表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東京ファントムウォーズ  作者: 山岸マロニィ
<参>──踊る走馬灯
27/97

26話 ライスカレーの為に

 ――その頃。

「ヒマだああーッ!」

 ステラと遊ぶのにも飽きて、ニコラは大きく伸びをした。それに、着慣れないドレスは窮屈で、じっとしていると眠くなる。そんな彼女を、忠実な眷属は六本脚で見上げている。


 ニコラは大欠伸をして、目尻に涙の溜まった顔で見下ろした。

「なあステラ、早く終わらせる方法無い? 腹が減ったぞ。ソーダ水が駄目ならライスカレーが喰いたい」

「ピ……ピク……」

 走馬灯の色を反射して、ステラは頭を小さく傾げた。

「そうだよな。自動巻きのおまえは腹が減らないんだよな。リュウみたいに金平糖でも食べてみるか? 甘くて美味(ウマ)いぞ」

「ピ……」


 ステラのスベスベした頭を撫でて、ニコラは胡座をかく。

「うーん、こうしてても暇だし、あのヘンな奴をやっつける方法を考えよう」

「ピ」

「あいつは、今は舞台のところに座ってるけど、影の中の異空間を行き来できると云ってたよなぁ、確か」

「ピク」

「だから、銃弾も当たらない。異空間に入るのは一瞬だからな。異空間に入ってしまえば、こちらの世界から干渉できなくなる」

「ピピ」

「つまり、あいつをやっつけるには、異空間に入るのを阻止しなければならない。ならどうするか」

「クピ?」

「光だ。真上から強い光を当てて、あいつの足元の影を消してしまえばいい。そうすれば、異空間への入口が塞がれてしまうからな」

 と、ニコラは上を指した。


「今はちょうど昼頃だ。しかも、天気がいい」

「ピクピク」

「という訳で……」

 ニコラはニッと歯を見せる。


「屋根がなくなれば、透也の用事は終わる」


 ニコラはステラを持ち上げ、舞台近くの天井を示した。

「斜めの光じゃダメだからな。真上だ。建物の構造上、あの辺りが弱そうだ。透也は人を撃ってはいけないとは云ってたけど、屋根なら大丈夫だろう。ステラ――あそこを撃て」

 と、ステラを床に置く。


 その途端。

 軽い動作音がして、脚の隙間から小型レールガンの銃身がせり出した。

 そして……


 ピシュン。


 銃口が火を噴いた。

 床に置かれ三秒……この奇襲に気付く者は、この場に誰一人居なかった。


 間髪入れず天井が砕け散る。梁を砕かれた屋根が軋み崩落。轟音を立て崩れ落ちる瓦礫と共に、光が影男の頭上に降り注いだ。


「…………え?」


 間の抜けた声を出すのが精一杯。

 逃げ場を失った影男は瓦礫に押し潰された。



 ☩◆◆──⋯──◆◆☩



「――――なッ!!」

 崩れ落ちた天井と穴が空いた屋根を見て、透也は素っ頓狂な声で叫んだ。


 しかし、状況は理解した――ニコラだ。

 この状況に導けるのは、この場でステラのレールガンだけ。時間的にリュウはまだ彼女らの元に辿り着いていないだろう。あれはニコラが自分の判断でやったのだ。


「あれ程撃つなと……」

 ……いや、人を(・・)撃ってはいけないとは云ったが、屋根を撃つなとは云っていない。

 恐らく、透也と同じく「影男の足元の影を消す」という発想を実現する為に、屋根を消し去る方法を選んだのだ。

 しかし、これでは異空間への逃亡を阻止するどころか、直接攻撃だ。影男にはまだまだ聞きたい事があったのだが、こうなっては仕方がない。

 透也は諦めて、舞う埃から口を庇った。


 急な日差しで、再び義眼が悲鳴を上げている。仕方なく前髪を下ろし、左目を細めて辺りを確認する。


 屋根の歪みで断線したのだろう。光を失った走馬灯は傾き、ぶらんぶらんと揺れている。

 濃く立ち込めた白煙は、屋根の穴から吹き込む風に散らされ、急激に濃度を薄める。

 その向こう、舞台付近に積み重なる屋根の破片はぴくりとも動かない。あの下敷きになって生き残れる者はいないだろう。


 一方、眷属の女たちは、咄嗟に座席に身を隠していたが、恐る恐る顔を出した。

「…………」

 しかし、状況を把握しても取り乱すことはない。まるで記憶喪失のように辺りをキョロキョロと見回している。

「あの、此処はどこですか?」

「何? 何が起こったの?」


 自分の意識で動いていたとは云え、異空間越しに召喚された際の記憶は残らないのだろう。そうでなければ、影男の所業がここまで明るみに出なかった理由が解らない。


 そんな彼女らに、返答をしたのは明智香子だ。

「詳しい話は後ほど。まだ屋根が崩れる可能性があります。一旦ここを出ましょう」

 恐ろしく冷静な声でそう告げ、舞台裏から現れた小林執事と共に女たちを出口に導く。


「ワガハイたちも逃げた方がいいでアリマス。この騒ぎを聞き付ければ、すぐに警察が駆け付けてくるでアリマス」

 リュウが肩に戻って来た。

「そうだな」

 と、透也も出口に向かおうとした。


 ――その時。


「警察だ! その場を動くな!」

 多数の警官たちが劇場に雪崩(なだれ)込み、透也は咄嗟に座席の隙間に身を隠した。

 騒ぎを聞き付けたにしては、早過ぎはしないか――!


 隙間からそっと覗く。

 すると、警官隊を率いる中村警部の姿が見えた。

 東京特務警察――魔能怪盗、そして怪人ジュークを追う彼が、何故この刻、この場に居合わせるのか。ツイてないにも程がある。

「どうする、リュウ」

「ホール周辺は警官隊に囲まれているでアリマス。逃げるのは困難でアリマスね……」


 すると、低い声がした。

「楽屋口からお逃げなさい」

 透也が顔を上げると、少し離れた処に小林執事が立っている。

 彼は透也を見ずに続ける。

「今なら包囲も手薄でしょう。お嬢様が彼らの注意を引きますので、今のうちに」


「――助かる」

 透也はもう一度状況を確認し、座席の隙間を舞台袖へと移動する。

 その途中、

「リュウ、ニコラを連れ出してくれ」

 と、彼の相棒を放つのも忘れない。


 身を低くして素早く走り、未だ漂っている白煙に身を隠す。白煙の流れに乗るように舞台袖のカーテンに身を滑らせ、そこから透也は一気に楽屋口へ走った。

 楽屋口を出た処は、薄暗い裏通り。未だ警官隊の包囲は届いていない。


 透也はブーツの電磁バネに身を任せ屋根へ跳ぶ。そこへ身を伏せ、ニコラが来るのを待った。


 ……ところが。

 しばらくして警官隊が楽屋口を発見し、周囲を固めだしても、ニコラの姿は現れなかった。

「…………」

 血の気の引く思いで様子を伺う。


 だが、やって来たのはリュウだけだった。

 素早く透也の上着のポケットに身を隠し、彼は相棒を見上げた。

「ニコラの姿が見えないでアリマス」

「警察に見付かったのか?」

「それはないでアリマス。サーモグラフィーで確認していたでアリマスから。まるで煙のように消えたでアリマス」

「…………」


 ニコラにはステラが付いている。

 ステラはニコラに危険が迫ればレールガンを撃つ。その為、ニコラが誘拐されたとは考えにくい。

 ならば、何が起きた?


「ここは危険でアリマス。一旦安全な処へ逃げるでアリマス」

「……解った」


 透也はそっと向きを変え、屋根の上を浅草の街並みに向けて駆け出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ