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翔太君からの誘い。

「フローライト第二十七話」

「明希さん」と和花に呼び止められた。利成の個展は不定期に開催したが、最近はオリジナルデザインのアクセサリーやその時々の利成が気が向いて手をかけたものなどを売ったりしてたので、わりと頻繁に開いていた。和花にはいつも受付などを手伝ってもらっていた。


「今日は天城さんいらっしゃいますか?」


「今日は来ないかも・・・」


「そうですか・・・」と少し残念そうな和花は、長年の利成のファンだった。


「何かあった?」


「・・・いえ、あの・・・明希さんはこの後お時間ないですか?」


「私?大丈夫だけど・・・」と和花の顔を見た。まだあどけなさを残す和花は二十二歳で明希より三歳年下だった。


会場の後始末をして和花と表に出た。「お疲れ様です」と他のスタッフが明希に頭を下げていった。


「和花ちゃん、どこかで食事でもする?」と明希は聞いた。


「え?いいんですか?」


「うん、いいよ」


和花と一緒に中華料理の店に入った。適当に料理を頼み和花と二人でたわいもない話をしながら食事をした。食後のコーヒーが来ると明希は言った。


「和花ちゃん、それで何かあった?」


そういうと和花が少し改まったように椅子に座り直した。


「あの・・・変なこと聞いていいですか?」


「うん、いいよ」


「・・・その・・・奥さんとしてのお気持ちを聞きたいんですけど・・・天城さん色んな人と噂があるじゃないですか?そういうのって妻側としてはどうなんですか?」


(え?)と思う。


「どうというと?」


「その・・・別れたいとかそういうのってありますか?」


「・・・今のところはないけど・・・」


「そうなんですか?」と少し驚いた様子の和花。そして「どうしてですか?」と聞いてくる。


「んー・・・難しいな・・・」


説明が・・・と思う。夫婦のバランスをどう説明しよう・・・。


「もし、天城さんの愛人が妊娠したりしたらどうですか?」


(いや、それは本当かは置いておいてあったし・・・)


でもあれは愛人ではないか・・・。ていうか、愛人?


「利成に愛人がいるってこと?」


「あ、いえ・・・それはわからないですけど、例えばいたとしてです」


「・・・そうね・・・」と考えた。実際そう言って乗り込んでこられたいつかの花音を思い出す。


「利成次第かな・・・」


「天城さん次第?」


「そう・・・利成は多分私と別れないだろうから・・・そのままにしておくかな」


「え?!」と物凄く驚いた表情の和花。その和花の表情が次には咎めるような顔になった。


「別れないってそんなのわからないじゃないですか?愛人の方がよくなることだってあると思いますけど?」


(あー・・・だから説明が難しい・・・)


その時明希のスマホが鳴った。見ると利成からの着信だった。和花に「ちょっとごめんね」と電話に出た。


「もしもし?」


「明希?もう個展終わったよね?」


「うん」


「会場近くにいるんだけど、明希は今どこ?」


「あ、えーと・・・あの近くのレストランだよ」


「そうなの?明希一人?スタッフのみんなと?」


「ううん、和花ちゃんと一緒」


「和花ちゃん?そう。どこか店の名前教えて」


店の名を告げると今から来ると言う。(大丈夫かな・・・)と店内を見回した。割と店内は混雑していた。前に一度利成だってバレて囲まれたことがあってそれがちょっと怖かった。


「和花ちゃん、利成が今来るって」と和花に言うと、和花が「え?」と驚いて「ちょっとすみません」とトイレに立った。


(お化粧でも直すのかな?)嬉しそうな表情を見せた和花の後姿を見送った。


和花が席に戻ってから少し経つと利成が店に入って来た。特に変装するわけでもなくいつも利成は堂々としている。今日も入り口に立っていた店員と話してから案内されてこっちに向かって歩いてきた。


「お疲れ」と利成が和花に言ってから明希の隣の席に座った。


「お疲れ様です」と和花がさっきとはまったく違うテンションで挨拶をしている。


「もう食事は済ませたんでしょ?」と利成が聞いてくる。


「うん、利成は?」


「俺はまだだけどいいよ。今日は和花ちゃんと何かあったの?」


「和花ちゃんがちょっと相談があるって・・・」


「そうなんだ。じゃあ、俺が来て邪魔だったかな?」と利成が言ったら「とんでもないです」と和花が慌てて言っている。利成はそんな和花を見て笑顔を作った。


「話はもう済んだの?」と聞く利成。


「ううん、まだ」と明希が答えると「じゃあ、和花ちゃん、うちにおいでよ」と利成が言った。


「えっ?!」と今度も思いっきり驚いた後に物凄く嬉しそうに「ほんとですか」と和花が興奮している。


「もう仕事いいの?」と明希が聞くと「うん」と利成が答えた。


伝票を持って席を立つ利成が会計に向かって行くとお店の人に呼び止められている。どうやらサインを求められているようだ。


利成が気楽にサインをしている。それから会計を済ませて明希と和花の方に歩いてきた。


「行こうか」と利成が言うと、和花が「はい」と何だか目を潤ませている。


(あー・・・何だろう・・・まあ、いいけど)と何も利成のことを知らないであろう和花を見て思った。


 


マンションに着くと和花が「すごい・・・」と驚いて部屋の中を見ていた。明希も初めてこの部屋に来た時は同じ気持ちだったが、慣れとは恐ろしいもので最近は掃除をしながら広すぎることにうんざりしたりしてた。


「利成、食事はどうする?何か作る?」と明希が聞いたら「いいよ、自分でやるから。明希は和花ちゃんの話聞いてあげててよ」と言われる。


和花にお茶を入れてソファに向かい合わせに座った。さっきの続きって・・・と思う。利成の前で話すのはちょっとな・・・と思っていると和花が聞いてきた。


「あの・・・それでさっきのお話ですけど・・・やっぱり別れないですか?」


(あー・・・利成がいてもおかまいなし?)


「まあ・・・」


「それはどうしてか教えてもらえませんか?」


「・・・んー・・・」とまた考える。


そこで利成が「和花ちゃん、サーモンって食べれる?」と手に皿を二枚持ってきた。皿の上にはサーモンと野菜のマリネがのっていた。


「あ、はい、もちろん」と和花が嬉しそうだ。


「あ、俺いない方がいい?」と利成が言うと、「いいえ、とんでもないです。いて下さい」と和花がまた言う。「そう?」と利成が笑顔で言っている。


「明希はいる?サーモン」と聞かれたので「ううん、いい」と言った。「そう?」と言った利成がキッチンにまた入って今度はワインとグラスを手に戻って来た。


「和花ちゃんは飲める?」と利成がグラスを三つテーブルに置いた。


「はい、飲めます。もちろん」とはりきって和花が言うので、利成が少し笑った。


「それでお話しの続きは?」と利成が聞く。


(あー・・・この話って当人を前にしていいものだろうか・・・)


「その・・・天城さんにもし愛人がいたらどうしますかって奥さんに聞いてたんです」と和花が言うと利成が笑った。


「そうなんだ?」とかなり利成は面白そうな表情だ。


「で?明希の答えは?」


(・・・何故にそんなに楽しそう?)


明希が黙っていると「奥さんは別れないそうです」と和花が答えた。


「ハハ・・・そうなんだ」と楽しそうに利成が明希の顔を見た。


「それでどうしてかなって・・・例えば愛人に子供ができたら・・・それでも天城さん次第って言うから・・・」


(ちょっと、和花ちゃん・・・)と突っ込む。利成の前でも悪びれずに何故にそんな話を?と和花の真意がわからなかった。


「そうなんだ。明希は俺が好きだからね」とこちらも悪びれてない。


「お二人は幼馴染だったっていうのはほんとですか?」と和花が利成に聞いた。


「うん、ほんとだよ」


「その・・・正直、子供の頃からの人とずっと一緒って飽きませんか?」


(えー・・・ちょっと、和花ちゃん)と和花の顔を見たら、利成が笑いながら答えた。


「まったく飽きないよ。それに幼馴染と言っても、小学六年から高校出るまではまったく会ってないからね」


「そうなんですか?」


「うん、俺のうちが引っ越ししたから」


「そうなんですか・・・じゃあ、どうしてまた会ったんですか?」


「ユーチューブでね・・・たまたまコメントしたらそれが明希のユーチューブで、そのコメントをたどって明希が俺の個展に来てくれたんだよ」


「えー・・・そうなんですか?たまたま?偶然?」


「そう、偶然」


「えー・・・すごい。何か運命を感じますね」と和花が言ったら、利成が「そう?」と嬉しそうな表情を見せた。


「それですぐつきあったんですか?」


「うーん・・・どうだっけ?明希」と明希に答えをふってくる利成に(自分だって覚えてるくせに)と明希は利成の顔を見た。


「すぐでもないけど・・・何か月かは経ってたと思う」と明希は答えた。


「そうなんですか、じゃあ、個展で再開してからどちらから連絡したんですか?」


「利成から」


「それでつきあったんですね?」


「まあ・・・」


「明希はその頃彼氏がいたからね」と利成が口を挟んだ。


「え?そうなんですか?」と和花が驚いた顔で明希を見た。


「ね?明希」と更に言ってくる利成を(自分だっていたくせに)と明希は少し睨んだ。


「じゃあ、その彼氏と別れて天城さんを選んだんですね」と和花が言うと、利成が「そうだよ」と楽しそうに和花に答えた。


「はぁ・・・」とそこで急に和花がため息をついた。


「どうかした?」と利成が聞く。


「私・・・お二人が羨ましいです・・・」


「何で?」と利成が和花のグラスに追加のワインを少しついだ。和花が「すみません」と言ってそれを一口飲んだ。


「私の・・・彼が結婚してたんです・・・」


「えっ?!」と利成と一緒に明希は驚いた。


「私、知らなかったんです・・・ずっと・・・。だってすごく若いし・・・。でも、私が妊娠したかもって言ったら・・・」


「えっ?!」とそこでまた二人で驚いた。


「あ、結局違ったんです。ちょっと体調悪かっただけで・・・」


「そう」と利成が答えた。


「でも、結婚してること咎めたら、まったく妻とはうまくいってないし冷めきってるからって・・・」


(あー・・・上等文句?)と明希は思った。


「それで?」と利成が言った。


「・・・別れるつもりだって、奥さんと」


「ふうん」と利成。


「だからその・・・失礼かと思ったんですけど、明希さんにどうなのかなって聞いてみようと思って・・・」


「なるほどね」と利成が納得してる。


「でも、明希さんは別れないっていうから・・・」


「うん、で、その人もっていうか、その人の奥さんもそうなのかって考えてるわけだね?」と利成が言うと、「はい」と和花が答えてうつむいた。


明希がワインを一口飲むと和花も一口飲んだ。それから思いついて明希は口を開いた。


「和花ちゃん、あのね、それは私の場合だよ?もしかしたら普通は別れるのかもしれないし・・・」


「そうなんですか?」


「うん、そう」


「じゃあ、なんで明希さんは別れないって言ったんですか?」


和花がそういうと利成が明希の顔を見る。利成はさっきとは違って真面目な顔はしていたが(あー・・・絶対面白がってる・・・)と利成の性格を知っている明希は思った。


「それは・・・」と言いかけて考えた。いい言葉が見つからない。どういえばいいのだろう。


(この微妙な夫婦?ていうか、利成とのバランスをどう説明したら?)と考えた。


考えていると利成が「和花ちゃん」と声を出した。


「はい」と和花が利成を見る。


「まずね、その男性の奥さんがどうこうの前に確認したいんだけど、和花ちゃんはその彼が奥さんと別れたがっているというのは本当だと思うんだね?」


「はい、だって本当にひどい奥さんらしいから」


(あー・・・それも上等文句じゃ・・・)と明希は思う。


「そうなんだ、どういう風にひどいの?」


「んー・・・彼を何でも否定してくるって・・・それにお手伝いさんのように使われるって、後は子供にばかり関心持って自分にはまったく気遣いしないとか・・・」


「子供がいるんだね?」と利成。


「はい」


「そうか」と考えた顔の利成。それから「明希はどう思う?」とまた利成がふってきた。


(もう・・・これは私を絶対試してる・・・)


「んー・・・私はそれだけじゃわからないかな・・・それは男性側の視点だから」


「といいますと?」と和花が聞いてくる。


「実際にそうかとはまた別かなって・・・」と明希が答えると和花が首を傾げた。


「彼が嘘をついてるってことですか?」


「ううん、そうじゃなくて」


「実際はちがうってことはそうじゃないですか?」と和花が少しムッとした様子だ。


(どうしよう・・・うまく説明できないのに私にふらないで)と明希は利成の顔を見た。


「和花ちゃん、じゃあ実際はどうとかは今はとりあえず置いておこうか」と利成が助け舟を出した。


和花が利成の方に顔を向ける。


「和花ちゃんは彼の言葉が本当だと信じられるんだね?」


「はい」


「彼は今の奥さんと別れて和花ちゃんと結婚してくれるって思うってことだよね?」


「はい、そうです」


「それで今の心配は、彼が別れようとしても彼の奥さんが別れてくれるかどうかということなのかな?」


「はい」


「別れてくれなかったら和花ちゃんが困るからだよね?」


「はい、そうです」


「そうか・・・じゃ、ちょっと整理するね」と利成が少しソファに座りなおした。


「和花ちゃんは彼が好きで信用している、結婚したいと思っているでいい?」


「はい」


「彼は結婚していることを最初は言わなかった。でも和花ちゃんが妊娠したかもと言ったら彼が実は結婚してるって言ったんだね?」


「はい」


「で、一つ質問。彼はその妊娠してるかもということに関しては何て答えたの?」


「・・・今は無理だって・・・」


「無理とは?」


「おろして欲しいって・・・」


「そう・・・和花ちゃんはそれを聞いてどう思ったの?」


「ショックで泣きました。そしたら彼が「妻とは別れるつもりだから」って・・・」


「なるほど」と利成が続ける。


「別れるつもりだから今は我慢して欲しいってことかな?」


「はい」


「彼の子供はいくつくらい?」


「確か・・・小学二年生って・・・」


「そう、小学生の子供がいるんだね。彼は何歳なの?」


「二十七才だと思います」


「そう。彼とはつきあってどのくらい?」


「二年半くらい・・・」


「そうか・・・」


利成がそこで言葉を切ってワインを一口飲んだ。


「あの・・・天城さんはどう思われますか?」


「どうとは?どのあたり?」


「彼は奥さんに別れをどう切り出すか悩んでて・・・だから待ってて欲しいって言うんですけど・・・天城さんなら何て言います?」


(あー・・・和花ちゃん、その前にまずその彼を疑おうよ)と明希は思った。さっきから聞いてると、和花は彼のことは一つも疑っていないのだ。


「もし自分がそうだったらってことだね」と利成が言って考える顔をした。それから和花の顔を見た。


(あ・・・)と明希は思う。ひどく冷めた目・・・。


「俺は明希とは別れないからね」と利成が言うと和花が少し顔色を変えた。すると利成がいつもの笑顔に戻って言った。


「それが俺の答え」


 


夜入浴してからリビングに行くと利成がいなかった。


(仕事かな・・・)


リビングにいない時は大抵仕事部屋に入っている。けれど中でどんなことをしているのかは明希は知らなかった。


明希も仕事用のパソコンを開いた。その時スマホがなったので明希は何気なく手に取って表示画面を見た。


(え・・・)


<元気?今度〇月〇日にライブがあります。都合が合えば来て>


ショートメールのその番号は誰かはわからなかったけれど内容からいって翔太だとわかった。


(私は番号教えてない・・・)


でもと思った。明希は番号をずっと変えていない。だとしたら翔太が明希の番号をずっと取ってあったということだろうか?


(どうしよう・・・)


これはまずいと思った。利成にわかったら・・・。


多分だけど、利成は自分の男性関係を絶対に許さないような気がした。あの日翔太と偶然会った時も、利成はわざと明希に翔太を会わせて、連絡先をわざと交換させたのだ。正確には交換ではなかったけれど・・・。


(どうしよう・・・)


黙っていてバレたら?でも言わなければこのままわからないかもしれない・・・。明希は心が揺れた。こないだ利成が言った「セックスにお互い思いを残してるだけ」というのはあながち外れでもない。でもそうだとしてもこうやっていまだに動揺するのだ。


考えながら結論がでなかった。寝室のベッドに入ってからもスマホを見て考えていると、利成が寝室に入って来た。明希はなるべく不自然にならないようにスマホをベッド脇のテーブルに置いた。


「寝る?」と明希が聞くと「うん」と言ってベッドに利成が入って来た。


「今日の和花ちゃん・・・気づいた?」と明希が布団の中に入ると利成自分の肘を枕にして明希の方を見た。


「何?」


「明希は気づいてないの?」


「だから何のこと?」


「あの話しだよ」


「和花ちゃんの恋の悩みでしょ?相手の人が結婚してて・・・」


「そう」


「私は相手の男性は奥さんと別れないんじゃないかなって思ったけれど・・・」


「うん、そこじゃなくて」


「え?」と明希は考えた。


(何だっけ?)と少しの間和花の言葉を思い出してみた。ただ相手の奥さんが別れてくれるかどうかってことを心配しているだけの話に感じたけれど・・・。


「相手の奥さんが別れてくれるかって・・・その心配じゃないの?」


「確かに表面上はね」


「え?表面上?」


また「んー・・・」と考えた。何だろうか?まだ何かあったっけ?


「和花ちゃんが相手の男性のことをまったく疑ってなくて、そこはすごいなって思ったけれど・・・」


「うん、じゃあ、ヒント。最後の和花ちゃんの質問思い出してみて」


「最後の質問?」


(何だっけ?)


──  彼は奥さんに別れをどう切り出すか悩んでて・・・だから待ってて欲しいって言うんですけど・・・天城さんなら何て言います?


(あ、そうだ)と思い出した。


「確か・・・利成ならどうするって・・・」


「そうだね。俺がその男性の立場で、仮に奥さんと別れたくてどう切り出そうかと悩んでいたらどうする?って質問だね」


「うん。それが何?」


まったく意味が分からなかった。


「俺はなんて答えた?」


「明希とは別れないよって・・・何だか答えになってない気がしたけど」


「ところが答えになってるんだよ」


「え?」


まったく意味がわからない。


「俺が答えたら和花ちゃん、顔色変えてたでしょ?」


「んー・・・そうだね。利成の言い方がきつかったからじゃないの?」


「ハハ・・・明希にはきつく聞こえたんだ」


「ん・・・ま」


「明希」と急に口づけてきた。それから唇を離すと「やっぱり明希は可愛いね」と言う。


「それはバカにしてるってことだよね?」


「ハハ・・・違うって」


「じゃあ、私が何を気づいていないのか教えてくれる?」


「うん、いいよ」と利成が今度は仰向けになった。


「まずね、和花ちゃんの話しを明希だけでなく俺にも一緒に聞いて欲しいってところ考えてみて」


「それは和花ちゃんは利成のファンだから」


「うん、そうだね。今日は和花ちゃんに何て最初に言われたの?」


「利成が来るかどうかだよ」


「そう、で、来ないって答えたんだね」


「そう。そしたら私に話を聞いて欲しいって」


「そうか。それであのレストランに行ったんだね」


「そうよ」


「つまり俺にもその話しをするつもりだったんだよね」


「そうね。利成にもっていうか利成に聞こうとしてたんじゃないの?」


「それなら相手の奥さんがなんで別れないかって聞けないでしょ」


「あ、そうか」


「和花ちゃんは俺のファン。そこがヒント」


「えー・・・もう難しい」


「じゃあ、そろそろ答え言おうか?」


「うん」


「お前は何で別れないのかって明希に聞いてたんだよ」


「え?まさか・・・利成とってこと?」


「そう」


「じゃあ、あの和花ちゃんの話は嘘だってこと?」


「いや、そういうことじゃなくて」


「ん?どういう意味?」


「和花ちゃんは確かにその彼氏のことで悩んでいるけど、一番の目的は明希だよ」


「え・・・もう、ますますわかんない」


「明希が傷つくところが見たいんだよ」


「・・・まさか・・・」


「意識的かどうかは別として和花ちゃんはその彼氏と俺をダブらせてたんだよ」


「・・・ごめん、まだわかんない」


「ハハ・・・。ま、いいよ」


「それで私を傷つけたいって?」


「常日頃俺が明希に対してベタベタしてるのを見てただろ?」


「そうだね」


「ベタベタしてたのはね、あれわざと」


「え?どういうこと?」と今度は本気でびっくりした。


「明希のいないところで色々アピールしてくるから、それを断る意味でね」


「和花ちゃんが?アピールとは?」と明希が首を傾げたら利成が嬉しそうに笑顔になった。


「俺、明希が好きだよ」とまた頭を撫でてくる。


「もう!いいからそれは」と本気で利成の手を自分の頭からよけた。


「ハハ・・・ごめん、ごめん」と利成が言う。


(もう・・・完全にバカにしてるんだから)と明希はふくれてみせた。


「わざと俺に触れてきたり、足や胸をアピールしてきたりね。明希は知らなかったでしょ?」


「え?嘘でしょ?和花ちゃんが?」


「うん、そう」


「知らなかったっていうか・・・利成の勘違いじゃなくて?」


「俺が勘違いすると思う?」


(あ・・・いや・・・)と思う。


「そうでした・・・」と素直に言ったら利成がまた明希の頭を撫でてきた。


「うん、明希もわかるでしょ?そういうアピールなら俺は山ほど経験してるからね」


(あー・・・はいはい、そうですね)と少し呆れた表情で利成を見てやった。


「で、断る意味とは?」


「明希にキスしたり、ベタベタするのは「俺にはその気はありません」て意味になるんだよ」


「そう・・・なの?」


よく意味がわからないけど?


「明希はわからないかもしれないけど、和花ちゃんには少なくとも伝わってたよ」


「そうなの?」


「うん」


利成が明希の方に身体を向けた。


「今日の言葉ね、ほとんど明希を攻撃してたからね。ま、明希には通じてなかったみたいだけど」


「通じてないっていうか・・・え?じゃあ、あの彼氏の話はどうなるの?」


「彼氏の話は彼氏の話でね。嘘じゃないと思うよ。でも目的はそこじゃなくて明希だったわけ」


「んー・・・そうなんだ」


「だから最後に「俺ならどうする?」って聞いてきたわけ。それをわかってたから「俺は明希とは別れないよ」って言ったんだよ」


「そうなんだ」


(まだピンとこないけれど・・・)


「・・・明希って最高だね」と今度は頬を撫でてくる。


「・・・・・・」


もう何か言う気力がなくなった。すると明希のスマホが鳴ったので明希はベッドの横のテーブルに手を伸ばした。


(あ・・・)


<来れるならチケットおくるよ>


(ヤバい・・・翔太ってばタイミング考えて>


と言ってもこっちの事情は翔太には見えないか・・・。


「明希」と利成に呼ばれてビクッとする。


「何?」と自然にスマホを置いたつもりだった。なのに・・・。


「彼、何だって?」


「え?」と利成を見つめた。利成は笑顔だ。


「何のこと?」


「今のメールでしょ?」


「まあ・・・」


「夏目は何て言ってきた?」


「・・・・・・」


「明希?」


(もう利成が怖い・・・)


「ライブがあるからチケット送ってくれるって」


「へぇ・・・そうなんだ」


「・・・・・・」


「・・・さあ、どうしようか?」


利成に言われてさーっと血の気が引いた。何だろう、本気で怖いんですけど?


「ごめん、番号はとってあったわけじゃないよ」


「そうだね。夏目が明希の番号をいつまでも捨てないんだよね」


「・・・・・・」


「そうだな・・・ライブに行ってもいいけどね」


そんなことを言われて驚いて明希は利成を見た。


「俺と一緒にね」


(え?)


「どういうこと?」


「さあ・・・」


利成がそう言って布団に入った。明希はうつぶせのままどうしていいかわからない。するとそれに気が付いた利成が言った。


「明希、寝よう」


「・・・うん・・・」


明希はわけがわからないまま利成の隣に横になった。利成が横を向いて明希を抱き寄せてから「おやすみ」と言った。


「おやすみなさい」と明希は答えて利成の胸の中で目を閉じた。


(何だかわけがわからない・・・)


でも多分・・・。


(利成ってば、絶対怒ってる)と最近少しだけ利成の感情の表し方がわかってきた明希は思った。

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