらいだったはず。
気がつけばおれも20代半ばか後半という歳ではないか。
ヒーローとしては老いた存在のかもしれない。
「沙奈ちゃん、ごめんな。おじさんになっちゃったよ」
そんな独り言を漏らす。
「青井さんはおじさんじゃないよ!!話聞いたよ。
寂しいけど、待ってて!絶対に私もオレンジ・ベーカリー朝焼けに就職するから」
泣いた、全俺、泣いた。
優しさGP優勝者の沙奈ちゃんに表彰状を送ります。
でも表彰状はないから、あれから妙にはまった「エネルギンV」を送りたいと思う。
いつも君の心に、ヴィクトリィ……。
後悔はない、君の言葉のおかげだZ。
※服用は1日1本まで!エネルギンV!!
すみません。服用本数守らずの暴飲した結果「くっ…………」と急にお腹を抱えるのは「あかたさな」。赤田家の作者である。
あ、あの今日はなしでお願いします、ト、ト、トイレに行きたいんだな。
今日ばかりは言葉ではなくクルクル回る紙のステキナメロディーヲオタノシミクダサイ。
oh.……ヴィクトリィ……否、ヴィリヴィリトリィ……!!