23.現実逃避
急に何を言ってるんだこの子は……。
とても朝っぱらから玄関先でしていい話じゃない。
「と、とりあえず中で話そうよ」
彩人が家の中に招き入れると涼風ちゃんは何も言わずにローファーを脱ぎ、まっすぐリビングの方まで歩いていった。
リビングまで招き入れるつもりは、なかったんだけどなあ……。
長いため息を吐きながらスニーカーの紐緩めていると、リビングから涼風ちゃんの話し声。
誰かと電話してる……?
重い足取りでリビングに向かい、聞き耳を立てる。
「一年B組の安達です……はい……体調不良で欠席します…」
おいおい嘘だろ……。
体調不良だったのかよ……!
どうりでいつもと雰囲気が違うわけだ。
現実から逃げるように踵を返す。
「はい……はい……失礼します……」
仕方ない、帰りにコンビニでスポーツドリンクとゼリーでも買ってきてやるか。
それじゃあ、お大事に……。
「彩人くん、どこ行くの……?」
背後からナイフを突き立てるような冷たく鋭い声。
うんまあ、そりゃさすがに無理だよね。
「私じゃダメってこと……?」
涼風ちゃんの声が震えている。
このままでは本物のナイフを突き立てられるのも時間の問題だ。
困ったなあ……。
今日は金曜日、涼風ちゃんと一緒に休んでしまえば、次の川澄さんと繋がりを持てないまま、月曜日までの三日間を無駄にしてしまう。
遅刻でも早退でもなんでもいいが、出席だけはしておきたい。
でも大丈夫、こんな時はこの顔面に頼ればいい、適当なことを言ってキスでもすれば、大抵のことはどうにかなる。
安易な考えのように思えるが、実際それで十六年間どうにかなってきた。
「不安にさせてごめんね、帰ったら涼風ちゃんの好きなこと、全部してあげるから」
いつもの優しい笑顔を作って、涼風ちゃんを抱きしめる。
「行っちゃうの……?」
「早退して昼には帰ってくるよ、お昼ご飯は涼風ちゃんの好きなものなんでも作ってあげるから、一緒に食べよ」
目を合わせると涼風ちゃんの表情が少し柔らかくなっていたので、すかさずポケットから取り出した家の鍵を握らせる。
「だから少しの間だけ、お留守番お願いしてもいい?」
「うん……わかった……」
すっかり涼風ちゃんは甘えた幼い声で喋るようになった。
はい、俺の勝ち。
キスするまでもなかったな、まあでもせっかくだし参加賞ぐらいはくれてやるか。
「ありがと、じゃあいってくるね」
涼風ちゃんの前髪をそっと分け、丸いおでこにキスをする。
こんな短時間のうちに、いってらっしゃいのキスと、いってきますのキス、両方をする人間はそうそういないだろう。
「あ、そうだ涼風ちゃん」
「なに……?」
いや、わざわざ言わなくても、普通そんなとこ見ないか……。
「えーっと、あれ」
「鍵、ちゃんと閉めるんだよ」




