25.生まれた意味
あれ、どうしたんだろ……?
自宅であるマンションのエントランスで、オートロックのインターホンを鳴らしているのだが、なぜか家に居るはずの涼風ちゃんが応答してくれない。
仕方がないので念のため持っていたスペアキーでドアを開け、エレベーターのボタンを押す。
なにか怒らせるようなことしたかな……?
エレベーターを待っている間に少し思い返してみたが、心当たりが山ほどあったので彩人は考えるのをやめた。
抱きしめてやればまたすぐに機嫌を直すだろう。
そんな浅い考えでエレベーターを降り、今度は自宅前のインターホンを鳴らす。
やはり涼風ちゃんからの応答はない。
困ったな……できればスペアキーを持ってることはバレたくないんだけど……。
もう一度インターホンを鳴らし、レバーハンドルに手をかける。
あれ……?
ドアに鍵はかかっていなかった。
開けておいてくれたのかな?
「ただいまー……」
玄関に靴こそ置いてあるが、そこに涼風ちゃんの姿はない。
不思議に思いながらリビングのソファーにスクールバッグを置き、スマホで涼風ちゃんからのメッセージを確認する。
しかし学校を出る時に送った『今から帰るよ』のメッセージには、返信はおろか既読すらついていなかった。
「涼風ちゃーん?」
もしかして寝てるのかな?
音を立てないように寝室のドアをゆっくり開けた、その時。
彩人の背筋が急速に凍りつく。
父親が首を吊ったクローゼットから、微かに呼吸音のようなものが聞こえたからだ。
脳裏によぎる、六年前の惨状。
恐る恐るクローゼットに近寄り、扉を開ける。
「涼風……ちゃん……?」
するとそこには涼風ちゃん、正確にはおそらく涼風ちゃんであろう、下着姿の女の子がうずくまっていた。
両手首は膝裏でベルトに縛られており、頭にはど
こか見覚えのある紙袋が被せられている。
どうして……。
肌で感じ取れるほどの生臭い空気に、閉じ込められたのが今さっきの出来事ではないことを理解させられた。
「ゔゔっ……」
気配を感じたのか、涼風ちゃんであろう女体が頭を上げて唸る。
口にも何か布のような物を押し込まれているのだろう。
「涼風ちゃん落ち着いて、俺だよ」
少しでも安心させるため、日常を思わせるような穏やかな口調で頭に被せられた紙袋を取り外す。
ああそうか、そういうことだったのか。
涼風ちゃんの顔は涙と汗でぐちゃぐちゃに歪められていた。
ありがとう、俺やっとわかったよ。
口に貼られたダクトテープを優しく剥がし、中に押し込まれていた唾液まみれのハンカチを取り出す。
手首を縛るベルトは半分壊すように、力任せに外した。
「どこか痛いところはない……? 大丈夫……?」
涼風ちゃんは真っ赤な顔で嗚咽しながら頷く。
「背中は……? ごめんちょっと見せて……」
何か酷いことをされた形跡がないか、彩人は覆うような格好で隅々まで念入りに調べた。
よかった……残るような傷はどこにもついてない……。
どうやら最悪なことはされていないらしい。
「彩人くん……彩人くん……」
胸の中、小さな身体は恐怖に震えていた。
「大丈夫……大丈夫だよ……」
「アイツは俺が殺すから」
やっとわかった。
自分の生まれた意味。
少女を抱きしめる大きな身体は、強い殺意に震えていた。




