思い出話。
そこまで怖い話ではないのですが、綴れるのならと。
興味津々なのです☆
-----歌舞伎町二丁目-----
1994年の春。高校を卒業した私は、芝居の勉強をする為東京にやってきました。
大学を選ばなかったのは、高校生活が尋常ではないくらい楽しめなかったから。あろうことか親が親戚の住むカナダへ私を行かせようとしていたけれど、無論拒否しました。というか拒絶ですねあれは。英語苦手なのに・・・、それでも無理やり住まわせればさすがに覚えてしまうだろうというのは何となく理解はするのだけれど。まぁ嫌です。
今は無き新宿の厚生年金会館の向かい側に学校があり、家の近くという事で移動に困ることはありませんでした。
今ものんびり生徒ですぜ、楽しいからね☆
そんな私の住んでいる場所が歌舞伎町。何かですね、歌舞伎町に住んでいるというのはなかなかに好奇心をくすぐられるらしいのですよ。しかも二丁目のマンションでしたから「あそこに住める場所あるの?」なんて一字一句変わらないリアクションを何度返された事か。
ただね、この部屋出るんですよ。霊感なんてないですよ?そりゃあ、枕元に親戚のおばあちゃんらしき姿を目にしたり、養護施設に預けられていた子供時代にも目撃はしているのですけれど。あそこはあそこでかなりのヤバいスポットでしたから・・・。
む、結構経験ありますね私。
まあ、今回はこの部屋のお話という事で。
一人暮らしには最適の狭さ。なんていいますかねぇ、狭さが最適というのもおかしな話なのですけれどね。誰にも邪魔されない空間というのは本当に嬉しいのですよ。そういうのがあって最適と言えたのかもしれませんけれど。十歩ほど歩けばベッドにも入れるし、台所で料理も出来ればユニットバスにも入れる。
しかもこんな都心でお家賃67,000円ですよ。担当していた不動産屋の事情とやらでこの金額らしいのですが。まだ二十歳前の青年には興味もありませんでした。
さて、出て来るとは申しましても・・・いや、出るには出るのですよ。がっつりと!
そう、ガッツリでてんこ盛りなのです。毎日出て来るわけではないです。そんなんだったら大騒ぎですからね。出くわす頻度そのものは低いのですが、じゃあ何なの?
昼でも夜でも出て来るのですよこの方々は。
そう、この方々。一人じゃないんですよ。
初めてその存在を見たのは、実は私じゃなくて職場の同僚でした。
「家は寝るところ。移動に体力を使わない場所で働け」なんて言われたのでそれに従って新宿駅の近くでアルバイト。となると利用されるわけですよ、終電に間に合わなかった時の避難場所として。
そんな同僚が、夜、玄関の前に白い人の立ち姿を見かけたのが始まりでした。
私が見た、というより経験したのがまず朝方。覆いかぶされて耳元でくすくす笑い声を聞かされたのが初。女の子の声でした。
人間の脳っていうのは深く眠った時に目が覚めると、瞬間はいきなり働いてくれないから体を動かせない。これが金縛りなんだと昔教えられていました。
でも、頻度が低いといっても来るんですよ、何度も。
たくさん吊るした服の間から老人の顔。これは悲鳴を上げましたね。
足引っ張られるし、息吹きかけられるし。挙句の果てには気配ってやつですか、いるってわかるんですよ。霊感なんて本当に無いですよ?でも体中が不安で覆われるんです突然。
で、それの正体が分かったのが、職場の先輩からの言葉。
この人、なんとか道元だかというお坊さんとお知り合いらしくて、先輩自身を診て貰った時、結構仲良かったからなのか私についてとても興味を示されたらしいのですよ。
その場にいないのに・・・なんかとばっちり。
で、その人が仰るには----私の部屋には霊道があるという事実。
霊道っていうのは、魂が歩く道。この時初めて知ったのですが、霊道というのは三種類あるらしくて、
あの世からこの世へ出て来る道。
この世からあの世へ向かう道。
どちらの方向へも歩ける道。
私の部屋にあったのが、出て来る道。マンションの八階なんですけれどねここ。部屋の壁から出て来て明治神宮へ伸びてるのだとか。
要するにですね、この世に出て来たところに私がいるものだから、反応する霊がいるらしくてちょっかいを出していたのだと。迷惑!
と、確かに迷惑なんですよ。目的地のはっきりしている霊道を歩いているのだから、浮遊霊とか地縛霊だとかのよろしくない存在ではない。それでも霊体というのは、生きている人にとっては生気や運を吸い取ってしまう存在らしい。その人間にゆかりのないのであれば尚更なのです。
泊まりに来た同僚たちがすぐに眠ってしまうわけですよ。私?私もよく寝る方ですけれど、わかります?テンションの高い人が突然眠気に襲われる様というのを。
動物の動画とかで猫がいきなりバタンキューするあれですすよ。あれの人間版です。
シャレにならない。
今は引っ越しましたけれど(それでも超近くに)今暮らしている人はどうなっている事やら。この事実、私が教えて貰ったというだけで明るみには晒されていないのですよね。
それに、謎が残っているのですよ。
霊道は部屋の壁からベランダへ出る窓際、つまるところの外へ伸びている。
じゃあ先程伝えた、それより手前の玄関の白い影は何?
ベランダから常に中を覗いて立っている、喉の乾いたお侍様は、何・・・?
お侍様が侵入してきたら、終わりだって言われたの。