2 ハタチを超えてから
ーー古代メソポタミア。
ティグリス・ユーフラテス川に囲まれた肥沃な三角地帯。幾千もの都市国家を束ね、統一国家を作り出し、数多の魔法を操り半神として王となった女、アイーシャ・モハメッド。
そんな彼女は今、現代日本でーーー!
「おーいメソっち、起きろー。朝ごはん机の上にあるから。私大学行くからね」
居候をしていた!
「んにゃ⋯⋯メソっちではない⋯⋯わらわはアイーシャじゃ⋯⋯」
「はいはい。じゃあ行くね」
「いってらしゃいなのじゃ⋯⋯」
ばたん。
1人になるアイーシャ。
「⋯⋯起きるのじゃ」
布団を律儀に畳む。
「ん? なんじゃこれは?」
机にアイーシャが目を向けると、何やら気になるものがあった。
「ラッキーストライク? なんじゃこれは」
手に取って見る。
「いつもレイカが吸っとるやつか。どれどれ、確かこーやって⋯⋯えたーなるふぁいあ!」
ぼっと音を立て、火が灯る。
「もごもごもごもご」
「ふむふむ。これはなかなか⋯⋯ええものじゃ」
(はぁ⋯⋯妾はいつになったらメソポタミアに帰れるのじゃあ⋯⋯)
それからのアイーシャは、割と一日中煙草を吸っていたぞ!
「ただいまー。って臭っ」
帰ってくるなり、レイカが鼻をつまむ。
「おおレイカか、おかえりなのじゃ」
「あ、ただいま⋯⋯ってそうじゃないよ。なんでメソっち煙草なんて吸ってるの?」
「らいじょうぶら、これは吸っても健康には良いらしいからのう。ぷはー」
「いや悪いけどね。てか部屋で吸うな、臭いし賃貸なんだから⋯⋯ねぇメソっち、その煙草何本目?」
「1箱丸々じゃけど?」
「えぇーもう今それしか無いのにさぁ。買ってきて」
「なぜ妾がそんな奴隷のような事せねばならぬのじゃ!」
「いいからいけ」
「あ、はいぃ⋯⋯」
圧倒的な剣幕で言い放った。
ヤニカスはタバコの事になると本気だぞ!
「全くなんで妾がこんな事⋯⋯」
タバコを買ったアイーシャは、コンビニから出てきたところだ。
「⋯⋯お、なんじゃ。あそこで吸っていいのか」
アイーシャの視線の先には、コンビニ前の灰皿でタバコを吸っているおっさんがいた。
歩いていくと、アイーシャは迷わずタバコを吸い始めた。
「うめぇのじゃ」
ふと、隣のおっさんが見てくるのに気づくアイーシャ。
(なんじゃ、このおっさん。人の顔をジロジロみよってからに)
「ちょっとお嬢ちゃん、お話いいかなー?」
目の前にいたのはポリスメンだった。
「ん? なんじゃ?」
「お嬢ちゃん、まだハタチ変えてないよね? だめじゃないか、タバコ吸っちゃ」
「失敬な! 妾は⋯⋯えーと、今2023年だから⋯⋯えーと⋯⋯2673才じゃ!」
アイーシャの身長は138cm!
古代メソポタミアにおいては特段小さな方ではないが、ここは現代日本!
側から見れば小学3年生がタバコを吸っているようにしか見えない!
「じゃあちょっと警察署に行こうか、お嬢ちゃん」
「んなっ、何をするのじゃ! 触るで無いこの畜生が! やめろ! やめるのじゃぁぁ⋯⋯!」
___
「メソっち遅いなー」
プルルルル
「ん? 電話だ。知らない電話番号。はいもしもしー?」
「警察のものですが、田中レイカさんで間違い無いですか? お宅のお子さんね、タバコ吸ってたんですよ」
「お子さん? 私に子供なんて⋯⋯あっ」
全てを察したレイカは、そっとスマホを机に置いた。
「レイカー! 助けてくれぇ!」
受話器越しにアイーシャが叫ぶ声が聞こえたが、レイカは考えるのをやめた。