束の間の夢
既に冒険済みで、帰還後。
そのエピローグでもちょっとだけ続くオマケみたいなもの。
なお本編がコレであり、つまり本編でありエピローグです。
「…………ぅん」
目が覚めて目に映ったのは、しばらく……もう何十年も前に日常だと思っていた、住処の寝室の天井。
「……………………あれは夢だったのか?」
まだ寝ぼけている感覚があり、頭の動きがにぶい。
その頭を、体が横になっているままどうにか働かせ、今までの事を思い起こす。
〜〜〜〜〜〜
俺は20代半ばにして、早くも会社を退職。
その理由は、とあるテレビ番組を見てしまったから。
山奥でひっそり暮らす人を取材するやつ。
会社内の空気が合わず、心が限界に近くなっていた所に直撃してしまった形だ。
それから数年。 ある程度自給出来て、それを商品として卸すための農業経験を得る為に、様々な種類の品種を育てる農家に弟子入り。
土いじりの組合の教科書も手に入れ、そりゃあもう勉強した。
土壌の手入れや気候に合う作物、どうすれば作物の収穫の最大化を狙えるかまで。
その実践も、師匠になってくれた農家さんの畑で経験させてくれた。
それで満を持して山奥の廃村になった家と土地を買い、師匠からの餞別で建物の修復をしてくれて、さあ土いじりを始めよう!
となって、その大変さを噛み締めながら2年目がはじまる所だった。
目が覚めると変な所に立っていて、変な人が目の前に立っていて「私の世界を助けてくれ」と訴えてきた。
変な人の言う事には、ファンタジーな世界で世界の全てを壊そうと世界規模の大きな戦争をした存在がいたとか。
そいつは倒せて世界は守られたけど、長い長い戦争によって食料関係が壊滅。
農民が兵士として大量に国にとられ、農業知識が世界規模で途絶えたので、食料不足で滅ぶ未来しか無いそうだ。
それで沢山の種類の農産物に触れた俺を、世界再興の為に招待したいと。
俺はもちろん、最初は断った。
師匠をはじめとした、もっと凄い人達が居るだろうと。
すると、そう言った人達では直ぐに正解にたどり着いてしまい、正解を指導するだけで終わってしまう。
現地の人と一緒に悩み、工夫を重ねて試行錯誤する大切さを教えられず、言われたまま作業して問題にぶつかっても対処できない人ばかりになる。
だから新米から少し抜け出たばかり位が丁度いいのだと返された。
それには納得したが、俺だって今の生活を手放したくない。
その事を伝えると、変な人が鷹揚に頷いた。
……ちょっとイラッとする。
が、この変な人は凄かった。
変な人が十分だと判断すれば帰してくれるらしい。 しかも変な人の世界へ行っている間は時間が経過せず、実質一瞬だけ。
つまり変な人の世界へ農業研修に来てくれと。
注意としては土いじりの関係上、一瞬でも年どころか数十年単位での長い研修になると言われたが。
それと特典として、現代農業に慣れた俺が変な人の世界で苦労しないよう、教科書等の持ち込みや現代農具の代替となる様々な異能や現地民との会話に困らない異能、そして命の危機が決して起きない神の加護。
かなり至れり尽くせりで、招待された。
変な人の世界は大変だった。
まずは比較的温厚な人ばかりで、気候も安定している村の近くに飛ばされた。
最初の数年は世界が違う事による、風習の違いで苦労した。
が、それに慣れる頃には成果は出始めていた。
村の農家に土いじりの鉄則が浸透し、生産も安定してきた。
作物の病気が途中で起きたが対処にも成功し、農家皆で喜んだのは良い思い出だ。
そしてその翌年、問題が起きた。
村を所有する領主……どころか、国から直接俺を招聘という名の拉致をしに、国軍がやって来た。
領主を差し置いて国が動くなんて、それだけ逼迫しているのだろう。
が、その最中に奇跡が起きる。
神のものらしき声がこの場にいる者全てに聞こえ、それによると、この地で俺の仕事は終わったから別の土地に送る。 と。
それで違う土地へテレポートさせられて、また違う村で農業研修を始める事となった。
俺の物一式は、変な人からもらった異能の1つの、畑や住居も付いている異空間の中にしまってあるのが幸いして、全て持ってこられた。
ちなみに元いた国には教会へ、俺が勉強しながら教えていた事を国が村から教わり、国中へ広めるように伝えたそうだ。
それでテレポートしたのは、さっきまでいた所の隣国の村で、どうやら隣国の食料生産が上がってきたから略奪しようとしていた感じだった。
それでこっちの国に神がお告げで、神の使いを村に送って食料生産を何とかするから略奪は止めよとか、やったらしい。
それで村での作業1年目でこっちの国軍が俺を保護の名目で拉致しようとしてきた。
が、それは神の加護とやらで撃退されて、以降は各地の農業を指導する立場の人が研修として村に来たりした。
他にもなにやら陰謀なり何なりに巻き込まれかけたけど、それは加護でどうにかなった。
ついでに、お告げで警告されていたのに俺に手を出した国からは、神が見限ったのか早々にテレポートさせられたのには呆れた。
その国は神に見放された国として周辺国から断絶され、平民達が見限って逃げ出し、貴族以上の身分の人と家族が逃げようとすると元の土地に戻され、国として地獄をみたらしい。
…………とまあ、こうやって数年ごとに各国を転々として、風土に合う作物を育てる工夫でアレコレ悩みながら地元民と協力して。
なんか俺の外見年齢が変わってないのに驚いたりしながらも、土いじりを続けた。
すると途中から世界中に俺の名前が広まったのか、物凄く仰々しい対応をされたりしてビビった。
が、やる事は変わらない。
俺が居なくなっても続けられる土いじりを目指し、試行錯誤する毎日だった。
〜〜〜〜〜〜
あの違う世界での土いじりの数十年は、夢では無かったらしい。
変な人にもらった異能は地球へ帰ってきても、全部使えた。
あの苦悩と苦労を重ねた日々の経験も、体に刻まれている。
その大変な日々を時々思い出せば、口許が自然と弛む。
それから大きく深呼吸を一つしたら、経験を利用して土をいじる。
この年以降の作物は、麓の町に卸すと大変に喜ばれる様になり、その笑顔を見ていると俺の居場所が見つかった様な気がした。
変な人からもらった異能は魔法であり、特に効果は決めておりません。
決めているのは、農機具が出来ることをイメージして異能を発動させると、その効果が出力されるって程度。
山奥の家に置いているトラクターで畑を耕した結果をイメージすると、その通りに耕された畑になるとか。
米の苗を持って田植え機を使ったイメージをすれば、イメージした所に持った苗が植えられた結果となる。
稲や麦やじゃがいも等の各種収穫機を使うイメージで異能を発動させれば、その結果が得られる。
農薬散布ドローンが(以下略)
神の加護は、厄介事回避に特化。
国が自国の利益のためだけに囲おうとすれば、国の首都にある教会等へ神託として警告が行き、それを無視すれば何らかの天罰が発動したり。
もちろん国じゃなくて領主とかの場合は、その領主がいる街等の教会とかに神託が届く。
直接危害を加えようとしてきたなら、その危害を弾く結界的なナニカが自動発動したり。
毒等を盛ろうとすれば、勝手に無害化される。
そんな超ご都合加護を想定。
なので話の盛り上がるポイントをことごとく排除するタイプなので、物語にしにくい設定となっております。