34.幸せふわふわパンケーキ
やっと横になれる……今日は早く寝よう……。
風呂上がり、少し伸びてきた髪を念入りに乾かし一人ホテルのベッドに横たわる彩人。
あーそうだ、寝る前に爆弾処理しとかないと……。
この爆弾とはクラスの女子からSNSで届くメッセージのことであり、毎日欠かさずに処理しなければ学校ごと吹き飛ばして爆発するとされている。
ん、フォローリクエスト来てる……。
@yuta._.0123
誰だこいつ……?
後ろ姿だけのアイコン、フォロワーは17人、スパムアカウントではなさそうだが、こんな知り合いいただろうか。
のぼせた脳を働かせ、ここ一週間の記憶を辿る。
あ、こいつ……結奈の彼氏か!?
名前はたしか池田優太、このアカウントのIDとも一致する。
うわ絶対そうじゃん……なんでこのタイミングなんだよ……。
考えられる理由は一つ、俺が結奈に手を出したことがバレたのだろう。
はあ、どうして俺ばかりこんな目に……。
時限爆弾の爆発を遅らせる小細工はいくつか知っているが、ピンの抜かれた手榴弾は専門外だ。
無視するか……? でもそんなことしたら学校で会った時に何が起こるか……。
自業自得、自分で自分の首を絞めるとはこのことなのか、だとしたら本当に自分の首を絞めている時のほうが何倍もマシではないか。
そんなことを考えながら、謎のアカウントのフォローリクエストを承認した。
そして翌日。
「まさか高比良から誘ってくるとは思わなかったよ……」
「ああ、まあ話したいことがあるんだろうと思ってさ……」
アカウントの正体は予想通り池田だった。
学校などの自分にとって都合が悪い場所で会うぐらいならと思い、あの後すぐに彩人のほうから二人で会おうと誘ったのだ。
「そうか、やっぱりわかってるんだな……でもどうしてこんなと――」
「お待たせしました〜こちら幸せいちごたっぷりパンケーキと、濃厚カスタードのスフレパンケーキになりま〜す!」
「ああ、どうも……」
二人の間に運ばれる、女子の夢を具現化させたカロリーの塊。
「高比良お前甘いもん好きなんだな……」
少しでもお前の怒りを鎮めるためだよ、ふわふわのパンケーキに囲まれながら怒号を上げれるやつはいないからな。
「それで、話したいことっていうのは……」
「俺……結奈と別れたんだ……」
日曜の昼、パンケーキに目を輝かせる女子たちの中、死んだ目をした男が二人。
「それで……?」
「いや、だから別れたんだよねって話……」
つむじを見せつけガックシとうなだれる姿が、皿の上でしぼむパンケーキと重なる。
「そうか……」
ん……? ちょっと待て、もしかしてこいつ俺がしたこと何も知らないんじゃ……!?
「じゃあそれを言うためだけに、わざわざ昨日連絡してきたのか……?」
「ああそうだよ……付き合ってること言ったの高比良だけだったから……」
「お、俺だけ!? なんでそんな大事なこと俺に言ってんだよ!」
それまで一回も口きいたことなかっただろ?
「なんでだろうな……なんか高比良って口が堅いイメージがあったんだよ……」
そりゃ一回も口きいたことなかったからな!
「ま、まあ俺でいいなら話ぐらいは聞いてやるよ」
「高比良は優しいな、そりゃモテるわ……男の俺でも惚れそうだよ……」
ようやく顔を上げたと思ったら、やたら湿っぽい目つきで見つめてくる。
「だ、大丈夫か……? そうだ、今度知り合いのかわいい女の子紹介してやるよ!」
こいつ失恋のショックで新しい扉開こうとしてないか!?
「大丈夫、高比良のおかげで少し元気出たし……それにもう、しばらく女はいいかなって……」
「それは本当に大丈夫なんだろうな!?」




