31.地獄絵図
「これ描いたの川澄さんでしょ?」
終わった……。
薄れゆく意識の中、四ヶ月間の高校生活が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
思い返し見れば、意外と悪くない日々だった。
「川澄さん……?」
「はい……私がやりました……」
罪を認めて楽になろう、初犯なら執行猶予はつくはずだ。
「へぇー意外と写実的な絵を描くんだね、もっとアニメっぽい絵を描くタイプだと思ってたよ」
いや、合ってますよ……。
写実的に見えるのは高比良くんがアニメから飛び出してきたような顔面をしているからです。
「しかもこれ耳の下の小さいホクロまで描いてるじゃん、よく見てるねー」
自分でも直視できないほど恥ずかしい絵を、高比良くんはニコニコとしながら鑑賞している。
こ、この反応はどっち……? 普通ならキモすぎてドン引きするところだけど、意外と好意的に捉えてくれてたりする……?
ダメ元で控訴してみれば、逆転無罪を勝ち取れるかもしれない。
「そ、その……高比良くんって何をさせても絵になるから、つい描きたくなっちゃうんだよね……」
「ふーん、そっか……」
ノートに描かれた自分の姿を穴があくほど凝視していた高比良くんが、ゆっくりとそのご尊顔を上げる。
今こそ、最後の審判の時。
「それで絵の中の俺に、妙に顔を赤くさせて、馬鹿みたいに胸元をはだけさせて、わけのわからない黒いピアスとネイルをさせたんだ」
高比良くんの口から淡々と述べられる、美紗子の凶悪な犯行の数々。
「川澄さんってこういうのが好きなの? ごめんね、正直気持ち悪い」
判決――
死刑。
「すみませんでした……!」
スーツケースにすっぽり収まるほど体を小さく丸め、冷たいフローリングに額を擦り付ける。
お願いします。どうかこのまま一思いに斬首してください。
「ちょっとやめてよ土下座なんて、とりあえずあっちで座ってゆっくり話そ?」
腕を持ち上げられ、リビングのソファーまで強制連行される。
恥ずかしい……消えてなくなりたい……。
限界を超えた羞恥に身体を震えさせながら、真っ白の大きなソファーに倒れるように座ると、高比良くんはテーブルを挟んで向かいの一人掛けのソファーに座った。
街中を一望できる窓からの絶景も、まるで王室のような豪華絢爛な部屋も、今は暴力団の事務所より恐ろしい。
指は何本詰めたらよろしいのでしょうか。
「川澄さんいい?」
「は、はい……」
いかなる処分も謹んでお受けします。
「実は俺さ、この絵を見て思いついたことがあるんだよ」
高比良くんはまるでおもちゃ箱あさる子供のように、近くに置かれたスクールバッグから何かを探し始める。
「あれ、どこにやったっけ……ああ、あったあった、これ!」
まな板と包丁のお手軽ケジメセットが出てくることも覚悟したが、テーブルの上に置かれたのはどこにでもある小さな安全ピンだった。
え、なんですかこれは……。
「ピアス、開けてみようかなって」
「え……どういうこと……? 高比良くんが……?」
困惑して固まっていると、高比良くんは私の手を取り机の上の安全ピンを握らせた。
「うん、だから美紗子ちゃん、これで俺の耳にピアスを開けてよ」




