13.孤独な二人
今日の彩人くん、やっぱり変だよね?
めったに首を縦に振らない彩人くんが、今日は全部のお願いを聞いてくれている。
もしかして押しに弱いのかな……よし、それなら押して押して押しまくって、勢いあまって押し倒してやる!
「おい、早く入れよ」
「あ、ありがとー!」
彩人くんがこちらを睨みながら、片手で扉を押さえて待っていたので、急いで中に入った。
「結構広いねー。でも、ちょっと明るすぎるかな……」
慣れた手つきで、すかさず照明を暗くする。
「そんな暗くしてどうすんだよ……」
暗闇に乗じて望愛の色香で仕留めるんだよ! 闇討ちじゃー!
「いいからほら、こっち来て!」
ソファー席をポンポン叩いて、隣に座るよう催促する。
「なんでこんな広い部屋で……」
しぶしぶといった感じだが、なんとか隣に座ってくれた。
「え、ちょっと近くない!? 彩人くん結構大胆だね……」
「ぶっとばすぞ」
「うそうそ、もっと近寄ってー」
席を立とうとする彩人くんを、腕を絡めて引き止める。
やばい。もう正直、歌とかどうでもいいんだけど……。
「あーもう好き……好き好き好き好き好き好き好き好き」
愛情を抑えきれず、引き締まった硬い二の腕に激しく頬擦りする。
「急にどうしたんだよ……」
「お願い、一分だけ彩人くんを摂取させて」
呆れたような、長いため息が降ってきた。
それは、「いいよ」って意味だよね?
抵抗しないのをいいことに、彩人くんのシャツに顔をうずめて思いっきり息を吸い込む。
「あーキマるー……嫌なことも全部忘れられるよ……」
「お前、やっぱバカだろ……」
「望愛の孤独を埋めてくれるのは、彩人くんだけだよ……」
「そんな寂しいなら、友達作ればいいのに」
別に、好きで作らないわけじゃない。
「望愛は彩人くんさえいれば十分なのー!」
彩人くんと出会うまで、むしろ友達は多いほうだった。
「俺は別に、お前じゃなくてもいいんだけど」
えっ……?
彩人くんの言葉が受け止められない。
あ、どうしよ笑えない……。初めてだ、彩人くんに傷つけられたの……。
いつもの冗談のつもりなのだろうが、彩人くんの言葉は紛れもない事実だ。
ひとりぼっちは、望愛だけだ。
望愛には彩人くんしかいないのに、どうして……。
「どうして……そんなこと言うの……」
「お前と一緒にされちゃ困るからな。ほら、もう一分たったぞ」
「ひどいこと言ったから延長だよ……」
「なんだよそれ……。今日だけだぞ?」
今日の彩人くんは、いつになく優しい。
それなのに、一度マイナスに傾いた心は、すべてを悪い意味にとらえてしまう。
「今日だけじゃ嫌だよ……。明日も明後日も、ずっと望愛のそばにいてよ……!」
泣きたい気持ちを押さえるために、ぎゅっと抱きつく。
「お願い彩人くん……望愛だけのものになって……」
「なるほどね……」
彩人くんは苦笑いしながら、抱きついた望愛の体をゆっくり引き剥がす。
「彩人くん……?」
「やっぱり、お前みたいな女は甘やかすとダメだわ」




