12.ツンデレ
「美味しかったね!」
彩人くんの言った通り、一品で十分お腹いっぱいになった。
「じゃあ、そろそろ出るか」
「うん、いいよー。えーと、お会計は……」
望愛が伝票に手を伸ばすと、彩人くんの長い腕がすっと奪い取った。
「いいよ、面倒だから俺が払う」
そうなんです。彩人くんは絵に描いたようなツンデレなんです。
「ありがと! じゃあ先に外で待ってるね!」
こういう時は素直に奢られたほうがいいって、この前テレビで見ました。
決して、お財布が寂しいからとか、そんな卑しい理由ではありません。
「どうせすぐ解散するんだから。先帰れよ」
「外で待ってるからね!」
都合の悪いことは聞こえないふりをして、店を出る。
デートなんて次いつしてくれるかわからないのに、そんな簡単に逃すわけないでしょ?
スマホで近くのお店を調べていたら、彩人くんがお会計を済ませて出てきた。
「あ、彩人くん、ごちそうさま! この後どうする?」
「いや、だから帰るけど……」
予想通りの無慈悲な返答。気合いで押し切るしかない。
「ねぇお願い! 近くにカラオケ見つけたから一緒に行こ!」
両手をパンッと勢いよく合わせてお願いする。
「カラオケなんて、知り合いに会う可能性高いだろ」
「駅からも学校からも絶妙に離れてるから、大丈夫だって!」
今日だけは、一歩たりとも引きません。
「そもそも俺、あんま歌とか好きじゃないし」
「彩人くんは歌わなくていいから!」
「だったら、なんのために行くんだよ」
「それはもちろん、望愛のためだと思って、ね?」
合わせた両手を顔の前で握り、猫撫で声でおねだりする。
「……はあ。もうなんでもいいや。暑いから早く行こ……」
今日の彩人くんなら、そう言ってくれると思ってました!
「やったー! じゃあ、望愛にしっかりついてきてね!」
望愛の案内で歩くこと数分。
「着いた! ここだよ!」
なかなか古びた外観のカラオケ店だが、店前に大量のママチャリが停まっているので、変な店ではなさそうだ。
「なんでもいいから、早く中入ろうぜ……」
「うん、そうだね!」
彩人くんが暑そうだったので、急いで中に入ると、店内は意外にも綺麗で、今どきのポップなBGMが流れていた。
「いらっしゃいませ。二名様でよろしいですか?」
「はーい」
「お時間はお決まりですか?」
彩人くんが料金表を確認しようとしたので、慌てて先に答える。
「フリータイムでお願いします!」
「何時間いる気だよ……」
「高校生はフリーで入る決まりなの……!」
「んだそれ……」
ぶつぶつ言いながらも、彩人くんはマイクのカゴとグラスを受け取ってくれた。
「109号室だってよ」
「その前にドリンクバー行くよ、彩人くんこっちこっち!」
ぴょんぴょん跳ねて両手で手招きする。
「ここのボタン押したら、飲み物が出てくるんだよ!」
「あんま舐めんなよ」
珍しくツボに入ったのか彩人くんは素で笑いながら、片方のグラスを差し出してくれた。
「えへへ、じゃあ望愛はオレンジジュースにしよ」
氷を三つ入れて、オレンジジュースを注いだ。
隣を見ると、彩人くんはアイスコーヒーを選んでいた。
「ねぇ彩人くん、さっきは帰らないでくれてありがとね! 望愛、今すっごい楽しい!」
「別にいいよ。最初から帰るつもりなかったし」
ん、どういうこと……? だってさっき……。
「帰るって言ったよね?」
「言っただけだよ」
言っただけ……? 何それ、なぞなぞ……?
「ついでに言うと、お前を帰す気もなかったよ」
「いや帰れって言ったよね!?」
「だから、言っただけだって」
彩人くん、それはもうツンデレの限度を超えてるよ……。
二重人格だよ……。




