35.幸せふわふわパンケーキ2
「お前それさっきから何やってんの? パンケーキに恨みでもあんの?」
藁人形に釘を打ち付けるかのように、池田はフォークでぷすぷすとパンケーキに無数の穴を開けていく。
「シロップを染み込ませてるんだよ、ほら豆腐とかも醤油かける前に箸で穴開けたりするじゃんか」
「いや、しないけど……」
ここまでさも当然のような顔で言われてしまうと、自分がマイノリティなのではないかと不安になる。
俺がおかしいのか……?
「え、じゃあ冬にコンビニで買うおでんのたまごは? それはさすがに穴開けるよな?」
それならまだ豆腐の話のほうが理解できた。
「開けねーよ……そんな、なんでもかんでも穴開けないだろ普通……」
「校則で禁止されてるのに、耳に穴開けてるやつに言われたくありませーん」
うっせぇ……。
少々腹は立つが、下手に落ち込まれるよりは調子に乗ってもらったほうが、こちらとしてもありがたい。
「あ、そうだ、それなら試しにこれ一口食ってみろよ、今ならいちごもつけるからさ」
「いらね、俺いちごも生クリームもあんま好きじゃないし」
いちごと生クリームの組み合わせには、あまりいい思い出がない。
「そうか……」
「なんだよ、俺のが食いたいなら一口やるよ」
「いや別にそういうつもりで言ったんじゃ……」
まだ自分も口をつけていないパンケーキを一口サイズに切り分け、カスタードクリームをたっぷりとつけて差し出す。
「ほら」
すると池田は特に躊躇する様子もなく、すぐに身を乗り出してかぶりついてきた。
「食うんじゃん」
「だって、すげえ美味そうだったから……」
「なんで美味そうに見えるか教えてやろうか? 俺のパンケーキには気持ち悪い穴が開いてないからだよ」
「嫌な言い方……」
甘味を一口あげたのだから、嫌味の一言ぐらいは受け入れてほしい。
「でもめずらしいな、いちごと生クリームが嫌いなんて、あんなもん誰が食っても――」
池田は話の途中に突然、俺の背後を見ながら口をぽっかり開けてフリーズした。
「ん? どうした?」
すぐに振り向き、池田と視線の先を合流させる。
「あやっ、た、高比良くん! すごい偶然だね!」
「なんでアンタ達が一緒にいるの……?」
そこには喜びを隠しきれない笑顔の涼風ちゃんと、人殺しのような顔をした結奈ちゃんがいた。
「結奈……!?」
どうしてこうなるんだよ……やば、吐きそ……。
「わりぃ高比良……ちょっと俺トイレ行ってくるわ……」
「おい待てよ!」
何一人で逃げようとしてんだよ! こっちはてめぇの三倍気まずい状況なんだよ!
「バカじゃないの……もういいから、ほら涼風行くよ!」
「え、ああうん……じゃ、じゃあね二人とも……」
腰より少し高い位置で控えめに手を振る涼風ちゃんと、怒りを通り越して呆れた様子の結奈ちゃんが去っていく。
「あ、ちょっと二人とも待ってよ」
「何……?」
二人を呼び止めると、池田は何余計なことをしてくれてんだと、強い抗議の視線を送ってきた。
悪いな池田、でも俺には今ここで、どうしてもハッキリさせないといけない大事なことがあるんだよ……!
「あのさ……普通豆腐に穴って……」
「あ? 頭部に穴がなんだって?」
日曜の昼、パンケーキに目を輝かせる女子たちの中、蛇に睨まれた蛙が二匹。




